第二十三話 魔法イメージ拡大
久し振りに暴れて、ランダロフは満足しているようです。
オレは空中機動をやったので、戦場を縦横無尽に飛び回わる事になり、新魔法のデモンストレーションには最高だったと思います。
あれで希望者が増えるとレクチャー依頼も発生しますが、そういうのは既に覚えて活用している面々に流れる為、オレのところには滅多に依頼が回って来ません。
それはそれで問題無いのですが、やはり考案者としてはより高度な活用を見せる必要があると幹部の人に言われ、仕方なくあんな派手なデモンストレーションになったのです。
竜族の調停者としての立ち位置も、今では滅多に仕事も舞い込まないので、別の貢献をしないといけないので大変です。
なのでデモンストレーションと、熟練者の為の応用編の依頼が今の仕事になっています。
でもそれだけでは何時か、ネタ切れになってしまうでしょうから、何か他の貢献の方法を考えなくてはなりません。
そう思ってある魔法を討伐の時に使用したのですが、おいそれとは広められない魔法になってしまい、自分と幹部だけの秘密になってしまいました。
それでも活用法が見つかったので、依頼を受けて秘かに対処しています。
それぐらい、強力無比な魔法なので、悪用されたら大変な事になってしまいます。
本来、魔法に使うイメージが貧困だったのですが、最近、それが得られるようになったのです。
やはり魔法にはイメージが大事ですね。
◇
最近、DVDレコーダーなるものを仕入れました。
そして様々なDVDを仕入れた結果、魔法のイメージが莫大になりました。
まずは自然のドキュメンタリー番組から、ダウンバーストを魔法で起こせるようになりました。
火の魔法が実は、物質の振動数の変動と気付いてからは習得も早くなり、今では様々な温度の火魔法が可能になっています。
実は冷蔵庫にもそれが活用されていて、場合によっては冷凍庫になったりもしています。
そのダウンバーストですが、水魔法で湿気を表現し、風魔法で竜巻のような状態を作り出し、湿気た大気を上空に送り出します。
そうして火魔法で振動数を下げてやれば、積乱雲のような状態となり、限度を越えた氷混じりの大気は突如として急速に落下を始め、番組で見たような現象に発展します。
もっとも、傍迷惑なので滅多には使えませんが。
他には戦争映画からもイメージを得ました。
超高温の火の球をイメージし、濃密な魔力溜まりに打ち込んでやるんです。
そうするとそれが周囲のマナを取り込んで大爆発を起こします。
いわゆる気化爆弾風になりまして、魔力溜まりの消滅に効果があります。
本来の爆弾とは全く違うのですが、これでも魔物暴走の予防にはなるようで、お手軽なので愛用しています。
つい先日の魔物暴走の群れの中にでかいのが居まして、そいつに打ち込んでやったら消し飛んでしまいました。
咄嗟にそこらの集団に紛れましたが、下手をすると禁術指定されそうでヤバいです。
しかもそれが群れのボスだったらしく、魔物の勢いがそれで止まってしまい、そのまま討伐成功になりはしたものの、そのボスを誰が倒したのか、しばらく問題になっていました。
あの事は自分と幹部だけの秘密です。
◇
そう言えばランダロフに子供が産まれました。
あ、いや、奥さんが産んだんですけどね。
オスとメスの2頭なので、早速命名しておきました。
彼には言葉の意味が分からないようですが、言葉の響きが良かったか、気に入ったようでした。
男の子はライオス、女の子はメロフです。
ライオンのオスをイメージしたのと、メスの使い魔をイメージしたものです。
ランダロフに早速、ゴブ肉ジュースの催促を受けてしまいました。
子供達にも飲ませたいと、奥さんも賛成しているようでした。
確かに普通の山犬よりは魔獣のほうが賢くて強靭です。
だから安心なのでしょうが、これでは天然の山犬が増えませんね。
もっとも、他に山犬で魔獣の夫婦も居ないでしょうから、そういうのは他の山犬に任せておきましょう。
そんな訳で4匹に増えた我が家の従魔達ですが、登録は既に済ませてあります。
無骨な首輪ではなく、お洒落なチョーカーのようなものを首に着けています。
実はそれは魔導具になっていまして、町の門の別の魔導具によって識別が成され、走り抜けても問題が無くなっています。
もちろん、警報が鳴ればすぐさま対応されるのですが、偽物でも無い限りは警報は鳴りません。
これは元々、お貴族様の馬車の馬に付ける識別魔導具として開発したのですが、従魔にも応用出来ると気付き、早速にも応用したものです。
さすがにあちらの品ばかりを売る商会というのも拙いので、自家製の商品としてこれを開発しました。
その結果、伝令が馬での移動時に、門でのチェックが不要になると、騎士団のほうから購入依頼が来まして、その使用感から、あちこちの騎士団からの注文が相次ぐようになり、嬉しい悲鳴をあげています。
この場合、伝令も同じようなチョーカーを身に着ける必要がありますが、奴隷の首輪とは全く違うので、ちょっとお洒落なネックレス風な魔導具として、特に嫌がられる事も無いそうです。
実はこの商品は、クラビレットのメンバーのビアンカとレイモンドとの共同開発になっていまして、彼らの補助魔法と付与魔法が多大な貢献になっています。
それに、装飾品と言えば女性の意見は貴重であり、無骨な首輪がお洒落なチョーカーになったのはビアンカの功績です。
そして激しい乗馬でも破損しない強度の策定にはレイモンドの意見も採用し、試作品を身に付けての乗馬は何度も試してもらいました。
そんな訳で純利の4割をそれぞれに渡す事になりまして、自分の儲けは殆どありません。
それでもカモフラージュの意味合いが強いので、特に問題はありません。
もっとも、彼らの儲けはそのまま、ウイスキーとチョコレートに化けるのですが。
ちなみに、この商品発表の時に、担当の人が頭が固く、どう説明しても理解されなくて困った事がありました。
なのでクラビレットの面々と門番の人達で小芝居をやりまして、それで他の参加者にも周知されたという経歴があります。
タッタカタッタカ……『ピンポン』
タッタカタッタカ……『ピンポン』
タッタカタッタカ……『ブブー』
「「止まれぇぇぇぇぇ」」
と、こんな感じです。
ちなみに音は呼び鈴の流用です。
なのでチェック用に伝令門なんてのが出来る事になりました。
丸太を組み合わせた質素なものですが、センサーだけなので問題ありません。
そしてそれは今では王都にも適用されてますが、毎月の更新が必要なので、本当に必要な人以外には不便な代物となっています。
やはり防犯の意識は大事ですしね。
◇
またしても緊急連絡です。
さて、今度はどんな事件なんでしょうか。
《すぐ来い》
《何があったの》
《とにかく来い》
《分かった》
おかしいな、理由を言わないなんて。
ランダロフに留守番を頼み、王都まで飛んでいく。
そのまま伝令門を潜り抜け、ギルド総本部のほうに飛んでいく。
会議場には既に、名だたる冒険者が集まり、何かしら話をしている。
「きたか、調停者」
その言葉でどよめきが起こるんだけど、またぞろ竜の関係かな?
「実は大変な事態が発生した。魔王が降臨したのだ」
「それは大変ですが、本当なのですか? 」
「ああ、間違い無い。既に暗黒大陸に黒い光の柱が立ったと連絡を受けている。あれは文献にある、魔王降臨の証だ」
おかしいな、そんな使命とか無いはずなのに。




