第001話
2100年、宇宙からの異星人の侵略者達、通称アンクリアにより世界の三分の二が侵略された。圧倒的な身体能力と特殊能力を持つアンクリアに警察は全く対応できず、民間の傭兵団のヒーロー協会に頼る。
政府はアンクリアの持つ詳細不能の宝石、通称ストーンを解析する。一般人には使えないが適合して様々な形で所持すれば(ブレスレット、剣、体に埋め込む等)アンクリアの様な身体能力と特殊能力を使えることを解明する。ストーンを使える適合者を集め、政府はヒーロー協会に対する特殊部隊を設立する。通称カラーズ
燃える孤児院を前に膝をつき呆然とする少年、その顔には絶望しかない、声は出ず涙はとめどなく出てくる。強いと思っていた自分、なんでもできると思っていた自分、一人でどうにかできると思っていた自分、約束を……守れると思っていた自分ーーーそのすべてがへし折られ、崩れていく。
孤児院が爆発し、身体が吹き飛ばされる。
「……せい」
「…んせい」
「先生っ!!」
大きく響く声で現実に引き戻される。昼ご飯を食べた後コタツで寝てしまっていたらしい。それにしてもうるさい声だな、声のする方に目を向けると金髪のショートカット、ややもすると少年に見えてしまうかもしれない少女が、両手を腰に当て頬を膨らませている。
「いつまでも降りてこないからおかしいと思ったんですっ。私に店番押し付けて自分だけ昼寝とかズルいですっ」
「うるさいぞ由奈、弟子にしてくれたらなんでも言う事聞くんじゃなかったのか?」
「なにも教えてくれないのに先生面しないでくださいっ」
「じゃあ出てけ、あと弁償しろ」
「ごめんなさい、ウソです」
少女はその場でピョンと飛び上がり、きれいな土下座のフォームで着地する。最近見慣れてしまった光景に思わずため息が出る。
俺は『影山 大和』都会の片隅、裏通りにある防犯グッズの店『ボックス』の店主だ。売ってる物は警棒、催涙スプレー等、今じゃ骨董品扱いの物だ。アンクリア相手に何の意味もない、今の時代、一般人だって拳銃を持っているから。
そんなさびれた店に、二週間前に強盗が入った。呆然としていると、金髪ショートカットの少年のような少女が、ヒーローをなのり、マフラーをなびかせ、颯爽と現れーーーーーーそして負けた。
何しに来たんだ、暴れて店を壊しただけだった。しかたなく俺が強盗を倒し警察に突き出した。
後で話を聞くと、Fランクのヒーローで弁償するお金は無いと、ここで働いて返すから戦い方を教えてほしいと。とりあえず何も教える気はないが弁償するために働いてもらっている。
ただ甲高くよく響く声がうるさくてしょうがない。そのうち出て行ってもらおう。
「先生はなんでそんな強いのにヒーローやらないんですか?」
「おまえはなんでそんな弱いのにヒーローやってんだ?」
「ウグゥゥ!ひどいです、好きで弱いわけじゃないんですよっ」
「ヒーローなんて敵倒せなきゃ稼げないだろ」
「ウグゥゥ!なんでそんな的確に、心をえぐってくるんですかっ?」
俺の言葉を聞くたびに由奈は首元を押さえ、苦虫を嚙み潰したような顔になる。リアクションはおもしろいなこいつ。
「ヒーローなんて危険だし、収入安定しないし、おまえみたいな女の子が目指すような職業じゃないだろ」
「私みたいなかわいい女の子が目指す職業じゃないのは分かってますけど……」
かわいいとは言ってないが……
「私の住んでた街アンクリアに滅ぼされたんです。私も死ぬ寸前で……そこに颯爽とヒーローが現れて救ってくれたんです」
「どこにでもある話だな、そんなことでヒーローを目指すなら、世界中の孤児がヒーローになるよ」
今の世界の人口の二割は孤児だ。アンクリアとの戦いに巻き込まれた者、ストーンを使った犯罪に巻き込まれた者、それでも生きてるのは、十中八九ヒーローかカラーズに助けられたからだろう。由奈みたいな理由でヒーローになってたら、世界中がヒーローだらけになる。
