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古今東西御伽噺ベースの物語

かぐや姫 〜彼はかく語りき〜

作者: いくしろ仄

眉間が痒い。


髪の毛が一本、さっきから顔を刺激していてそれが物凄ーく痒い。


私の目の前にはこの国の王様の立場の人間が御簾越しにミリ単位……いや、センチ単位で私の方へとにじり寄って来ていた。


扇で顔を隠せば、いけるか?


恥ずかしそうにしているのだと見えるように顔を斜め下方向に俯け加減にしてから顔の痒い部分を扇で隠してボリボリとする。

あーあ、痒かったぁ。



私の今の名前は『かぐや』。ご大層にも『かぐや姫』などと呼ばれている。元公爵令嬢としては、お姫様扱いはまんざらでも無い。

私は異次元転移の刑に処せられ、その刑の中でも重い『魔法の無い世界で生きる刑』とされて、この世界へと飛ばされた。

この世界に赤ん坊の姿で飛ばされた私だったが、魔力が身体に宿っている所為でこの世界の住人達には私が光輝いて見えるようだ。





自身では何も抵抗出来ない様にとこの世界に赤ん坊の姿に変えられて籠に入れて飛ばされた後、三つ叉になった竹の間に挟まる様にして私はこの世界に置かれていたらしい。

それはまるで竹に守られる様にして。


竹藪に入っていたお爺さんは私から発せられる光に導かれるようにして私を見つけたと後で聞いた。

そして、私を取り囲むように生えている竹を切ってお爺さんは光輝く私をそこから取り出した。


私が光り輝いていたのは身に宿る魔力の巡りと、包まれていたこの世界には無い虹色の織物の所為だろう。

私の居た世界の魔虫の糸を使って織り上げられたその布の輝きも遠くから発見出来るほど私を光らせた原因の一つだろうと推察された。


私を家に連れ帰ったお爺さんとお婆さんは私に名前をつけてくれた。

この世界での言葉でかぐやびと、『輝く人』という意味で『かぐや』と。


元の大きさに戻ろうとする力が働いているのだろう。成長は早くあっという間に本来の大きさに戻った私はいつの間にやら『かぐや姫』と、こちらの世でそう呼ばれる様になった。


私からしたらその名で呼ばれると『嗅ぐや姫』って脳内変換されてしまうから、あんまり好きな名前じゃない。……私、臭くは無いと思うんだけど、やたらに香を焚きしめられるのは実は、なんて事無いよね?!


大きく美しく成長した私。噂が噂を呼び、家には求婚者が列をなす。

そうよねー。私、見た目も悪くないし、そこそこ男性にモテると思うのよー。なのに、ねー。冤罪をかけられて王子から婚約破棄されて。

挙句、異世界追放の刑にだなんて……ふざけているとしか思えない。真実の愛ってナニ?それ、美味しいの?少なくとも私には苦い物だったわ。




この世界の王様に当たる人間が御簾の向こう側に訪れる前に現れた求婚者達にはある物を持ってくる様にと伝えた。それを持って来れたなら、私はその方の求婚に応えましょう、と。

それは全部こちらの世界のものではない。私の元いた世界のものだからそれをもしも、持ってこれる者がいたなら、それは私の居た世界の人間と言う事。私が流されて来たのだからもしかしたら他にもいるかもしれないと考えた。

外に出て簡単には元の世界の人間を探しに行けなくなってしまった私の取った方法だ。




遠隔鏡通話魔法など無いこの世界。私の容姿に関する噂は噂を呼び、私の送り込まれたこの世界の王子どころか帝と呼ぶらしい王様まで求婚にくる始末。

もう、前の世界の婚約者に未練は爪の先ほども無いけれど、本当の私の事を知らずに求婚してくる人たちと一生仲睦まじく暮らせるとは思えない。


それに、権力者はもう御免だ。

帝など奥様がいらっしゃるとゆうのに、ただ美しいからというだけで私を御所望の様子だ。それでは歳をとって今よりも衰えて醜くなってしまえばどうなるのだろうか?

元婚約者の様にまた真実の愛が見つかったからと私を捨てるのだろうか?

次から次へと求婚に来る者達はみな私を美しいと褒めそやす。


ーーしかしそれだけだ。


強引な者などは御簾を持ち上げ私の手首を掴んで連れ帰ろうなどとする。

幸いな事にこの世界でも私は魔法を使うことが出来る事を知っていたからこっそりと使用して毎度事なきを得ている。


この世界の人は魔力を知らないし殆どの人間は魔法を使えない様子だ。私はこの世界に流された時、運良く身体に魔力が篭っていたお陰で今でもこうして魔法を使う事が出来る。

そして、少ないながら式神とやらを使役する人間も居るという話からも、どうやら私の居た世界よりもかなり薄いが魔法の素がこの世界にも存在しているようだと分かったから。





まだ小さな頃にお爺さんとお婆さんのもとで働く男の子に、よく私の魔法をこっそり見せてあげた。

まだその頃はこんなに屋敷も大きくなくて屋根の傾いた家にはお爺さんとお婆さん、その孤児だという男の子とそして私の四人で暮らしていた。

お爺さんとお婆さんは、自分達が歳をとって生活がままならなくなっていく事を案じて、その男の子を引き取ったのだと誰かが私に教えてくれた。

実際男の子はお爺さんとお婆さんしか居ない私の連れ帰られたあの屋敷でお手伝いをして暮らしていた。チビだった私と良く遊んでくれた彼は私の幼馴染と言っても過言では無いだろう。



