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第三話 ゴブリン、食えないかな

  

 ああ、もう朝か、仕事に行かないと。


 あれ、ここ、何処?


 記憶が曖昧だ。


 ええと、確か、ああ、そうだ。

 朝起きてコンビニで買い物をして、店を出たら異世界で。

 ああ、夢じゃなかったのか。


 んで、ゴブリン見つけて殺して、魔石って言ったかな、それを拾って移動して、村に入る時に身分証無くしたって言って、金も無い代わりにと、ゴブリンの遺品であるところの魔石1個で入れてくれて、交換所も教わって魔石を……この店で遺品の事を魔石だと知ったんだ。

 んで全部売っていくらかの金にして、宿は村に1軒しかないって言われて、一番安い部屋を頼んで所持金が半分になったんだ。

 でまあ、とりあえず部屋に入ってカギ閉めて、着替えようと……ああ、そのまま寝ちまったのか。


 やっぱり精神が疲れていたんだろうな。


 四つ足では経験があったけど人間もどきは初だったしな。

 そういや腹が減ったな。

 ええと、素泊まりでメシは外だと言っていたな。

 てか、いきなり異世界のメシは難易度が高いぞ。

 今日のところは買出しの品で……あああ、そういやおにぎりが腐るぅぅぅ。


 賞味期限越えているけど、大丈夫だよな?