「それでも、絶望してた私に希望を与えてくれたのはヒーローなんですっ。両親や兄弟が目の前でアンクリアに撃たれて、それを、クローゼットの中に隠れて、見ながら震えていたんです。もうすぐ私も死ぬんだって、もう諦めていたところにヒーローが現れて、『もう大丈夫だ、遅くなってごめんね』って、それがすごく輝いて見えて、世の中にこんなに人に希望を与えられる人がいるんだって思って」
「へぇ」
興味がなさそうに返事を返す。だってこの話は二週間前から、何回も聞いてるから。もう聞き飽きたよ。
「それでね、そのヒーローが、最近Sランクになったブルーフォックスだって気づいたんです。世間じゃ不愛想で優しくないって言われてますけど、ホントは優しいって私だけが知ってるんですっ!」
「ブフウゥゥゥ!!」
思わず飲んでたお茶を吹き出してしまう。
「きゃっ!いきなりなんですかっ」
「なんでもない、なんでもない。それより何か用事があったから呼びに来たんじゃないのか?」
動揺を隠そうと慌てて取り繕う。由奈はお茶を拭きながら怒っている。また頬を膨らませている。
「そうでした。ピンク色の髪で、ウェーブのかかったロングヘアーの女性が、大和さんに用があるって、麗香さんっていう人でした。知り合いですか?」
「あぁーー、知り合いだから二階に通してくれ、由奈は一階で店番しといて」
「分かりましたっ」
元気よく返事をして部屋を出て行く。
少しして、部屋のドアがノックされる。
「麗香よ、入るわよ」
ドアが開かれ、ピンクの髪をした女性が部屋に入ってくる。アスリートが使うような顔にフィットして、紫色に光を反射するサングラスをかけ、ど派手な毛皮のコートを着ている。動きの一つ一つが洗練されていて、全身から自信があふれている。
「あの子、誰?店番なんて雇ったの?」
「勝手に居座ってるだけだ、そのうち出ていくだろうよ」
「出て行くかしら、憧れのブルーフォックス先生の元から」
麗香がバカにしたように笑う。
「聞いてたのか……それあいつに言ったらぶん殴るからな」
「あれだけ大きな声で話されたらねーーー怖い怖いーーそんなに怒らないでよ」
「今日は何の用だ?」
「せっかちね、もう少し楽しくお話したかったのに」
コタツに入りながら、麗香は一枚の折りたたまれたメモ用紙をコタツのテーブルの上に置く。
「中国系マフィアのシャンファーよ、適合者も三人いるみたいだけど頼めるかしら?」
「また何か盗んだのか?」
「いやぁ、結構ため込んでたからつい盗んじゃった。狙われちゃって面倒だから殺っちゃってくれると助かるんだけど」
「殺るって、俺は殺し屋じゃないぞ」
「分かってる分かってる、ヒーローさん。死んでもーー捕まえるのでもーーいなくなってくれれば私はどっちでもいいの、これは前金ね」
そういうと麗香はジャラジャラと金貨をテーブルの上にばらまいた。
「そういえば、あの子いらないのなら私に頂戴」
「あいつにヒーローの才能ないぞ」
「ヒーローの才能なんていらないわよ。あの柔らかそうな筋肉……たまんないわぁ」
サングラスを外して舌なめずりをする。由奈も災難だな、こんな変態に目をつけられて。
「じゃ私は帰るわね」
そういうと部屋から出て行き、階段を下りていく、一階で由奈と何か話をしているようだが内容までは分からない。一時して由奈が二階に上がってくる。
「あのピンクの人、先生の知り合いですか?なんか私すごい目で見られたんですけど、猫が獲物を狙う目っていうか、変態おじさんが女子高生を見る目みたいな?」
「ファイナルアンサー?」
「ファイナルアンサー!」
「正解っ!」
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