神様からのおくりもの
ある日見上げると夜空から星が落ちてきた。これを見たヨークとスラウは急いで長老の元へ駆けていく。
「長老!星が落ちてきました!」
「何?それは本当か?」
村人総出で星が落ちた辺りを捜索する。そしてそこには人が倒れていた。見た目はヨークやスラウと同じくらいに見える。村人は見つけるや否や彼を連れて帰り、祭壇へ寝かせる。村には言い伝えがあった。『空から星が落ちる時、神様からおくりものが届けられる』と。
それを信じた村人は毎日祭壇を訪れ彼の様子を見て、祈りを捧げた。だが毎日祈りを捧げても彼は起きない。一体どうすれば起きるのか、それにおくりものとは何かがわからない。彼らの生活は祈りを捧げる以外今までと変わることはなかった。
ある日、ヨークとフラウは祈りを捧げに祭壇に来た。祈りを捧げたあと話し合う。このまま彼は起きないのか、それとも起きる為の鍵があるのか。2人はもしかしたらと思い星が落ちた場所へ向かう、夜には見つけられなかったが太陽の出ている間なら見つかるだろうと、それは一生懸命さがした。見た目が同い年くらいに見えるのもあって、目覚めたら友達がなれると思ったのだ。新たな友人の為に2人は探す。すると異質な物をみつけた。2人は手に取って眺めると、それは真っ黒な球だった。普通の黒ではない、覗くと恐ろしくなるような黒だった。急いで持って帰ろう。そう思った2人は走って帰る。そして村へ戻った時……落としてしまった。
落とした玉は割れてしまう。その瞬間玉から煙が出始めた。その様子を見た村人は焦る。火事と見間違えるほどの煙が大量に上がっていたのだ。村人は煙を消そうと総出で水を掛ける。だが煙は収まらない、そんな時、祭壇から人影が見えた。
「現状を確認、信号を送信」
先ほどまで目覚めなかった彼が突然言葉を告げた。だがその言葉の意味を誰もが理解できなかった。そう思っていると彼は2人の方へ向く。
「ありがとう、それを見つけてくれて。」
その言葉が終わると同時に煙が霧散する。少しの間茫然としていたが一気に歓声に包まれた。私たちの祈りが届いた。村人は彼に近づき感謝を表した。おくりものを、祝福をいただけると、そして神様かのように扱うのであった。
それを見たヨークとフラウは少し悲しそうにしていた。彼は目覚めたのにどこか遠い存在になってしまったように思ったからだ。せっかく友達が増えたと思ったのに、それが神様になってしまったのだ。神様とは友達になれない。何故なら神様は遥か高見の存在だからだ。少し悔しいが、それでも今日の夜は豪華な晩御飯が出るだろうなと思うと、悲しい気持ちはどこかへいってしまった。
予想通りそれは豪華な晩餐だった。誰もが愉快に笑い、楽しく踊り、彼の前に跪いて祈りを捧げた。しかし、そんな中でも彼は無表情だった。これほど騒がしいのに楽しそうでもなく、苦痛そうでもない。その表情を不思議には思ったが、村人たちは一晩中騒ぐことにした。
翌朝目が覚めると彼がいなかった。しかしヨークとスラウもいなかったので、同じ年頃だろうし一緒に遊びに行ったのだと思い心配しなかった。しかし、彼らはその日の夜になっても帰ってくることはなかった。
異変は数日後から現れた。次々と村人が倒れ始めたのだ。ある者は高熱にうなされ、ある者は嘔吐した。祝福が訪れるのではなかったのか、2人も拐われたのではないか、まさか悪魔がくるとは思っていなかった。村人は彼を血眼でさがした。あいつのせいだ。あいつが来たから村に不幸が訪れたのだ。
実はヨークとスラウは、彼と友達になりたい。そう思い、彼が目覚めた翌朝に連れだしていたのだ。
3人は村の外へ、もっと遠くへ出かけることにした。今何処にいるかすらわからない程に。
しばらく歩いた後、3人は川岸で休憩した。流れる水は冷たくて美味しい。
「こんなに豊かな自然があるんだね、素晴らしい」
不思議なことを言い出した彼に疑問を感じた。自然などどこにでもある。
「そう?こんなのならどこにでもあるけど」
彼は首を振る、そしてその顔は笑顔だった。
「僕たちの生まれたところには自然なんかほとんど無かった。少しだけ草があるだけで他はみんな機械さ」
機械とは何なのか、2人には分からなかった。ただ何となく凄そうなモノなんだろうなとぼんやりと考え、思いつく。
「なら川でも何でも君に見せてあげるよ。代わりに機械を見せておくれよ」
彼は難しそうな顔をした、だがその後に微笑んで言う。
「いいよ、君ら2人は僕にとって得難い。必ず連れて行ってあげよう」
