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第六話 せっかく超絶美少女になったのに、貴様はなにをしているっ!

 実は折り入って相談がある。

 もちろんあのバカ……もとい小次郎についてだ。


 俺は今、あいつに対して大変な怒りを抱えている。

 いわゆる『激おこぷんぷん丸』だ。

 いや『ムカ着火ファイヤー』かもしれない。


 え? 言葉が古いんじゃないかって?

 なにを言う。


 最新鋭の言葉だぞ、これは。

 なにしろ、超都会から来た美容院のおばちゃんが使っていたからな。


 とにかく、話しを戻そう。

 ことの始まりは、俺のファーストキスから一週間後のことだ。

 あの日の俺は、いつものように小次郎のご両親の家で、朝食を食べたわけだ。


 メニューはご飯と焼鮭とお味噌汁とかだった。

 このお味噌汁がまた絶品でな。


 しじみに赤味噌というシンプルな内容ではあるが、だからこそ絶妙なバランスを保っていたわけだ。

 あれこそまさに、シンプルイズバスト。


 いや、マストか?

 まあ、とにかくそういうやつだ。


 そしてだ、その日ついに新築した温泉旅館がオープンしたわけだ。

 当然オープン初日から大盛況……のはずだった。

 だが、客は一人も来なかった。


 よく考えると当然だ。

 予約がゼロだったんだからな。


 こんな片田舎に予約なしで来るとか勇者過ぎるだろ。

 そう簡単に田舎に泊まれると思うな。

 紹介状なしなら五次面接までは覚悟しろ。


 それでも最初の一週間くらいは良かった。

 『まあ、オープンしたばっかりだしね』みたいな雰囲気があった。


 しかし、一ヶ月経った頃から、小次郎の表情が曇っていった。

 さすがに焦りを感じ始めたのだろう。


 だが、俺はその百倍は焦っていた。

 お義母さんの絶品お味噌汁の二杯目が喉を通らないほどだ。

 夜もまったく寝付けず、昼間に熟睡(じゅくすい)するほどの狼狽(ろうばい)っぷりだった。


 理由は簡単だ。

 俺のダラダラライフが危うい。

 絶対に働きたくないが、絶賛もやし生活も嫌だ。


 そこで俺は考えた。

 『せっかく垢抜けた美しさを持ちつつも和の雰囲気を残している超絶美少女嫁になったのだから、超絶美少女女将(おかみ)になれば良いんだ』と。


 それからの俺は迅速(じんそく)だった。

 まずネットで女将について調べまくった。

 そしてその結果をもとに、お義母さんに相談した。


 こういう時はな、人生と嫁の大先輩であるお義母さんに相談するのが一番良いんだ。

 お義母さんは大喜びで、数十着ある着物の中から超絶美少女の俺向きのものを選んでくれた。


 俺はふと、その着物の値段を聞いてみた。

 なんか高そうだしアイスとかこぼしても大丈夫か気になったからだ。


 お義母さんが平然と言った値段に、俺は驚愕(きょうがく)した。

 着物と帯合わせて、加工済みパンツ千枚分くらいだ。


 アイスこぼすどころじゃない。

 上にレインコート着てコーティングする必要があるレベルだ。


 逃げ出そうと思ったがダメだった。

 お義母さんにものすごい勢いで捕まったからだ。


 動きが洗練されていた。

 さすが、嫁を何十年もやってきている古参兵だけある。


 そして、俺はついに超お高い着物を着せられてしまったわけだ。

 俺は今、実質千枚のパンツを身に着けていることになる。

 考えただけで恐ろしい。


 あと下になんか白い服みたいなのも着ている。

 それとお腹にタオルを五枚くらい巻いている。


 俺のように抜群のスタイルを持っているとな、タオルは必須なんだ。

 場合によっては胸にまで巻くらしいぞ。

 だから着物に変な幻想を持つな。


 それと『着物を着る時は線が出るからノーパン』みたいな噂についてだ。

 確かに現在、俺は物理的なパンツを履いていない。

 だが、さきほどから言ってるように、実質千枚のパンツを身につけているわけだ。


 つまり、あの噂は実質嘘だ。

 騙されるな!


