第七話 洗ったらシルバー
小さな村なので冒険者ギルドは無いものの、村長さんに聞いたら色々教えてくれた。
まずはステータスの話から。
神殿に行って『祝福紙』と呼ばれる羊皮紙を買って『サーチ』と唱えると自身のステータスが表示されるらしい。
ただその羊皮紙、かなりお高いようで、普通は1度表示させたらずっとそれを身分証明書に使うらしい。
更新をするのは中級以上の冒険者か騎士団の騎士とかぐらいらしい。
そしてギルドカードはその羊皮紙に基いて作成される為、羊皮紙の提出が必要になる。
ただ、職員とは言え他人に見られるのが嫌な人は、一部を隠しての提出も認められているとかで、普通はスキルを隠して提出するらしい。
それでも名前と種族は表示のままにしないといけないようで、亜人や獣人なのを隠しての登録は出来ないとか。
それと賞罰の表示も必要らしく、それ以外を折り畳んで縫い付けて提出するらしい。
もっとも、簡易祝福紙と言うのが最近出来たらしく、金貨2枚と逆に高いものの、名前と種族と賞罰しか表示されないらしい。
またその場合はギルドにそのまま渡しても良いので、ギルドカードに転写という形になり、あたかも印刷のような綺麗なカードになるらしい。
なので手書きのカードは貧乏人の印とか言われ、それなりのランクになった冒険者は簡易祝福紙での更新をするって話だ。
とっても博識な村長さんでした。
◇
まあ、村長さんに話を聞く前に、裏技魔石をちらつかせ、話を聞かせてくれとお願いしたんだ。
そうしたら詳しく教えてくれたので、お礼にと渡しておいたって訳さ。
山奥から出てきたという言い訳で、山の民かと聞かれて仕方なく、そうだと答えて何とかなっている。
ヘルメットに関しては山の獣の卵の殻で誤魔化し、工具類は山の民の工芸品を作るのに必要だと答えておいた。
どうやら連れているワンコが山犬らしく、それで信憑性が出たとか言われて。
あいつ、山犬だったのな。
世界に国はたくさんあって、この国は比較的小さいほうだとか。
主な特産品として、岩塩があるらしく、調味料と言えば塩のみって感じらしい。
道理で塩味の料理ばかりだと思ったよ。
隣接の国に岩塩を売り、その金で食料品とか他の調味料なんかを購入しているらしい。
主食は小麦を使ったパンとかが主で、後はイモ類が多いらしい。
他にも豆類があるが、粉にしての加工食品にするらしく、春雨使用のピラフもどきは村の主食に近いとか。
後は酒類だけど、大麦があんまり採れないので、エールがかなり高いらしく、芋や豆を使った酒が主に飲まれているらしい。
だからあんなにエールが高いのね。
他には野菜や果実だけど、例のサバに似た味のサンバという野菜が村の特産品になっているらしく、塩漬けにして出荷しているらしい。
果実は『リンプル』と聞いて、もしやと思えばやはりリンゴ風の果実。
アップルとリンゴを足して2で割ったような名前は、何かの意味があるのかな。
でもさぁ、味が梨なんだよな。
看板に偽りありだぞ。
他にもそれっぽい果実があるが、味が悉く予想を裏切るんだ。
イチゴ風の果実は桃みたいに甘いんだけど、桃みたいな果実は非常に酸っぱい。
かと思えばレモンみたいな果実の味がやたら塩辛いとか、なまじ似ているだけに馴染むのに時間が掛かりそうだ。
もっとも、桃みたいで酸っぱいと言えば梅だから、でかい梅と思えば良いだけだ。
でもさぁ、それでおにぎりを作るとなると、ドンブリメシが2杯は必要になりそうだ。
一辺が20センチのおにぎりとか、ちょっと見てみたい気もするけど、実際に作ったらきっと食べ切れないぞ。
その前に、米が無いんだけどな。
どうやら村長さんも知らないようで、山の民の主食と言って誤魔化したものの、手に入らないとつまらないな。
とりあえずは塩辛いレモン風の果実をいくらか購入し、塩分補給に利用する事にした。
「それおくれ」
「塩果かいな。5個で銅貨1枚だの」
かなりお買い得?
