第二十五話 最終話 世界の調停者
城っぽい建物の近くに降り、当たり前の顔をして中に入っていく。
うん、変に挙動不審にしないほうが、かえって咎められないものだよな。
相手が勝手に勘違いしてくれるみたいで、特に制止される事も無いみたいだし。
『見ない顔だな、新入りか』
「おう、よろしくな」
『うむ、こちらこそだな』
「で、ボス、見なかったか」
『魔王様ならば、この先で瞑想しておられるが』
「ああ、結果待ちか。よし、んじゃ、急いで報告に行かないと」
『そうであったか。引き止めて悪かったな』
「いやいや、構わないさ。んじゃ」
『うむ、勤め、ご苦労である』
ざっとこんなもんよ。
さーてと、いよいよ開始だな。
ほうほう、人型の魔族か。
確かに威厳と言うか、近寄りがたい雰囲気はあるな。
ううむ、どうすっかな。
ちょっと怖くなってきたぞ。
『誰だ』
うひゃぁぁぁぁ。
『何者だ』
「えーと、森の民からの祝儀の使者だよ」
『ほお、今回は素直に使者を寄越したか』
「いや、毎回、寄越すつもりが人族のせいで台無しだったと言ってたよ」
『ほお、そうなのか』
「元々、特に争っている間柄でも無いのに、火の粉が飛んできて抜き差しならなくなったって」
『それが真意ならば、後に友好の使者を送っても良いかも知れんな』
「ああ、きっと喜ぶよ」
『ふむ。なれば後は人族が問題か』
「今のところ、オレが全権大使みたいになってるから、ここで和解になればそのまま終わるよ」
『お前、森の民の関係者では無かったのか』
「顔が利くって感じかな」
『そうか。それが本当なら、しかし』
以前が以前だったから、いきなりは信じられないか。
別に嘘じゃないから『詐術』もまともに効かないのかな。
「で、貢物は何処に出せばいい」
『おお、そうだったな。そこに出してくれるか』
かなりの量があるんだよな。
あいつらって本当にそれを望んでいたみたいで、念願の国交樹立みたいな気分になっていたし。
『なんとも多いな』
「あいつらにとっては念願の交流の先駆けになるからさ。それで国交樹立になれば、あいつらの念願も叶うってもんさ」
『それほどにも望まれるか。それはこちらとしてもありがたい話だ』
「こちらには森の民と竜族が付いているんだ。人族が嫌だと言ってもどうにもならないさ」
『ほお、竜族も今回は手を出さんのか』
「ああ、だから国交樹立に向けて話を進めると良いよ」
『ふうっ、魔王になってはみたものの、懸案事項が山積みで、どうしようかと思っていたが』
「みんな知らないんだよ。元は人族ってのを」
『まさか、そんな有名な話を知らんのか。道理で魔物扱いされる訳だ』
「魔獣も魔物の親戚みたいに思っているぐらいだよ」
『とんでもない勘違いだな。そんなものに今まで惑わされていたとは』
「今ね、オレ以外にも魔人が5人居るんだよ。そいつらもこちらの味方になると思うし、しかも上位の冒険者だから、あちらの陣営は限りなく頼りないよ。だから今回が最初で最後のチャンスになると思うんだよ。だから皆とも相談してより良い結果になるようにしてよね」
『ああ、そうさせてもらおう』
「じゃあ、結果報告に帰るよ。森の民の連中も、待ち焦がれていると思うし」
『よろしく伝えてくれ』
「ああ、分かっているよ」
ああ、良かった。
話の分かる相手で。
『どうなったんだ』
「あのな、竜の長に伝えて欲しいんだけど、森の民と魔族が国交樹立するからさ、人族へのけん制を頼めないかって」
『やっとそうなったのか。オレ達が何度説得しても聞く耳持たなかった人族も、これでようやくおとなしくなるか』
「魔族と森の民と竜族の連合軍に勝てる存在は居ないよ」
『はっはっはっ、確かにな』
◇
そうしてオレは森の民に結果を伝え、ほどなくして国交樹立が成った。
驚いたのは人族の面々だったが、竜の長からの通達でどうしようもなくなり、更には知られざる真実が暴露された為に、今までの魔王討伐は単なる侵略戦争だったと理解され、なし崩しのように騒ぎが収まっていった。
それでも一部の者達が騒いでいたが、肝心の人族ナンバーワンの上級冒険者パーティが味方にならないのでどうしようも無く、しかもあいつら、クラビレットには信奉する下部組織がたくさんあり、それらもそっくり賛成派になったから、どうにもならなかったらしい。
それを受けて、ギルドも賛成派に傾き、現在では魔族の冒険者を受け入れるかどうか、という会議をやっているはずだ。
そうして新時代到来とも言える、魔族と人族の和解が成立し、それぞれの国の元首と現魔王の名が歴史に刻まれた。
それは良いんだけど、あの魔王様って意外な好みと言うか、あれは教えないほうが良いよな。
さてと、商会の売り上げもかなりになったし、仕入れますかね。
こちらで作るもの良いけど、出来合いのほうが味が良いかな。
となると、有名処の品が良いんだろうけど、生憎と知らないんだよな、そんな店とか。
どうすっかなぁ。
まあ、今回はインスタントでも構わないか。
どのみち、甘ければ何でも良いらしいし、特に拘る事も無いのかな。
それにしても。
甘党の魔王かよ、くっくっくっ。
「ウォフン、ウォフン」
ああ、お前もそう思うか。
「グフン、グフン」
奥さんもそう思うんだな。
よし、ちょっと行ってくるよ。
留守番を頼むな。
「ウォン」
かくして、甘党の魔王に貢ぐはずのぜんざいはインスタントになりました。
その代わり餅はつきたて、とかいうのを大量に仕入れています。
後はでかい鍋とどんぶりと、付け合せに白菜の漬物も用意しています。
聞いた話ですけど、ぜんざいの付け合わせには、白菜の漬物が良いそうです。
本当かどうかは知りません。
なんせオレは甘い物はあんまり好きではありませんから。
それはタイランに聞いた話です。
あいつって酒飲みの癖に甘い物も好きとかさ、次からは酒とまんじゅうを持って来いとか言いやがって。
まんじゅうをつまみに酒を飲むんでしょうか?