 そんな俺のあまりの和風超絶美少女っぷりを、お義母さんは大はしゃぎで褒めてくれた。

 我ながら(りん)とした美しさに()()れする。


 だが、一つ問題がある。

 めっちゃ暑い。


 実質千枚のパンツを着ているわけだから当然だ。

 あとタオルがヤバイ。


 だが、汗をかくわけにはいかない。

 なんたって実質千枚分のパンツを汚すことになる。

 洗濯が大変だ。


 そこで俺は、アイスを食べることにした。

 当然、レインコートを着てだ。


 お義母さんと和風超絶美少女らしく抹茶アイスを食べていると、小次郎が現れた。

 やつは俺を見るなり、大笑いしやがった。


 ふざけるな。

 何故この美の結晶を見て笑う。


 まず褒めろ。

 そして俺の美しさの前にひれ伏せ。


 小次郎のこの態度で俺のぷんぷんゲージが上昇したわけだ。

 だがまあ、この時の上昇率はそこまで高くなかった。

 いわゆる『おこ』状態だろう。


 おこ状態といえども、温泉旅館が潰れるのは困る。

 俺のダラダラライフには、とにかくお金がかかるのだ。


 ネット代とスマホ代とお菓子代など、月三万円は絶対に必要になってくるだろう。

 五万いただけるならありがたい。

 ゲームとかも買える。


 そこで俺は考えた。

 『せっかく現代の奇跡とも言うべき至宝の超絶美少女女将になったのだから、温泉旅館の宣伝に使えば良いんだ』と。


 そんなわけで、笑い転げる小次郎をひとしきりぽこぽこしたあと、写真を取るように命じたわけだ。

 だが、やつが持っている大砲のように長いレンズがついたカメラではない。


 こういう時はスマホのカメラが適している。

 それも『風景を撮っていたら偶然、超絶美少女女将が写り込んでしまいました』風に撮るのが良い。


 なぜかって?

 まさか、俺がネットマスターということを忘れたわけではあるまい?


 そう、ネット掲示板に『この前行った温泉旅館に、超絶美少女女将がいたwwwww』みたいなスレッドを立てるのだ。

 結論から言うとこれは大成功だった。


 スレッドは凄い勢いで伸びていった。

 そして『どこの旅館?』みたいな書き込みがあふれた。


 こういう時、浮かれてすぐに答えてはいけない。

 自演を疑われる。


 それに、こちらから言わなくても、あいつらはどうせ探し当てる。

 ネット民の情報収集能力を侮ってはいけない。


 案の定すぐに『画像の位置情報的にこの旅館だな』みたいなレスがついた。

 スマホとかGPS機能のついたカメラで撮ってネットにアップしてる人は気をつけろ。

 個人情報がだだ漏れになってる可能性がある。


 とにかく、こうして温泉旅館に超絶美少女女将の俺に会いたい者どもの予約が殺到したわけだ。

 当然、客のほとんどは男だった。


 中にはカップルもいたが、俺のあまりの超絶美少女女将っぷりにデレデレした男に対して女の方がブチギレて、宿泊中に別れるパターンが大半だった。

 まあそれはいい。

 問題はここからだ。


 俺は超絶美少女女将として、温泉旅館の中を歩くことにしたわけだ。

 なにしろ、客の大半は俺に会いに来てるわけだからな。


 だが、断じて働いているわけではない。

 気まぐれに屋内お散歩しているだけだ。

 どうか誤解しないで欲しい。


 『ときどき遭遇出来るレアキャラ』になった俺とすれ違っただけで、客は大喜びだった。

 記念写真を求められることも多かった。


 これについては、(こころよ)く応じてやることにした。

 その写真をネットにアップしてくれれば、宣伝効果が高まる。


 最初のうちは良かった。

 小次郎も温泉旅館が大盛況で喜んでいた。

 だが、だんだん小次郎の様子が変わり始めた。


 ピリピリとは違い、イライラし始めたのだ。

 俺は、やつのイライラとは無縁のところを評価してやっていたのに、どうしたことだ。


 そして小次郎は、俺の屋内お散歩についてくるようになった。

 さらに客に向かって『もっと離れてください』とか『ローアングル過ぎるんで、今撮ったの消してもらえます?』とか言い始めた。


 俺のファーストキスを奪ったくらいで彼氏ヅラか?

