大魔王がおばあちゃんちでブラウン管の修理していた
うちのおばあちゃんちは、今どき珍しい昭和の家だ。
畳部屋の卓袱台から見るブラウン管はいまだに現役だし、隣の部屋の障子を開ければ、縁側から庭を一望できる。
そんな田舎のおばあちゃんちに遊びに行った日のこと。
「どうだいゾロアードさん、直りそうかえ?」
「うーん、どうでしょう。私だけでは何とも……あ、キミエさん、プラスドライバーあります?」
おばあちゃんと見知らぬ人がブラウン管を修理していた。
いや、見知らぬ人、というか……悪魔?
漆黒のマントを羽織って牙と角の生えた、典型的な大魔王だ。一度倒しても第二形態で復活しそうな風格がある。
「……何やって……いや、何があったの、おばあちゃん……?」
「おや、葵かい? よく来たねぇ」
「お孫さんですか? これはどうも、ゾロアードです」
「あ、どうも。……じゃなくて! 誰ですかあなた!? 大魔王みたいな格好して!」
「察しがいいですね。みたいな、じゃなくて本物と思っていただいて結構です」
野太い声で肯定する自称大魔王。
というか敬語使うのかこの悪魔。
「実はねぇ、おばあちゃんさっきまでゲームやってたんだけど」
おばあちゃんは卓袱台に置いてあるゲーム機を指差した。
……何気に最新機だ。私でさえ持ってないやつ。
「そしたら急にテレビの映りが悪くなってねぇ」
「うん」
「直そうと思って叩いたら、中身が出てきちゃったんだよ」
「ごめん待って意味が分からない」
何それ気持ち悪っ! テレビから出てきたとか完全にホラーじゃん!
というか今はお父さん達出かけてるけど、戻ってきて鉢合わせたら絶対面倒くさい。それまでにこの大魔王には帰ってもらわないと。
……ってもしかして、テレビ壊れて帰れないとか? だから直してるの?
「キミエさん、やっぱりダメです。今日中の修理は難しそうです」
「おやまあ、困ったねぇ。それじゃあ今夜は泊まってくかえ?」
……え?
「いいんですか? しかしお孫さんが遊びに来ているのに、お邪魔するわけには」
「遠慮はいらんよ。賑やかな方が葵も喜ぶからねぇ」
「……ええぇー……」
勝手に決められた。しかも私が望んだみたいな形で。
田舎のおばあちゃんの独断、恐るべし。
結局、お父さんとお母さんも、ゾロアードさんとはすぐに馴染んでしまった。
夕飯のときも皆で食卓を囲んで。近所のお祭りの話とか魔界の話とかで盛り上がって。
温かいごはんの前では、人間も悪魔も関係なかった。
まあその……私もちょっとだけ、楽しかったかな……なんて。
第2回小説家になろうラジオ大賞 参加作品
文字数:1000文字
使用キーワード:大魔王、ブラウン管