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第二十二話 従魔の約束を叶える

 目の前には堅く閉ざされた村の門がある。


 俺は《コンテナ》から、「RPG-7」という対戦車ロケットランチャーとして有名な武器を取り出した。


「「「おぉーーーー!!!」」」


 明らかに銃とは違う形の武器に従魔たちも興奮している。特にドラドの喜びようがすごい。


 後方確認した後、門に向かってぶっ放した。


 轟音を鳴らし吹き飛ぶ門に巻き込まれたのか、門の周囲にはエルフが数人倒れ伏していた。

 わざわざRPG-7を使ったのは、明確な意思表示のためだ。王女が大切にしている存在だから配慮していただけで、オラクルナイトに虚言を吐き、王女を裏切った時点で容赦をするつもりはない。


 不器用ながらに一生懸命に伝えたのだ。


「さて、村長はどこかな?」


「なんということを……。貴殿は悪魔か何かか……? やはり……見た目通りということか……?」


「おや? 村長が言うことですか? 老人が生き残るために若い娘を売り渡しているのに? 情報が欲しくて村人を拷問したり、人間と組んで私腹を肥やしたり?」


「何を言うかと思えば……」


「豚みたいな貴族の馬車で契約書を見つけてしまったのですよ。大義名分など最初から関係なかったのでしょ? とっくに廃墟街の下部組織として活動していたんですから」


「……」


『あったよーー!』


『ありがと!』


 ずっと感じていた違和感……。それは砦みたいな造りの村だ。

 味方を削ぎ王女の監視をするということは、王女の身柄を引き渡すことは当初から決まっていたことだと予想できる。


 では、急ごしらえながらも砦のような造りになっている外壁は何故造ったのか。

 魔物対策にしては低すぎる外壁は資材の無駄である。


 つまり、他の役割があるということだ。


 この仮説を証明するためにカグヤたちを派遣した。結果、証拠がザクザクと出てきたらしい。


「砦は倉庫兼牢屋兼秘密の通路だったんですね」


「――まさかっ!」


 ドラド以外がいないことに気づきキョロキョロと辺りを見渡す。

 もう手遅れだけど。


「我々も急いでいますので、村長には最敬礼で祈りを捧げてもらいましょうか」


「それはいったい――」


 右手に持っていたHK45Tの引き金を二度引き、村長の足の甲を撃ち抜いた。


「――あぁぁぁぁぁ!!!」


 蹲って足を押さえる様が土下座に見えなくもない。


「それではごきげんよう」


 マップで王女の位置を確認すると、少しずつだが動いていた。

 今日中に森を抜けるのは無理だから、村から離れた位置で野営するつもりだろう。


 予想に過ぎないが、油断している早朝に村を襲撃すると思う。

 俺たちの情報が伝わる前から部隊を分けている時点で何かしらの作戦行動がなされていて、廃墟街の住人という案内人をつけてまで身を隠そうとしていたのは、予備戦力を隠して挟撃したかったのでは? と仮説を立てられる。

 そもそも身柄の引き渡しだけなら部隊を分ける必要はないしね。


 パー・プーさんは伝令に使われたはずだ。言わなかったけど。


 村長の性格からして、【聖王国】の兵士が俺たちに殲滅されていることは言っていないだろう。仮に言っていたら、村の中は地獄絵図になっているはず。


 友軍を攻撃されたというのは、十分すぎるほどの大義名分だからだ。


「どうやって行くんだ!?」


「乗り物を出します!」


「やった! あの子には悪いけど……お礼を言いたい!」


 ドラドは大はしゃぎしている。


「まだ改造してないから、狭いかもしれないけど我慢してね」


「良い良い! 乗り比べができるってことだもんな!」


 ご機嫌だな。


「シートに座れるとしたら一人だけかな」


「……何で!?」


「ボディーアーマーの分、シートを後ろに下げるから後ろは狭くなるんだ。だから、いっそのこと後部座席は倒してしまおうかなって。そうなると空いているのは助手席だけになる」