 とか思ったが、よく考えたらこいつは彼氏どころか夫だった。


 だが、紙切れ一枚で俺を束縛(そくばく)出来ると思うな。

 それは、お前が俺を養うことを誓った契約書に過ぎない!


 まあこれについてはまだ良い。

 『ぷぷっ、これくらいで嫉妬しちゃうなんて男って単純』くらいに思っていたからだ。


 大問題はここからだ。

 まず『超絶美少女女将につきまとってる従業員がウザ過ぎるんだが』みたいなスレッドが写真付きで立った。


 これはだいたい事実だ。

 やつが従業員じゃなく支配人という点と『ウザ過ぎる』が言い過ぎなくらいしか間違いがない。


 そのスレッドに『でも、こいつイケメンだな』みたいなレスがついた。

 しかも『それ私も思ったw』や『背も高そうだな』などという書き込みが増えていった。


 小次郎の顔は整っている。

 男だった時の俺よりも少しだけイケメンなのは確かだ。

 それもちょっとムカツク。


 さすがに超絶美少女の俺ほどの集客力はないが、小次郎目当ての女性客が増え始めた。

 ゼロに近かった女性比率は、今や三割ほどだ。


 そして、小次郎まで記念写真を求められ始めた。

 それだけなら良い。

 だが、あからさまに色目を使う女とかが現れた。


 おい、そこのまつげを激盛りしてるギャル、顔が近すぎるぞ。

 その距離は俺とそいつの絶対領域だ。


 だいたい、小次郎も小次郎だ。

 今すぐそのギャルを突き飛ばして『俺には超絶美少女の妻がいるので』とか言え。

 何事もなかったように撮影を終えるんじゃない。


 普段温厚な俺も、これにはムカ着火ファイヤーの限界を超えた。

 カム着火インフェルノォォォォオオウ状態で割って入ろうと思ったが、ギリギリ思いとどまった。

 小次郎に『ぷぷっ、これくらいで嫉妬しちゃうなんて単純』ってバカにされたくないからだ。


 そこで俺は、もっと陰湿(いんしつ)な嫌がらせをすることを思いついた。

 記念写真に写り込んでやるのだ。


 だが、普通に写り込むわけにはいかない。

 『イケメン従業員につきまとってる超絶美少女女将がウザ過ぎるんだが』みたいなスレッドが立ったら恥ずかしい。


 だから、もっと絶妙な感じで写り込むことにした。

 具体的には、少しだけ開けたふすまから顔をのぞかせたり、天井(てんじょう)の板を外して目だけ光らせたりだ。


 せっかくの記念写真が、心霊写真に変わった気分はどうだ?

 ふはは、ざまあみろ!


 そのギャルがSNSで写真とともにのせた『温泉旅館行ったら、超絶美少女の幽霊がいたんだけど』みたいな投稿が超バズったのは別の機会に語るとしよう。

 というか、今はそれどころじゃない。


 おい、そこの金髪鬼盛り女、小次郎の腕に胸を当てるのを今すぐやめろ。

 お洒落パスタみたいな頭しやがって。

 そいつにラッキースケベをして良いのは、世界で俺だけだ。


 ここまでの説明で、小次郎のバカっぷりは十分伝わったと思う。

 当然俺は今、激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームだ。


 いや、ビッグバンテラおこサンシャインヴィーナスバベルキレキレマスターかもしれない。




次回、衝撃の急展開!!!!!!!!!1

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