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第二話 オレ、人を殺しちまったのか

  

 コンビニを抜けるとそこは草原だった。

 慌てて振り返るもコンビニは無い。

 周囲には誰も居らず、ただ風になびく草があるのみ。


 遥か彼方には雲を頂く山々が連なり、振り返った先には森がある。

 見た事も無い場所なのに妙に懐かしい感じがするのは、その森のせいかも知れない。

 しばらく呆然としていたオレは、まずはほっぺたを叩く事から始めた。


 バシッ……「いってぇぇぇぇ」


 夢じゃない。


 いや、明晰夢めいせきむじゃ痛みもあるように感じるとか、誰かが言っていたような気がする。

 だけどさすがにそれは無いだろう。

 てかさ、このままだとヤバいよな。


 見知らぬ土地、見知らぬ動物、それがおとなしくて可愛いなんて保障は無い。

 それこそ山の親父様みたいなのが居ないとも限らない。

 となれば、このままじゃ拙い。

 田舎での山での感覚のままに、危機対策を開始した。


 周囲に誰も居ないのを幸いに、ストリップが催された。


 いや、別に露出狂って訳じゃなくてただの着替えだけど、田舎でも外で下着姿になるのはあまり経験が無い。

 そりゃ真夏に川原で泳ぐ時にはあるけどさ、こんな草原でとか人に見られたら変態扱いされるのは間違いあるまい。

 そんな訳でそそくさと着替えた訳だが。


 作業服の上下と安全帯、そして安全靴。

 頭にヘルメットで、首にタオルを巻いて手には皮手袋。

 一度脱いだジャケットを裏返し……リバーシブルね……そして羽織る。


 腰には工具の数々。


 その内訳は、ちょっと小さめのバールと、クリッパと呼ばれる針金を切断する工具。

 同じく切断するペンチにニッパにラジオペンチ。

 しのと呼ばれる針金を締める工具にドライバーのプラスとマイナス。

 鉛筆なんかを削る小さなナイフと、木を切る為の折り畳みのノコギリ。

 補助ロープと呼ばれる、カナビラの付いた10メートルぐらいのロープを巻いたもの。


 工具袋の中にはスケール……金属製の巻尺みたいなもの。

 それと鉛筆が1ダースと、石筆の箱と保存食と栄養剤1本。

 ノギスに10センチの物差し、コンパス……円を描くのと方位を知るの両方な。

 黒い被覆の20センチぐらいの鉄線を50本束ねた物。

 後は現場でよく使うけど、持ち歩くと手が後ろに回るナタ。


 いやね、共用のナタってろくに切れないんだよ。


 だからって訳じゃないけど、田舎から持ってきた愛用のナタを仕事に使おうと思ったのさ。

 さすがに都会での使い道は無いだろうと思ったけど、家に置いておくと誰に使われるか分からない。

 ただでさえ使いこんでいるナタなのに、変な使い方をされたら寿命になっちまう。

 だから危険物だけどタオルを何重にも巻いて、こっそりと田舎から持って来たんだ。


 それはともかく、腰のナタをいつでも抜けるようにした状態で、手にバールを持って移動する事にした。

 まあ、バールもヤバいっちゃあヤバいけど、ナタよりはましだよな。

 それにこの格好ならナタはまだしもバールなら、仕事関係だと誤魔化す事も可能だろうと思っての事。


 それにしてもここは何処なんだ。


 肩をトントンとバールで叩きながら、とりあえず前方に歩いていく。


 ガサガサガサ──


 な、何か居る。


 思わずバール片手に、もう片方にナタを持つ。


 これで人間だったら確実に犯罪者扱いされるだろうけど、対策は必要だ。

 なんせ田舎の山じゃ、こういう時にはまず間違い無く動物が出たんだから。

 それがウサギとかならましだけど、タヌキとかでも飛び掛られたらヤバいんだからよ。

 知人が猫の喧嘩の仲裁をしようとして、手首に噛み付かれて病院送りになったぐらいだ。

 だから小動物でも油断がならないから、万全の準備が必要なんだ。


 腰を少し落とし、音のしたほうに注意を向け、何が出ても対処出来るように気持ちを落ち着かせる。


 な、何だ?


 最初は子供かと思ったんだけど、皮膚が緑色なんだ。

 だから風呂に入ってない背の低い浮浪者とかで、汚れているのかと思っていたんだけど、腰に何か巻いただけの裸でさ、手には錆びた……それって剣とか言う武器だよな。

 そいつはオレを見つけると、武器を振り上げて走り出す。


 うおおお、好戦的だな、こいつ。


 剣を左手のバールで受け、右手のナタで……あっ、ダメだ、止まれ、右手、止まって、お願い……ザシュッ……


 峰打ちにするのを忘れていて、刃のほうで叩いちまった。

 いきなり環境が変わったからと言って、殺しは拙いだろう。

 そいつは上半身を斜めに斬られ、叫び声を上げて倒れてしまった。


 オレ、人を殺しちまったのか。


 でも、武器を持って攻撃してきたんだ。

 そのまま受けたらこちらが死んでいたよな。

 それでも過剰防衛なのか?

 だって、あれで斬られたら痛いじゃ済まないぞ。

 だからオレは……ぽわん……ほえっ?


 消えちまった。


 そいつが消えた後に何かが落ちている。

 丸い小さな珠……これ何だろう。

 何か判らないけど、あいつの遺品って事で持っておくか。


 けどおかしいな。


 こういう時ってゲロるって聞いたんだけど、何ともないぞ。

 ただ、法律の事とか犯罪の事とか、そういう事しか頭に思い浮かばない。

 オレ、こんなに冷酷だったのか、知らなかったな。

 人もどきを殺したと言うのに、全然心が騒がないんだ。


 でもあれ? あの生き物、どっかで……


 ああそうだ、空想小説でよく描写のある……ゴブリンそっくりだ。


 ゴブリン?


 ここ、何処?


 ま、まさか、そんな事があるはずが、でも、さっきのは幻覚じゃないよな。


 ガサガサガサ──


 また来たかぁぁ。


 それからも何度かそいつらはやって来て、遺品を残して消えちまう。

 元々、山での狩りの経験もあり、動きが遅くて単一の行動しかしない生き物など、オレの敵じゃなかった。

 そのうちに村のようなものが見えるようになり、オレの足取りも速くなっていった。


 その頃にはもう、ここが異世界だと思うようになっていた。

  

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