2人は喜んだ。だって彼が見たいものはそこらじゅうにたくさんあるのだ。色々見て回るだけでいい。でも機械なんてものは見たことがない。そんなものを見せてくれるなら、この世界を案内するのは楽勝だ。それに新しい友達ができたのだ。
2人は彼を連れ更に遠くへ旅立った。山に咲く花を、湖にいる魚を、どこまで見渡しても何もない地平線を。それらを見るたびに彼は驚いた。
そうして長い時間がすぎた。ある日彼は言う。
「海ってあるのかな?」
海というものを2人は知らなかった。何故なら生まれ故郷が山の中だったから。
「海ってなんだろう?」
「海って知らないなぁ」
それを聞いた彼は苦笑しながらも説明してくれる。
「海って言うのは川よりも、湖よりも大きな水だよ。そしてしょっぱいんだ」
水がしょっぱい?そんな水飲んだことがないと2人は興味が湧いた。
「なら、僕らも知らないけれど探しに行ってみよう」
もう何日も何か月も故郷に帰っていない、でもそれ以上に楽しい世界が広がっていた。自分達が知らないモノがまだここにはあるのだと、3人はさらに旅をする。しかし2人には少し疑問があった。それは故郷を出てから3人以外の人を見ていないのだ。動物はいるが人は見かけない、何故だろうと思ったが、旅が楽しいのであまり気にしないことにした。
ある夜寝ているとカサカサと音がした、それに気づいたヨークは目が覚める。彼がどこかへ行くのが見えた。用でも足しに行くのかな?と思ったがこんな夜にどこへ行くのか気になったヨークは彼にこっそりついていった。すると彼は何もない原っぱで立ち止まる。
「経過報告……大気は問題なし……過去に発生したウィルス以外には今のところ反応なし……生態系も正常だが抗体を持ったのはわずか2体のみ……海は未だ発見されず……報告を完了する」
よくわからない事を言っていたので彼の前に立つ
「何を言ってるの?」
彼に問いかける。
「もう少ししたらわかるよ」
彼は微笑んだ。結局よくわからないので戻って寝ることにした。
それからもただ歩き続ける生活が続いた。だがそれでも楽しかったからだ。3人いる。それだけでつまらないと思うことはなかった。
「変な匂いがする……」
スラウが告げると、彼は走りだす。2人も追いかけるように駆けだす。
「これが……海だよ」
初めて見る海は彼らの想像を超えていた。川よりも、湖よりも広い、どこまでも続く先の終わらない世界。
3人は感動する。これほど感動するとは思っていなかった。
「目的は達成した。そろそろ帰ろうか。そこが目的地だから」
彼は笑顔で言う。2人も満足すると同時に家族が、村の人々と長い間会っていないことに気づく。そうだ帰ろう、家族に会おう。3人は村に戻った。
「みんなどこ行ったんだろう」
村には誰もいなかった。どこを探しても見つからない。まさか自分たちが出かけている間にみんな移動したのか。不安がよぎったとき足元に大きな影ができる。
「君たちに機械を見せてあげるよ」
彼が微笑む。上空には巨大な物体があった。それは村よりもはるかに大きい、1つの山のような大きさだった。それが地上にたどり着いた。2人は驚くとともに震え上がる。こんなものに僕らはどうすればいいのか、ただ怯えるだけだった。
「君らの村の人はこの中にいるよ。さあおいで」
彼が手を差し伸べる。もうついていくしかなかった。
中に入るとそこは真っ白な世界だった。どこを見ても白い、本当にここに村人はいるのか、恐る恐る彼を覗き込む。
「村の人たちはシェルターに保管されて今は寝ているよ。僕たちとは身体の構造が違うのか船内の空気には合わなくて倒れていたようだ。今助けてあげているから大丈夫」
言った通り村の人たちは寝ていた。家族にようやく出会えた2人は感涙する。
「これからはここで過ごすと良い。少し僕らの仕事を手伝ってもらうけど機械も触れるし、時間が経てばそのうち皆外に出れるよ」
彼の言葉を信用し、村の人々はここで暮らすことにした。そこでの生活は今まで食べたことがない食事、新たな道具、さらに機械にも触らさせてもらえ村人たちは満足して死ぬまで生活した。
「村人も新しい者に触れ、贅沢もでき満足だろう」
「2人だけは隔離施設から出してあげたかったのですが……」
「あの人々は我々がこの星から旅立つ前の唯一の生き残りだ。厳重に保管したい。それに唯一、船内の空気を吸って倒れなかった者だ。あの2人が我々がまた地球で定住できる希望になるかもしれない。神様は我々にすばらしいおくりものををくれたのさ」