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第二十一話 神託騎士は再会する

 立っている者はいなくなったが、マップ上にはまだ赤い光点が残っている。だから、まだ終わりではない。後片付けが残っているのだ。


『トドメ大会を開催します!』


『おれはどうする?』


『Five-seveNを使って参加して』


『分かった!』


 M2重機関銃を撃てたおかげか機嫌が良い。


『カグヤたちも参加した方がいい?』


『お願いします! ティエラにはFive-seveNを渡すね!』


 拳銃やライフルくらいなら、ゲームのイベントのおかげで重複して持っているものがある。

 カグヤは俺とお揃いだから、ティエラとドラドもお揃いにしてあげた。まぁ本音を言えば、P90と互換性がある弾丸だから節約になると思ったのだ。


『はーい!』『わかったわ!』


 魔法円盾を停止し、輜重部隊を襲撃したときのように振動ブレードとHK45Tの組み合わせで介錯していく。

 みんなも森から出てきて参加し始める。


 死体の陰や下に隠れてやり過ごそうとしている者たちもいたが、マップに表示されているので見落とすことなく作業を進められていた。


 手が届く場所はブレードを使い、血の海を渡らなければいけなかったり、死体の陰に隠れている者たちは銃を使っていく。


 十分もしないうちに片付けが終わり、補給物資の回収大会を行った。

 この作業は魔法を使えるドラドと二人で行い、ティエラとカグヤの二人は周辺の探索に行ってもらう。例の二人組みたいな者たちがいないとも限らないからね。


 しかもエルフの村に近いせいで、エルフと区別するのが難しくなっていた。

 だから、偵察のスペシャリストである二人に確認してもらうことにしたのだ。

 代わりに、俺たちはお掃除に精を出す。


 まずは活躍してもらった96式装輪装甲車を《ガレージ》に格納し、未使用の地雷を《コンテナ》に戻す。

 次に、地面に寝具を敷いてエルフを寝かせ、幌馬車に積まれている物資を全て《コンテナ》に収納した。

 続いて、細かい破片をトーチカの穴に落としていく。馬車に積まれていた鍬も使って、染み一つ残らないように浄化槽代わりの穴へ落とす。 


 最後に死体を箱馬車二台と幌馬車四台に積んでいく。馬車に積まれていた食用油を死体にかけ、残りの油樽を死体で囲んで固定する。油樽にはC4爆弾を設置した。

 ついでに、箱馬車に積まれている方々同様に、装備を含める全ての補給物資を回収する。

 お金や金目のものはともかく、装備は欲しいわけではない。ただの証拠隠滅で、インゴットにして再利用する予定だ。


 これを全部で六回行い、片付けが終了した。

 棺桶であり焼却炉でもあるようにカスタムされたスーパーな馬車は、ニトロを積んだタンクローリーみたいなものだろうか。


 火気厳禁の危険な車両である。

 幸い、C4は火災では起爆しない。火災だけなら被害は死体の損傷だけということだ。


 ちなみに、載せきれなかった死体に関しては、病気対策に穴の中で燃やした。

 オラクルナイトが戦ったせいで疫病が発生したとか言われたらたまったもんじゃないからな。

 掘った穴や削れたところに土を被せれば、戦闘が起こったことさえ分からないほどだ。……よく見れば分かるけど。


「ドラド、浄化魔法みたいなのはないの?」


「それは高位の魔法だから、おれは使えない」


「じゃあここみたいに汚い場所や、俺たちみたいに汚れたら?」


「汚物の処理はすごく貧しい村でなければスライムの浄化槽を造って、その中にスライムを入れて処理するらしい。体や物の汚れは洗うだけだ。村は濡らしたもので拭ったり行水したりだけで、都市レベルになると風呂の施設があるらしい」


