第五話 直した
今年も後少しで終わりですね!
おかしなレベル上げをしてから、オレは自分のスキル「超絶」を色々試してみた。
このスキル、ただ凄い力が出るだけの能力ではないみたいだ。
前みたいにトンでもパンチを撃つだけじゃなく、力の調整も意志一つで簡単に出来る。
これは助かった。一々殴るたびにあんなことが起きてたら堪ったもんじゃない。
そして、戦う以外にも使い道がある。
例えば料理。
この間、シスター達に隠れて台所で簡単な料理を作ってみた。
うちの教会は裕福で食材は余っている方なので問題無い範囲で作ってみると、滅茶苦茶美味く出来た。
元々前世ではオレは一人っ子で両親が共働きだから家に一人で居ることが多く料理は自分でやっていたが、あくまでもそれは普通レベル、大したものじゃなかった。
しかしスキルで作った料理は物凄く美味かった。
材料も普通だし調理法も普通にやったつもりだったんだ、腕前次第でこんなに変わるものなのかと驚いた。
それと、その時に前世では見たことないような食材があり、これは何だとまじまじ見詰めていると不思議なことが起きた。
その食材の情報が文字で表示されたのだ。
これは所謂、鑑定というやつなのだろうか?
凄い細かに情報が表示されており名前は勿論、品質状態や何処で採れたか、様々な用途まで表示されていた。
図鑑みたいな感じだったな。
しかもこれは人に対しても使える。
遠目から人を見ているとプロフィールのようなものが表示されたのだ。
まぁ、その時は直ぐにそれを閉じた。
なんか、知り合いの知りたくない事まで知ってしまいそうな気がして怖くなったからだ。
それにプライバシーの心外で悪いなとも思った。
今後、必要以上に鑑定はしないようにしよう。
とにかく、スキル「超絶」には色んな用途がある。
今後はこのスキルの用途を思い付く限り調べていこうと思う。
そうして時は流れて六年後。
オレは十歳になった。
スキルの用途も色々見つかり慣れてきたが、このスキル「超絶」のことは、まだ誰にも話していない。
と言うか話しても誰も信じてくれない気がする。
スキルの用途は大体、本から学んだ。
オレのスキルなら、本に書いてある事が嘘でなければ大抵のことはできる。
ここの教会の書斎には様々な本が置いてある。
子供が憧れるような勇者の冒険譚や料理のレシピ、超能力みたいな特殊能力系の入門書みたいな胡散臭い本までジャンル問わず色んな本があるため、もはや図書館レベルに近い。
なんでも、だいぶ前に亡くなったこの教会の司祭が大層な読書好きで集めたものらしい。
しかし本を独占することはなく、寧ろ子供達にも読んでほしいと思っていたようで書斎の本は自由に読むことが出来る。
オレのこの六年間、ほとんどは読書とスキルの実験で過ごしている。
そのせいか、なんか周りはオレことを本の虫みたいに言うやつが増えた。
スキルの実験で身体を動かしたりしてるけど、それは勿論、周囲に内緒にしてるから仕方ない。
むしろ、本の虫なんて言われてる奴は他にも居るし、目立たないのでオレとしてはありがたい。
それに読書はどちらかと言うと好きだからな、オレ。
今日も今日とてスキルの幅を広げるべく書斎で本を読んでると外から泣き声が聞こえてきた。
……自己主張してるみたいに思いっきり泣いてるみたいでかなりうるさい、集中出来ない。
他にも読書をしている子は居るが…気にせず読書しとる。
中々に集中力のある子たちだ、ドライなだけか?
とりあえず、うるさいし気になるから書斎のドアから顔出してみると…書斎の真ん前に居た。
どおりでうるさい訳だ、てか何で此処で泣いてる?