帝からの使いにより、今住むこの立派なお屋敷に私達は移された。

その屋敷へと押し寄せる求婚者。


私は彼らにいつもの無理難題を申し付け、お引き取り願った。私に会いに来た人が私の世界と行き来出来る人間ならば、その無理難題は難題でも無理な事でも無くなる。

彼らに私の伝えるものは向こうの世界ではありふれた普通の物で普通の事象だったから。



私はいつものように傍らに侍るお婆さんに顔を寄せ、扇で顔を隠しながらぽそぽそと話す。元の世界の記憶のある私が変な事を口走ってしまわない様に。


私の両脇には常にお爺さんとお婆さんに控えてもらっており、二人には通訳みたいな事をしてもらっている。何故か流刑罰の仕様なのか、この世界の人間と言葉は不自由なく通じるのだけれど、異世界から来た私の言葉は時々おかしくて直接誰かと言葉を交わさないように気をつけていた。









そんなある日。


褥に横たわる私に私の罪が冤罪だったと連絡がくる。どうやら保険をかけて所在がわかる様にと私に“紐”をつけてからこの世界へと送り出したようだ。……勝手だ。私はなんだか面白くなかった。


冤罪が晴れて罪を犯していなかった私を迎えに来るという。……勝手だ。どうせなら自力で帰りたかった。私の能力は魔法に限れば王族よりもある。この世界の魔力を紐解き、いつしか自力で帰ってやる!と静かに闘志を燃やしていた。無駄に燃やした燃料が勿体ないから是非返して欲しい。



今更許してくれといわれても無かったことに出来る訳が無い。あんなアホウな王子、こちらから願い下げだ。大体、私にはもう好きな人がいる。連絡の入ったその頃にはもう私はこの世界でその人と暮らしていく覚悟を、無意識ではあったが、あの世界に帰る事をやめてこの世界で生きて行こうと腹を決めていたのだ。

思えば私は積極的な手立てをなにも講じていなかったのだから。



だが、一方的な連絡で次の満月の夜にゲートを開いて私を連れ帰ると言う。……勝手だ。帰る日にちすらも一方的に決められる。

その事をお爺さんとお婆さんに(悔し)涙ながらに伝えると瞬く間に帝まで話が伝わり、私を守るためと屋敷の塀の外も中も武装したもののふで一杯になってしまった。

戦の炊き出しは金がかかると聞いたが、一体誰がそれを賄うのだろうか。私は守ってくれだだのと一言も言っていないから他の誰かに払って欲しい。



自分では身も守れない赤児の私を保護して育ててくれた優しいお爺さんとお婆さん。変な知識をもち、変な魔法を操る私を忌避せずにお兄ちゃん風を吹かせながらもずっと見守ってくれた男の子。

私にとってこの世界もいつも間にやら私の故郷となっていた様だ。

私は三人との強制的な別れが哀しくてさめざめと泣き暮らしていた。


御簾の向こうに入れ替わり立ち替わり訪れていく武装も煌びやかなもののふや弓を携えた高貴な人達からかけられる言葉もなんの慰めにもならない。

私は気がついてしまったのだ。強制された別れが近づいてきたこの時に。私は私の幼馴染みの男の子を好きになっていた事に気づいてしまっていたのだ。


そうか、だから私はこの世界で生きることを決心出来たのか。私は自分で自分の気持ちをようやっと知ることが出来たのだ。……随分遅い気づきだったけれど。


今生の別れがいよいよ近づいたある晩、私は魔法を駆使してこっそりと彼に会いに行った。せめて彼にこの気持ちを伝えておきたいと思ったから。







刑で飛ばされた時は一人。人気のない様な場所に。


な の に。

どうした事か、屋敷の傍に開かれたゲートからは次から次へとパレードの如く煌びやかな衣装を身に纏った見目の良い近衛騎士やら筋骨隆々の逞しい騎士の方々が流れ出てきた。

それだけでも驚きだったのに、何故かこれも煌びやかなドレスを身に纏ったお嬢様方もいる。


多分、私の流された地を見てみたかったのだとは思うけれど……。

流刑地に観光気分でやって来ないで欲しい。


一際美しい衣装に身を包んだ女性……王妃様、アンタなんで来たんですか?……が進み出て私の手を取る。


先程から一斉に矢をいかけたり、槍を突き刺したり、刀で切りかかったりしているが、みんな魔法で結界やら身体強化やらしているからそんな蟷螂の鎌みたいな攻撃、効くわけも無い。