「……マジか」


「おれたちは風呂の施設に入れないからな」


「何で?」


「は? 何でって……おれたちは従魔だろ? 人間しか入っちゃいけないんだ! 差別する都市では人族(ヒューム)限定ってところもあるぞ!」


 何だと……。俺の至福の時間を奪うのか……。


「なら入らなくていいんじゃないかな。コテージには風呂があるし」


「ちょっと狭いけどな」


 そうなのだ。壊したコテージを神様仕様の効果をつけて復元しただけだから、全ては人間二人が住んで困らない程度の広さしかない。


 カグヤからもお願いされているから、居住用の《コンテナ》に大きな浴室をオプションでつけないとな。

 それとも浴室専用の《コンテナ》を作るべきか。エステ付きとかいいよね。……封印されている機能が必要だから使えないけど。


「風呂のことは任せて! 装備は整備用の《コンテナ》に入れれば、リセットされる代わりに綺麗になると思うよ」


「リセット!? 消えないのか!?」


「消えないけど、初期設定になるから装備し直さないとね。あと、まとめてリセットすると本体以外の物は収納されるから、個別に外してからの方がいいかも」


「そうか。よかった」


 そうだった。主計長だったな。

 リセットしたら装備を買い直さないといけないと思ったのかもな。


 とりあえず気持ち悪いからグローブだけは綺麗にしておく。ドラドも使い捨ての手袋をつけていたから、ゴミ箱に捨てていた。


 再びグローブをはめ直したところで、探索に出掛けたティエラとカグヤが帰ってきた。

 一台の幌馬車に乗って。


「遅くなってごめんね! お馬さんが暴れちゃって大変だったのーー!」


 そういえば調教が必要だったな。


「お疲れ様ーー! 怪我はないよね?」


「えぇ! もちろん!」


 馬車を降りて駆け寄ってくる二人をなでなでモフモフする。このために救急箱から出した消毒液で消毒もしておいたからね。


 ドラドも手に揉み込んでいる最中だ。

 その仕草が可愛いのなんの。

 殺伐とした殲滅作戦の最中に和む時間を与えてくれる天使たちだ。


 両親が言っていた、『力に呑まれるな』という金言を思い出して自戒するには十分な時間だ。


「さて、これは何?」


「人身売買の証拠よ!」


 幌をめくり馬車の中を覗くと、そこには見たことがある顔があった。

 異世界に転生したばかりの俺が知っている顔は多くはない。それもエルフでなければ【聖王国】兵士か、覗き魔ともう一つだけだ。


 そのもう一つは世紀末風の廃墟街の住人のことで、馬車に乗っている者たちのうち一人は俺が首を絞めた人物だった。


「あぁ……パー・プーさんか!」


 どうやら気絶させられているようで、ロープで縛られた四人組はグッタリとしたまま横たわっていた。

 そのさらに奥には女性のエルフが首輪をはめられ、鎖で拘束されていた。しかも二人も。


 なるほど。確かに人身売買の証拠だ。


 それにしても、殲滅作戦の裏で何やってるんだ? 大人しく引きこもっているはずだろ? 殲滅作戦が終われば人身売買の大義名分を失うんだからさ。


 廃墟街が犯罪者の町だったとしても、筋を通さない行動を繰り返せば、自分たち以上の者に食い物にされて潰されることになるはず。

 あのボスは分かっていそうだったけど……違ったのか?


 なんか嫌な予感がしていたけど……まさかっ!


「ドラド、コイツらを引きずり下ろすのを手伝ってくれ!」


「分かった!」


 木箱を四つ横一列に並べ、そこに持たれかけさせていく。


「おいっ! 起きろっ!」


 なかなか起きないため、指揮官が使っていた紋章入りの剣を太腿に突き刺した。


「うがあぁぁぁ……っ!」


「おはようございます。目は覚めましたか? お久しぶりですね?」


「お……おまえ……【落ち人】……」


「滑らかに話していただけますか?」


 剣をグリグリする。


「があッ……」


 パー・プーさんの体がビクビクと跳ねる。


「二度目ですね? 二度目のあなたは前回のように優しくするつもりはありませんよ? 分かりましたか?」


 コクコクと顔面からあらゆる汁を流しながら頷く。


「では理解してくれたところで、もう一つの【聖王国】の部隊にいたと思うのですが、部隊がエルフの村を離れたのに、何故エルフを載せてこちらの部隊に向かって来たのですか?」


「……」


「あれ? 聞こえていなかったかな?」


 太腿に突き立ったままの剣の柄に手を伸ばすと、焦ったようにしゃべり出した。


「エルフ! エルフ! エルフを回収したから!」


「――それは、以前町で絡んでた女性か!?」


「……そうだ」


 あのクソエルフがッ!