泣いているのは四五歳くらいの獣人の女の子。
その隣に女の子を慰めているのだろうか、オレと同い年くらいの女子二名。
後、シスターが居た。
「――あ、ごめんねぇエクトくん、騒がしくしちゃって…」
オレに気が付いてシスターが声を掛けて来た。
この間延びした喋り方、そう、このシスターはレベルやスキルに付いての授業をしていた人だ。
名は「ローネ」、みんなはシスターローネと呼んでいる。
金髪でパーマの掛かったような癖のあるロングヘアーでグラマスな体系。
目は糸目で常に柔らかい表情を浮かべる朗らかな感じの女性だ。
それと、他の三名だが…オレは知らない。
さっきも言ったがオレは読書とスキル実験ばかりしていたから、誰ともコミュニケーションをとっていない、従って友達は居ない。
精々、シスター達と目立ってるような奴の名前を覚えてる程度だ
三人もオレに気付いてこっちを向いて…。
「「「……誰?」」」
オレが聞きたい…ていうか泣き止んだなオイ。
とりあえず互いに軽く自己紹介。
一人は「ラァナ」。
腰の辺りまで伸びた青髪のストレートヘアーに瞳も青い。
クールでお淑やかな感じの女の子。
服の下から僅かに見える肌に青い鱗のようなものがある、竜人族らしい。
二人目は「サリーユ」
金髪に金の瞳。
ラァナと同じロングストレートヘアーの髪型
気の強そうな感じで何故かオレのこと睨んできてる。
こちらは耳が長く尖ってる、エルフか。
三人目「ケティ」
泣いてた子だ。
茶髪で癖のあるショートヘア。
泣いてたせいか気弱なイメージがある。
犬の耳が頭から生えた獣人だ。
まだ幼いせいか耳は先が丸まってるし尻尾も短い。
「で、何で泣いてた?」
さっさと本題に入る、特に話すこともないし。
「…グスッ……これ…」
ぐずりながらケティがあるものを見せて来た。
少し小さめの熊のぬいぐるみ、ただしお腹が裂けて真っ二つ、綿が飛び出てる。
「…これは?」
聞いてみるとラァナが答えた。
「それ、ケティの大切な物なんだけど…さっき男の子達が意地悪して、それで引っ張り合いになって…」
それで裂けたと…。
「あいつら…今度会ったらタダじゃおかないわ…ッ!」
サリーユが苛立ちながら呟いてた…目がぎらついてる。
シスターローネが耳打ちして教えて来た。
「あれ、ケティちゃんの亡くなったお母さんが作ってくれた物らしいのよ~」
なるほど、しかしそれなら…。
「直せば?」
とシスターローネに聞いてみると。
「ごめんなさぁい、私、裁縫はちょっと~」
出来ないのか、じゃあ出来る人に直して…まてよ?
オレのスキルでも裁縫は出来るか?
まだやったことないし、試してみるか。
「ケティ、それちょっと貸してみてくれないか?」
オレがそう言うとケティは、えっ…と驚いて破れたぬいぐるみを抱きしめた…あれ?
「ちょっと、あんた何する気よッ!?」
サリーユが噛み付いてきた…盗られると思ったのか?
「…それ、オレが直してやるよ」
と言うとサリーユがまた食って掛かってきた。
「あんた、直せるの?」
「多分…大丈夫のはず」
「多分ってあんた…」
オレはケティの前に歩み寄り(多分)優しい声色で。
「ケティ大丈夫、盗ったりしないし壊したりもしない、約束する」
そう言うと彼女は少し迷いは見せたが最後には渡してくれた。
「よし、シスター裁縫道具ある?」
「…えッ…あ、うん、ちょっと待っててね~」
少々困惑気味だったが駆け足気味に取りに向かった。
さて、上手く出来るだろうか。
結果だけ言うと…上手くいった。
ただ…上手く出来過ぎた。
シスターから裁縫道具を貸してもらい、いざやってみると十秒と経たぬ間にあっという間だった。
しかも破れた箇所の縫い目が見えない、完全に元通りに出来た。
ケティ以外の見ていた三人はポカンとしてたが当のケティは満面の笑みでお礼を言ってきた。
オレは裁縫知識はまるで無かったが、何か身体が勝手に動く感じにすんなり出来た。
どうやら、やろうと思った事は知識は関係無く出来るようだ。
オレのスキル、まだまだ底が知れない。
後、あれからケティはオレを見かけると、お兄ちゃんと言って腕に抱き付いてくるようになった。
………懐かれた。
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