さすがにそれは想像も付かないですよ。
それとも、ドラゴンになって味覚が変わったのかも知れないですね。
魔族の女性達の味見という名のつまみ食いの成果もあり、とっても美味しく出来たそうです。
皆は美味しそうに食べていますが、見ているだけで胸焼けがしそうです。
オレにはあんな物は食えないな。
確かに餅は食えるけど、あれには砂糖が大量に使われていて、物凄く甘いらしいし。
カチッ、シュボッ……すぅぅぅ、はぁぁぁ……
ふうっ、これでとりあえずは役目も終わりか。
最初は決死隊な気分だったけど、実際は特に問題も無く終わったな。
それにしても、元は人族か。
確かにそうだけど、魔族も同様だったなんてな。
なら、オレもそのうち魔族になるって事かな。
となると、人族の寿命とは比べ物にならないって事か。
山犬たるランダロフも魔獣になって長生きになったのだとしたら、同じになれて良かったって事かな。
これからもずっと一緒なんだな。
『珍しい物を嗜んでいるな。それも異世界の産物か』
「吸うか」
『ああ、もらおうか』
ライターで火を付けてやると、ライターにも興味を示したので、新品のタバコと共に進呈しておいた。
『ほお、味は薄いが、これぐらいのほうが良いな』
オレの愛用の銘柄だが、好みが合うのならまた取り寄せるさ。
『今回の事では世話になったな』
「構わないさ」
『実はもち米を植えようと思う』
「ならば小豆も植えないとな」
『ふむ、ならばサトウキビもだな』
「魔大陸名物、甘いぜんざいか」
『名物になるだろうか』
「きっとなるさ」
『ならば良いが』
「必要で仕入れるから、話がまとまったら言ってくれ」
『ああ、その時には頼むな』
交易の話だけど、内容が甘いのでどうにも締まりません。
だけど、それぐらいの魔王様のほうが親しみがあって良いですよ。
そして種籾と小豆とサトウキビの仕入れの後、それぞれの部署に配っておきました。
農作物の本も資料として取り寄せましたが、書籍はカタカナ以外も使われているので、翻訳もどきをする羽目になりましたが、ワープロを仕入れたので楽になりました。
本当はパソコンのほうが良かったのですが、あいにくとネットも無い世界ですし、他の機能は使えないので、単一機能にしました。
やっぱりああいうのは小さな頃から馴染まないと、使い辛いものですね。
今、苦労しているのはタイピングです。
まるで雨だれのように、ポツンポツンと打っています。
『はははっ、お前、そんなんじゃ時間がいくらあっても足りねぇぞ。おら、貸してみろ』
人化して遊びに来るようになったタイランですが、酒とまんじゅうが必須になったので、消費が増大して困っています。
それでもそれを手伝ってくれるのなら、報酬という事にしても良いですよ。
『ああ、きっちり仕上げてやるから、酒とまんじゅうはたんまり用意しておけよ』
はいはい、分かっていますとも。
カカカカカカカ……カカカカ……カカカカカカカカ……
すげぇぇ、指が霞んで見えるぞ。
『ふふん、懐かしいが、まだ忘れてないようだな』
それがオタクの実力か、大したもんだ。
『ふっふっふっ、任せろってんだ』
だけど、人化した竜が作ったと知れたら、びっくりするだろうな。
さてと、酒とまんじゅうを仕入れますか。
裏設定で使わなかったのを最後にぶっちゃけました。
なのでどうにもごった煮みたいになってしまいました。
そして必然的にグダクダになってしまい、申し訳無いです。
それでも不定期を覚悟していましたが、意外と早く終わりました。
後は他の小説に専念する事になりますが、そちらのほうも
よろしくお願いします。
拙い話に付き合っていただき、感謝です。
本当にありがとうございました。