「じゃあこの馬車に乗っているエルフは!? それと【聖王国】の貴族の馬車に乗っていたエルフの女性は!?」


「……」


「立場が分かっていないようだな?」


 もう一つ紋章入りの剣を取り出して、横に並べた仲間の首に切っ先を突きつける。


「お……おいっ! 何をするつもりだ……!」


「滑らかに話せる魔法の道具を使おうと思って。道具の名前は『地獄への片道切符』という」


「まっ――」


 最大出力にしたパワードスーツの力で一気にハンドガードの根元まで突き刺した。


「あと二本用意した。仲間を生かすも殺すも自分次第だ」


「キサマァァァァ……!」


「それが答えか? 二人目まで早かったな。今回は助けてくれるボスはいないぞ?」


「あぁぁぁぁぁ……ま……待って……」


「待たない」


 二人目も同じように突き刺していく。なんか黒○げ危機一発をやってる気分だ。


 その頃になると最後の一人が目を覚まし、首元から剣の柄を生やした仲間の姿を見て困惑している。


 コイツを残したのはパー・プーさんの右腕的な存在で、町でも神官の外套だと気づいた人物だからだ。


 最悪、パー・プーさんを人質にして話を聞けばいい。


「話しますか? 黙秘しますか? 罵倒しますか? 好きなものを選んでください」


「どちらのエルフも例のエルフの味方だ……。最初の方は猶予を与えるために要求したエルフで、今日回収した方は引き渡しを妨害したエルフらしい」


「それにしては人数が少なくはないですか?」


 村の中をマップでさらったときに赤くならなかったエルフが結構いた。

 それどころか王女に晩ご飯を御馳走した後には、好意的感情を持つ者や味方を表す緑の光点が増えたほどだ。


「身代わりや生贄は少しずつってことだろ……。それから、反抗したり妨害したりした場合は女性を引き離して引き渡すようにしている」


 なるほど。そうやって少しずつ味方を削り、王女の心を潰していったのだろう。なかなか手が込んでるじゃないか。


「詳しいな。……誰の提案だ?」


「うっ……」


「部下との命を天秤にかけているのに言わないってことは……ボスか! 彼にはいつかあいさつしに行かないとな!」


「助けてくれっ! 俺たちは命令に従っただけだっ!」


「もちろんですよ」


「本当か!?」


「えぇ」


 今すぐ殺さないだけで、助けるとは言ってないけどな。

 一応二人にはドラドが開けてくれた穴のうち、未使用の方に入っていてもらう。トーチカの方と96式装輪装甲車があった方は、死体処理用に使ったから埋めてしまったのだ。


「すみません。エルフさん、ちょっといいですか?」


「……」


 幌馬車の中の女性二人に声をかけると、絶望の中にほんの少しだけ警戒を込めた視線を向けてきた。


「我々はこのあと王女を助けに行かなければいけないので、敵兵から救い出したエルフ女性の手当てと、犯罪者が逃げたり死んだりしないように監視していて欲しいのですが……手伝ってくれますか?」


「――殿下を……ルシア様を助けに行ってくれるのですか!?」


「もちろんです! 取り返しがつかなくなる前に救い出したいのです!」


「是非! 是非協力させてください!」


 色よい返事をもらったので振動ブレードで鎖を断ち切り、兵士からもらった武器を手渡す。

 その際、パー・プーさんから奪った鍵を使って首輪を外し、逆にパー・プーさんにつけた。


 不安そうな顔をしていたが、後顧の憂いをなくすための処置だ。


「それじゃあ、まずは村に行こうか!」


「「「おぉーー!!!」」」



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