 狭くて座れないなら倒してしまった方が、蜘蛛の下半身を持つカグヤも座りやすいだろう。


「なぁ! ティエラ! いいだろ!?」


「うーん……」


「ミートパイ!」


「……と?」


 ティエラがチラリとカグヤを見る。


「イチゴのタルト!」


「やったのーー!」


「いいでしょう!」


「やったぞぉぉぉぉ!」


 俺が《ガレージ》から目的のピックアップトラックを取り出している間に従魔同士で取引が行われ、ドラドは助手席に座る権利を手に入れた。


 ドラドが座るなら、ドラドの分もシートを下げないと。ぽっちゃりさんだからね。


「じゃあ出すからね」


 ワクワクが止まらないドラドは少し興奮気味だ。96式装輪装甲車は動かなかったからな。


 ……期待が重い。ガッカリさせたくはない。


 若干憂鬱になりながらも、《ガレージ》から目的のピックアップトラックを目の前に出した。


「「「おぉーーーー!!!」」」


「すごいぞ! カッコいいぞぉぉぉ!」


 良かった。


 今回というか、テクニカルとして使用する予定の車両はグ○ディエーターに似ている。

 ゲームのイベントで入手した車両だが、ボッチの俺は専らバイク派だったため死蔵されていた。異世界に来て初めて日の目を浴びることになったのだ。


 一応細かい仕様も選べたから、当時は乗るつもりでグレードやオプションを選んでいた。

 最後は面倒になってオプション全部載せの、AT車という一般的なものに落ち着いたけど。


 色や細かい設定は《ガレージ》で変更できるから、後でまとめてやるとしよう。


「じゃあ乗って!」


 シートの準備をしてから乗るように促していく。乗ったことを確認したらドアを閉め、俺も乗り込んだ。


 ちなみに、左ハンドルだ。

 前世では数えるほどしか乗ったことがないからおっかなびっくりである。


「これは何だ?」


「これは……」


 グ○ゴー先生とリンゴ商会のスマホと接続することで、地図とか使える多機能ディスプレイだ。

 スマホがない世界では無用の長物なのに再現したのか?