遮二無二攻撃を仕掛けてくるこの世界の人間をまるで居ないかの様に扱いながら。



この世界がどんなところか分からないから護衛の為に連れてきたという雰囲気がありありですね。そうですね、私一人をお迎えにわざわざパレード組むわけ無いですね。王妃様が居ればより一層警備とか、身の回りのお世話する人間とか……、もう何も云うまい。



私は元の世界に帰るにあたり、葛籠を幾つか持ち帰る事を承諾させた。


私は矜持を傷つけられ貶められ無い罪をあがなわされた。この世界から帰る時にすから、そのタイミングを選ぶことすら叶わなかった。

その上、この世界で手に入れた私の財産を取り上げるのか?そのつもりなのか?とゴネ倒したら、王子に冤罪をかけられて要らぬ苦労をさせられた私のささやかな望みを、こちらに非はあるからと最終的に王妃様が認めてくれた。



葛籠の中に隠して、衣服などに紛れさせて連れて行く。

あの夜、彼と交わした約束。

彼も私を好きだと言ってくれた。これから行くところがどんな所かわからないがそれでもあなたと共にありたいとそう、彼は言ってくれた。







私の父も母も弟(遠い親戚の子で血のつながりは無い)も。私の事を一つも信じてくれず、王子たちと一緒になって私を責め立てた。

私の家族はもう彼らでは無い。

あちらの世界に残してきた優しいお爺さんとお婆さん、そして私の愛する彼だけだ。


私は弟を追い出し、この家を継ぎ、父と母を領地、ではなく、王都のタウンハウスへと追いやった。

領地にいるこの私が実質、公爵家を握るモノとなった。

ざまをみなさい。


お父様、お母様、ご心配召されるなかれ。ちゃんと貴族として体面を保てる様に社交と生活に必要なお金は送ってあげるわ。

ーーお小遣い制、ね。




段々とこの国の貴族達は見栄を張るために借金を重ねる様になり。

それは王家も同じ事で。


そのうちに商人が台頭してきて、お金持ちの半数は平民となってきた。

残りの半数の貴族は私たちの仲間たちで、権力を振り翳し我を通したりせずに平民を見下したりしてこなかったものばかり。

ーーざまをみろ。



魔法の無い世界での農業やお爺さんのやっていた事は、こちらでも通用し、魔石や魔力を使用しない新しい方法を駆使して、私の治める領地は潤った。


その後。

古い付き合いの信頼のおける商人に預けていた彼、他の貴族から見たらどこの馬の骨かわからない彼と私は結婚した。

あの私を包んでいた虹色に輝く布は、赤ん坊に変えられて何処とも知らない場所に堕とされる私に、せめて身体を保護して更に誰かに拾われやすいようにと、その商人がわざわざ私のためにと価値のある布を用意してくれたものだった。

赤ん坊に変えられた私は喋ることは出来なかったが、誰が何を話していたかは理解し記憶出来ていた。





王妃様から財源の確保について相談をうけたから、古馴染みの商人と会わせてあげた。王家の人間もこれからは贅沢三昧をやめて少し考えてからお金を使い、ちょっと無駄を省いて節制を覚えるがいいわ。

ーー出来るものなら、ね。


彼を連れて帰る事ができたのは王妃様のおかげでもあるから、王妃様がご健在のうちは私は王妃様の力になってあげる。

しかし、あのアホンダラ王子の代となればその限りでは無い。


あなたたちはこの国の人間に養ってもらっているの。わかるかしら?彼ら彼女らの納める税金で養われて暮らさせてもらっているのよ?

それがわからないようなら、権力者としてではなく国の象徴、お飾りとしての王家となってもらうしか無い……その時は、あなたたちもお小遣い制、ね。







涙ながらにさよならをした、お世話になったお爺さんとお婆さんには身体強化、結界の力が付与された指輪を渡してきた。

これで二人は、動物が元となる病にかかったり、盗賊に襲われて刀できられたり、たとえ矢をいかけられたりしても大丈夫だろう。……安心だ。




私がこの地を去ることにより不利益を被らない様にと思ってもここから居なくなる私にはこれくらいしかしてあげられないと考えての事だ。

 

嫌がる私の意を汲んで婚約者になろうと押し寄せる者達を押しとどめてくれていたお二人には、冤罪をかけられて飛ばされた先の世界で良くして頂いて、小さくされた私を育てて下さって感謝の気持ちしか無い。











俺は天女に恋をした。『異世界』からやってきた彼女に。人とは違う成長を遂げ、この世のものとは思えないほどの眩い美しさの君は、もうすぐこの下世話な地から天に帰ってしまうと云う。



彼女はこの地で世話になった老夫婦に、別れを惜しみ天の宝を与えた。それは人には過ぎたる天の玉の指輪。

そうして彼女は天へと昇り、俺は彼女について行った。天の兵どもにバレないように彼女の荷物の中に潜んで。


しかし。

俺の元いた世界で老夫婦がその後、その指輪の所為で鬼、モノノ怪と恐れられるのか、仙人、天上人、はたまた神と崇められる事となるのか。


それは異世界に帰る『かぐや姫』の預かり知らない物語。


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