【東北道に散ったMR2】
この物語はフィクションです。
登場する人物・施設等は全て架空のもので、実存するものとは何ら関係ありません。
実際の運転は、マナーを守り安全運転を心掛けましょう。
【東北道に散ったMR2】
俺は常々、車の運転に関して、2種類の人間がいると考えている。
1つは、運転という操作に対して、必ず結果があり、それは常に一定ではなく、
様々な要因が重なりあって、引き起こされていると、物理的に考えられる人間。
もう1つは、車を移動するための道具、便利な箱型の乗り物としか思っていない、
運転という操作を、全て車に依存してしまっている人間。
残念ながら、世の中の多くの人間が後者だ。
アクセルを踏めば進む、ブレーキを踏めば止まる、ハンドルをきれば曲がる。
だが、それは限られた条件の下での話しであり、いつもその条件が満たされているとは
限らない。
しかも、車を操作するのは機械ではなく人間であって、人間はミスをする。
そのミスは、車の挙動に何ら影響を与えない小さなものから、即クラッシュまで千差万別だ。
世の中の多くの人間が、なぜ進むのか、なぜ止まるのか、なぜ曲がるのかなんて、
考えた事は無く、アクセルやブレーキを、照明のスイッチと同じ扱い方をする。
そういう人間に限って有事の際に車のせいにする。
ブレーキを踏んだけど止まらなかった、ハンドルをきったけど曲がらなかったと、
あたかも車が悪いような言い訳をする。
実は、止まらない、曲がらない操作を自分自身がしているのに気が付いてない。
昔、こんな話を聞いた事がある。
就職して2年目か3年目の初夏、同窓会を兼ねた温泉旅行があった。
車好きのヤツらは、それぞれ自慢の愛車でやって来た。
当然その日の宴会は、車談議に花が咲いた。
翌日の帰り、季節はずれの台風で、東北自動車道には激しい雨が降っていた。
だけど、そんな事はお構いなしだった。
昨夜の宴席で、誰が一番速いんだって話題になった。
それを証明するかのように即席レースが始まった。
速度は150km/hを超えた。
ドライならまったく気にならないような緩いカーブも、この状況ではさすがにキツく感じる。
だが、そこでアクセルを急激に戻したり、ブレーキを踏んだりしたら、
荷重は一気にフロントに移り、荷重の抜けたリヤはグリップを失う。
運転を物理的に考えられるヤツは、それが解ってるからジワッとアクセルを戻して、
リヤタイヤのグリップと相談しながら走る。
だが、普段から車に依存して、スイッチのように操作しているヤツらは…。
絵に描いたように、リアタイヤがアクアプレーニングを起こし、空転を始める。
そこで、焦らずにアクセルを入れてリアの荷重を増やし、グリップを回復させ
ることに成功した者は事なきを得たが、パニックになりブレーキに足を乗せて
しまったヤツの行く末は、それこそ神のみぞ知るだ。
哀れ、まだ購入して間もないSW20は、キャビンだけを残し、どちらが前か後ろかの
判別も付かない程、グシャグシャになってしまった。
幸いドライバーは無傷であったが、このドライバーが完全な依存タイプだった。
最寄のICまで運ばれ、ローダーから降ろされた無残な愛車に、昨夜まで自慢の種
であったはずの愛車に、文句を言いながらガンガン蹴りを入れていた。
そいつの心配よりも、そんな扱いをされた車を不憫に思った記憶がある。
車の性能は上がり、安全性も飛躍的に向上したが、それで事故が無くなる事はない。
人間が運転する以上、必ず事故は起きると言っても過言ではない。
いや、運転する人間がみなアインシュタインのような物理学者なら、その時々の
状況を物理の公式で瞬時に計算して、何事も起きないだろうが、そうもいかない。
では、どうするか。
その話しは、また別の機会にしようと思う。
― 完 ―