「――まさかっ!」


 胸元から神スマホを取り出し、ディスプレイの門扉のアイコンをタップする。

 すると、ナビの上部から祭壇に似たスタンドが現れた。おそらくここに神スマホを差し込むのだろう。


 ケースを閉じたまま差し込むと、ナビのディスプレイに扉が表示され、そこから神スマホにいたはずのデフォルメされた神様が出てきた。


 めちゃくちゃ凝ってるけど……そのせいでリソースが不足しているんじゃ……。


「……とりあえず出発するから、しっかり捕まっててね!」


 久しぶりの運転だから多少は荒くなってしまうことだろう。しかも森の中という悪路。

 いくら走破性が高くとも安心安全とは行かないのだ。


「う、動いたぞーー!!! すごい! 速いぞ!」


「本当に……馬なしで動いてる……」


「楽しそうなのーー!」


 ドラドは念願が叶って大はしゃぎしている。

 ティエラも窓の外を見て動いていることに驚いているようだった。

 カグヤは早速運転したそうである。

 時間があるときに膝に乗せて体験させてあげよう。


「……ちょっと試してみるか。『Oh God! 迷える子羊をマップ上にマークして!』」


「……何言ってんだ……お前……」


 ご機嫌だったのに……。

 視線が冷たい……。


『子羊マークで表示します』


 バッ! と音がしそうな勢いでディスプレイを見るドラド。


「ノリで言ってみたけど、何でできるんだろうか? マーカーを打ち込んでないし、発信機もつけてないのに。『Oh God! 表示された理由を教えて!』」


 ちなみ、合言葉は神様のアイコンが吹き出しで教えてくれた。『神よ』って意味らしい。


『体液交換をした際、わずかな量のナノマシンが体内に侵入したためです』


「はぁ!? してないし!」


 この質疑応答の間も道なき道を爆走している。といっても、この世界の基準で考えた速度で、森の中で速度を出せるはずもない。

 安全運転第一で運転しているが、このときばかりは事故りそうになった。


「……殴られたときじゃないのか? あの子も手を押さえてたから、手を怪我したんじゃないか」


 まだ動揺しているようだが、答えを教えてくれるほどには回復したようだ。


「よかったぁ。じゃあ現在の体調も分かるかも! 『Oh God! 迷える子羊の体調を教えて!』」


『画面に表示します』


 運転中だから読めないし……。


「『Oh God! 読み上げ機能をオンにして!』」


『……〈ルシア・ユッグ・アルカ〉九〇歳の身体情報です。現在は疲労、栄養不足、魔力封印状態、四肢の拘束状態です。外傷は多数。欠損なし。病気なし。城門は無傷です』


 年齢が気になるところではあるが、それよりも気になる部分がある。


「……体調のことを聞いていたはず。城門って何?」


 ――アレか? 貞操が無事って言いたいのか? サイコパス神だから、無意味な気遣いとかやりそう……。


「城門ってなんだ?」


 そしてそれを掘り下げようとするドラド……。


「バカね……。貞操のことでしょ」


「ふーん……、城門って言うんだな」


「……この機械だけだよ」


 誤解したままだとフラグになりそうだから、即座に否定する。


「なんだ……そうなのか」


「そんなことより、まだ無事でいるみたいだし、少しずつ移動しているみたいだから、簡単に作戦を決めよう!」


「殲滅作戦だろ?」


「そうだけど、今回は奪還を最優先にする。王女がいると流れ弾が怖くてたまらないし、人質に使われたら詰むからね」


 自己犠牲の精神を持っている彼女なら、自分のせいで誰かが傷つくとか、他の誰かのための犠牲だと言われたら断れないだろう。

 たとえ、それが守られない約束だと分かっていたとしても。


「こっちの部隊の方が進みが遅いのは、ほとんどが歩兵で道が悪いからだろうな。天界ツアーに行った方は馬車が通れる道幅があったしね」


「馬車が多ければ隠れられて、少しずつ減らせたのにな。ちょっと難しそうだぞ」


「そこで、ティエラの魔法を使って潜入する。王女を確保した後は機関銃の十字砲火で殲滅する」


「死体の損傷はどうするんだ? それにディエスに魔法の効果はないけど、どうするんだ?」


 そうだった……。


「死体は、面倒だから気にしない。それと、魔法は魔物素材を使えばいいんでしょ?」


「そうよ」


「馬車にあった毛皮でもいい?」


「うーん……、長い時間は無理よ? 処理された後の毛皮だし、専用の処理じゃないからね。早く終わらせるのよ?!」


「分かった! ありがとう!」


「いいのよ。それで、わたしは?」


「カグヤも」


「ティエラは魔法以外にはグレネードの雨を降らせてもらう。それとトドメ大会ね。カグヤは指揮官と逃亡者の狙撃ね。あと、俺とドラドのフォローをお願いね!」


「任せて!」


「頑張るのーー!」


 いつもならなでなでモフモフするのだが、今回は我慢するとしよう。


「おれも潜入でいいのか?」


「ドラドがいた方が王女も安心すると思うよ」


「そうか?」


「また明日って言ってただろ?」


「それもそうだな! それにまだ戦勝報告をしてないもんな!」


 あのしつこさも無駄ではなかったのだ。

 ドラドには少しだけ心を開いていたように見えたからな。


「じゃあ車を降りようか。もうすぐ斥候とかち合うだろうし」


「……もう少し乗っていたかったぞ」


「またすぐに乗れるからさ」


 渋々といった感じで納得してもらい車を停めると、いつの間にか神スマホにアイコンが戻ってきていた。


「……降車して」


 いざ、後半戦! 行ってみよう! 



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