 いや、今の時刻は分からないけど、ここには賞味期限4時になっている。

 どのみちこちらとあちらの時差とかもあるだろうからあてにはならないけど、今が朝なら腐るまでは行ってないはず。


 うん、美味い。

 とと、お茶お茶。

 あー、サンドイッチもあるな。

 こりゃ賞味期限のヤバいのは全部処分しとかないと、腐らしたらもったいない。

 まあ、菓子パンは明日でも食えるし、バランス栄養食なら数年も可能か。


 そういやこれ、どうすっかな。


 オレは酒を飲む関係で甘い物はあんまり食わないんだけど、監督が甘党なんだよな。

 だから甘い物がたんまりあって、オレが食う予定だった酒の肴はあんまり無い。

 荷物整理とばかりにリュックに酒の肴を詰め込み、おやつをその上に……入らないぞ。


 クッキーの箱が妙にかさばるが、まさか捨てる訳にもいかんよな。

 チョコレートも大量に買えとか言われて、10枚もあるけどどうすんだこれ。

 小さなチョコも箱ごと欲しいとか、ガキかよって思ったよ。

 だけど採用してくれたんだし、断る訳にいかなくてさ、余分に買っちまったぐらいなんだ。

 だからそんなのが大量なせいで、どうにもリュックに入らない。


 手に持って歩くとか、戦いのたびにそこらに放り投げとかさ、うっかり踏んだらヤバいよな、安全靴だし。

 ただでさえ甘い物はあんまり好きじゃないのに、踏んでぐちゃぐちゃになった菓子とか食いたくないぞ。

 仕方が無いからコンビニ袋に着替えた普段着を入れようとして思い出す。


 あ、そういや土嚢袋があったよな。


 ゴミ入れに使おうとリュックの中に数枚、入れておいたのが役に立つぞ。

 早速、着替えやら普段着やらを入れ、踏んだら困るような代物をリュックに詰めておく。

 ビニールやナイロンの袋は何かに再利用しようとサブポケットに入れ、リュックに土嚢袋を固定する。

 ただでさえでかいリュックが更にでかくなったけど、今はこれでやるしかないな。


 買った品物を1個1個ナイロン袋に包んでいた店員さん、資源の無駄と思っていたけど、今となってはありがたい。

 なんせおにぎりを1個ずつ、サンドイッチも1個ずつ、ライターも1個ずつで調味料も1つずつってやっていたからな。

 袋系は土嚢袋3枚、コンビニ袋2枚、ナイロン袋80枚もあった。

 あの店員さん、毎回こんな事をやっていたら、店長にバレたら叱られるぞ。


 後はメシ食った後のビニール系のゴミだけど、これも一応取っておこう。

 どうにも石油化学とか欠片も無さそうな世界だし。

 こんなのでも何かに使えるかも知れないのと、うっかり誰かが拾って騒ぎになっても嫌だからな。

 もちろん、お茶のペットボトルもだけど、そのうち邪魔になるようなら燃やして証拠隠滅しないとな。


 スウッ……はぁぁぁ……


 滅多に吸わないけど、たまに欲しくなる。まさに今がそんな時。

 宿の2階の部屋の小窓……木の板みたいなのを外したら窓だった……から身を乗り出し、タバコ咥えて食後の一服中。

 うちの田舎の村とあんまり変わらない風景だけど、電柱は1本も無い。

 もちろんアンテナも無いし、アスファルトなんて欠片も無い。

 踏み固められた地面は土の色そのままで、路肩には溝すらも無い。

 これで雨が降ったらどうするんだろうと、そんな事を考えながらこれからの事に思いを馳せる。


 しばらくはここで小金を稼ぎながら暮らし、そのうち他の町とかにも行ってみたいな。

 違う世界なんだし、見た事も聞いた事も無い景色とか、珍しい生き物なんかも居るに違いない。

 おやっさんには悪いけど、今は戻り方とか分からないし、事によるともう戻れないかも知れないし。

 今はそれを忘れてここでの暮らしを確立しようと思う。

 そんな事をぼんやりと考えていたら、火が根元まで来ていて火傷をしそうになり、慌てて携帯灰皿でタバコの始末をした後、小窓に木の板を取り付けておく。

 さすがに表に面したほうでの喫煙とか、火の粉が飛んだらヤバいもんな。

 だからわざわざ裏庭のほうの閉めてある小窓を開けたんだけど。


 とりあえずヘルメットは目立つので腰にぶら下げ、工具類も使わないだろうからリュックの隙間に詰め込んでおく。

 まあ、バールとナタは使いそうだけど。

 かなりパンパンになったリュックを背負い、忘れ物が無いかを確かめて階下に降りていく。


 1泊銅貨18枚の宿で、残りの金は銅貨12枚。

 ゴブリンの魔石は1個が銅貨10枚だったんだ。

 それを村に入る時に1個渡して残りを売ったんだけど、今日も同じ事をやらないと宿には泊まれない。

 だから荷物纏めて出る羽目になっちまったんだ。

 本当は身軽な状態で戦いたかったけど、さすがに荷物は放置出来ない。

 おにぎりとサンドイッチとペットボトル1本分の重さは減ったけど、まだまだ重い荷物。


 でも、妙に身体が軽いんだ。


 これはもしや、レベルアップとか、そんな事があるんじゃないのかな。

 そうして元の世界でやるなら中二病と言われる台詞の後、顔がホカホカになりました。


 まあ、ゲームじゃないんだから唱えても出ないよな、ステータスとか。

 もうじき二十歳だと言うのに、いつまで中二病を引きずってんだか。


 あれ、オレの誕生日って何時だっけ?


 そんな祝いとかされた事も無かったから、あんまり馴染みが無いんだよな。

 ええと、確か……あれっ、昨日か?

 村の15才元服成人方式のせいで、二十歳と言っても特に何も感じないな。

 普通なら酒とタバコが解禁とか言うんだろうけど、15才で解禁にしてたしな。

 それで何も言われないとか、あの村ヤバいよな。


 それはともかく、狩りに行くと言って村を出る。

 そうして村から出てヘルメットを被り、左手にバールで右手に……うおおおお。


 血を拭いてなかった。


 黒ずんだナタはまるで、殺しの後の凶器のようで、昨日の惨劇が想い起こされる。

 無我夢中のうちに戦ったけど、やっぱりこうして見ると殺し合いだったんだなと思う。

 田舎で狩りに慣れてなかったらきっと、まともな戦いにはならなかったろう。

 そうして怪我して倒されて、誰にも知られないままに屍を晒していたのかも知れない。


 いや、殺されたら食われていたろうな。


 あいつらも生きる為の殺しだろうし、それが本来は当たり前の話だ。

 かつて猟師の人からそういうのはしっかりと教わって身に付いているから、特にそれに対しての嫌悪感は感じない。

 オレもお前らを殺してその遺品を取り、生活費にするんだから意味は同じだ。


 この世界は平和な日本じゃない。


 ならば山での経験のままに、山の理屈で動くしか無いだろう。

 そう、弱肉強食という自然のルールに従い、オレはお前達を殺す。


 2日目のせいなのか狩りの心得が心に響いたのか、昨日のような無我夢中という意識にはならず、落ち着いて敵の動きが見て取れる。

 やはりかなり動きは遅く、バールで跳ね除けるとヨロヨロとしている。

 そうしてそのままナタで斬れば倒れて、しばらくしたら消滅する。


 魔石ゲットってか。


 どうにも殺伐とした日々になりそうだけど、今のところは他に稼ぎの方法が分からない。

 とにかくあれを狩って魔石を手に入れれば、とりあえずは宿代にはなる。

 まだ食事のレベルが分からないけど、安く食えるようなら味は特に気にしないようにしよう。

 てかさ、倒して食える生き物は居ないのか?


 ゴブリン、食えないかな。


 そんな事を思いながら、水場でナタの手入れをしておく。

 狩人たるもの、得物の手入れは当然って、よく言われていたもんな。

 しまったな、こんな小さな砥石じゃまともに研げないぞ。

 そろそろ買い換えようかと思っていた矢先にこんな事になっちまってよ、どっかに売ってないかな。

  

ナイロン袋のくだりは実話です。

もちろん、体験したのと見ただけです。

目の前で叱られていたので。

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