暗殺に感情が混ざる時
主人公は黒髪ロング、黒目の美少女。年齢は15歳です。
今日、私は人を殺した。
昨日も殺したし、明日も殺すだろう。
私は人を殺すことを何とも思わない。私が殺さなくたって、どうせ100年後には失われている命だ。少しばかり、前倒しになっただけ。
それならわざわざ殺さなくても良いのではないか。きっと、大方の人はそう考えるだろう。確かに、放っておいてもいつかは消える命だし、私が進んで刈り取る必要もない。
でも、それじゃあダメだ。私は幼い頃から人を殺す教育を受けてきた。幼い頃から数多の命を奪ってきた。もはやルーティンになってしまっているその行為を放り出すというのは、どうにも気が引けてしまってできそうにない。
恩師によって暗殺術を鍛えられた。機関の司令に従って人を殺す。私の過去と現在であり、全人生だ。
今日、私は人を殺した。
何の感慨も抱かずに、ただいつも通りに。
……ただ、何かを感じるとすれば、嫌悪だろうか。
人を殺す行為そのものには何も感じない。しかし、死にゆく人たちの仕草に嫌悪感を覚える。
私が彼らの命を切り裂く時、決まって彼らは笑顔でいる。温かい笑みをたたえ、柔らかい目で優しく見つめながら、そうやって逝くのだ。
私が人生で殺してきた数千人、数万人。一人の例外もなく、全員がそうだった。
幼く、何も考えずに人を殺していた時は、それが普通で当たり前のことなのだと思っていた。
けれども、書物で取り扱っている死は、大抵哀しいものとして描かれていた。死にながら笑みを浮かべる人なんて、そう多くは存在していなかった。
死にゆく人たちの笑みに嫌悪感を覚えるようになったのは、そのことに気付いた時からだ。
その日の司令は、特異なものだった。
『恩師を殺せ』
標的となる恩師は私の上司だが、そのさらに上から下ってきた命令だ。
どうしてこのような命令が下りたのかは理解できなかったが、これが仕事だというのならいつも通りにこなすだけだ。
……ずっと面倒を見てもらっていた恩師ではあるが、愛着もなければ感謝もない。殺すことに抵抗はない。
恩師の部屋をノックする。返事はすぐにあった。私は毎晩通っていたその部屋に、初めて仕事として入った。
彼は都合の良いように勘違いしてくれた。ただ、毎晩そうしていたように、まぐわいにきたのだと。私から求めたことはなかったので、初めてのことだと喜んでいた。
彼は服を脱ぎ始めた。私もそれに倣って服を脱いだ。彼は全裸に、私は下着姿になった。
彼は私を抱き締めて、唇を貪った。昼間だというのに酒でも飲んでいたのか、唾液を交換するだけで、酔ってしまいそうなくらいに濃密なアルコールの匂いが私の口腔を満たした。
舌を絡ませながら、私は脱いでいなかった下着の中に手を差し込んだ。彼の舌が激しくなる。私の仕草に彼が興奮を高めていたのは一目瞭然だった。
――取り出した刃物で、彼の喉を一思いに裂いた。
口の中のアルコール臭に、鉄の味が混ざった。それは、人生の中で味わったどんな美酒よりも美味だった。
最高の酒を飲み尽くしてから、無様に成り果てた恩師の姿を眺める。全裸で倒れる彼の顔は、幸せそうに歪んでいた。死んだ時、彼の興奮は最高潮に達していた。全裸の中心部を見れば、そのことは火を見るより明らかだった。彼は、私に殺されて幸せだったのだろう。
そして理解した。なぜ私に殺された人たちは、皆一様に笑顔で逝くのか。
――人を殺める時の私は、それほどに魅力的だったのだろう。
恩師は、最後まで私の恩師だった。
その日以来、私は楽しんで人を殺すようになった。