1個当たり、日本円にして60円って感じかな。
旅人は水袋にそいつを切って入れ、薄い塩水にして日持ち良くするのだとか。
まあ、水腐りは腹痛の元だし、そいつは見習うとしよう。
何の動物かは知らないが、その胃袋を使ったという水袋はかなり大きく、2リットルぐらいは入りそうだ。
塩果を半分にして放り込み、後は舐めながらの旅になるとか。
切らなければ半年ぐらいは余裕で保つらしく、旅には塩果が必須とまで言われているようで、どの村でも大抵は栽培しているとか。
そのせいもあり、岩塩と合わせて塩がかなり安いとの事だ。
そのぶん、他国では塩果もあんまり育たないらしく、塩がかなり高いとか。
どうやらその訳は、土壌に含まれる塩分が原因のようで、塩害で育たない作物とは裏腹に、塩が無いと育たない果実のようだ。
だからあんなに塩辛い果実になるのかも知れない。
ただその塩果を植えるとその周辺の土壌の塩分濃度が下がるようで、小麦畑のあちこちに植えられている。
そういうのは原理は知らずとも生活の知恵みたいなもののようで、言われてみればそういう理由なのだと理解が及ぶが、肝心の生産者は知らなかったりする。
だから経験則でやっているだけで、実際にはその原理は誰も知らないんじゃないかと思ってもみたり。
◇
今日は宿屋のわらベッドのわらを交換するらしく、交換したゴミをもらいました。
燃やして灰を得ようと思った訳で、手持ちのサラダ油を転用しようと思ったんだ。
なんせ油は確かにあんまり安くはないけど、料理とか特にする気も無いので使わない代物だ。
それでも本当なら置いておきたいところだけど、荷物が多いので邪魔になる。
なのでどうせなら使える代物にしようと思ったんだ。
かつて、親から得られなかった生活用品に対し、買えば金が掛かるからと手作りを色々やっていた。
まあ、石鹸ぐらいは安いんだけど、それでも親は使わせてくれなくて、台所の油をちょろまかして自作していた。
なんせ家の生活用品は各自で管理していて、洗面所には何にも無いんだ。
そこに石鹸でも置いてあれば使えるのに、どうあってもオレに使わせたくなかったのか、その手の品が無かったんだ。
当然、風呂場にも何にもなくて、手作り石鹸で洗っていた。
もちろん、風呂は最後と言われていて、使い終わったら洗うのもオレの役目だった。
だからまともに動けるようになった頃から猟師会に入り浸りになり、そこで色々手助けをしてもらっていた。
そんなだから親からの愛情など感じた事もなくて、自然と親離れになったんだと思う。
もし、戻れたとしても、もう会いたくないし。
◇
サラダ油が石鹸水に化けたので、ランダロフと共に身体を洗います。
村の中を流れている小川でまずはランダロフを水に浸けます。
嫌がるので服を脱いで共に水に飛び込み、濡らしたところで石鹸水を塗りたくって泡立てます。
「こら、プルプルするな」
ゴシゴシゴシゴシ……お前、洗った事無いだろ。
灰色の犬かと思えばシルバーじゃないかよ。
おお、洗えばシルバーの毛がキラキラと輝いて、綺麗になるじゃないか。
「お前、洗ったら格好が良くなったぞ」
「……ブフン」
妙に威張っています。
石鹸を川で流してやり、離れてプルプルしろと言ってやると……プルプルプル……ううむ、便利だな、あれ。
ランダロフが綺麗になったので、自分でも洗おうとまたぞろ石鹸水をタオルに。
さすがに素っ裸ってのも何だけど、脱がないと洗えないから仕方が無い。
開き直って身体を洗い、タオルで拭いて服を着る。