第十九話 Sランクへの道
ストックが尽きました。
これからはゆっくりになります。
ギルドでハニービーの巣を提出しますが、うっかりスキルの存在が知られてしまいました。
「また珍しいスキルを持っているわね。それって体重の10倍までの物が入るんでしょ。羨ましいわ」
おかしいな、そんなチンケな効果じゃないんだけど。
「伝手があって手に入れました」
「やっぱり迷宮から出たのね。この国には無いけど、迷宮では珍しいスキルが手に入るって聞くから」
「多大な恩の見返りにもらいました」
「それは儲けたわね。ああいうのは普通、望んでも得られないから」
「はい、ラッキーでした」
スキル『荷物空間』と言うらしいです。
しかも表記が『ニモツクウカン』なんですよね。
あちらの世界とこちらの世界、どうやらただならぬ関係のようです。
どんな理由かは知りませんが、可能なら帰してくれませんかね。
例え一時でも構いませんから。
おやっさんへの不義理がどうにも嫌なのです。
一身上の都合で勤めがやれなくなったと、その一言で何とかなりそうなんです。
これは、こちらからの何かのアクションが必要なのかも知れません。
Sランクパーティ報酬ですか、良いでしょう。
オレとランダロフのパーティでSランクを狙えば良いのでしょう。
そんなの簡単です。
新技と裏技を公開すれば済む事です。
かれこれ5ヶ月が近いですが、今ならまだ間に合います。
これが1年も過ぎてしまうとどうしようもありませんが、今ならばまだ、実家の都合という言い訳も使えそうです。
最後にスマホを見てから2ヶ月弱、新年度までに会えれば何とかなるでしょう。
それまでにお断りを入れれば、会社の都合に間に合います。
さすがにそれを越えての不義理はきついです。
◇
作戦はギルド本部から始まります。
まずは受付にミニチョコの差し入れからです。
小皿で渡すと食べて絶賛。
追加で渡すと言えば、すぐさま可能な限りの上への道を拓いてくれました。
やはり女性には甘い物ですね。
後は重大な発見との触れ込みで、何とか上層部との接触に成功しました。
実は祝福紙の項目を色々と隠して『新技』と言うのを見せたのですが、これがかなりの効果がありました。
後はクラビレットと一時パーティを組んでいたと言うのも有効に働き、彼らから色々学んだとも話しておきました。
なので彼らに話を聞けば、本当の話だと分かるはずです。
更に言うなら、もっとお礼をしたそうだったし、この件で彼らのプライドが満足するなら、それに越した事はありません。
「それは本当なのか」
「詳しくは言えませんが、本当です」
「ううむ、消滅しない方法か。それが本物ならば多大な功績だぞ」
「止めてあったDランクにはすぐさま昇れると思いますが、その功績でどれぐらい行きますかね」
「ううむ、B、いや、Aも可能か」
「しかもその方法だと、取れる魔石が大きいんです」
「なにっ、そうなのか」
「これ、何の魔石と思いますか? 」
「その大きさからすると、普通はオークかリザードマンだな」
「ゴブリンです」
「なんだとっ」
「どうですか。この功績、Sには充分だと思いますが」
「ううむ、確かにな」
「推薦してくれますね」
「分かった。Sランクへの推薦は出そう。なんせ功績としては多大なのだが、Dランクからの4ランクアップというのだけが問題なのだからな、そこさえクリアすれば功績としては充分だ。そうだな、どうせならひとつ、指名依頼をしてみないか? そいつをクリアすればCどころかBにすら届く。ならば2ランクになってまだ推薦も通り易い」
「大きなゴブリンの魔石、暴落する前に売っても良いですか? 」
「確かに暴落しようが、どれぐらいある」
「ざっと300個」
「はっはっはっ、貯めたもんだな。まあ良いだろう」
ギルド幹部の部屋での取引となり、銀貨10枚で300個、全部売れました。
しめて金貨30枚獲得です。
「どのみち職員総出での検証になるからな、大量に入手する事にもなるだろう。だからそれに混ぜれば良いだけだ」
「何時までも検証と言うのも困ります。推薦はお早めに」
「ああ、分かっているとも。先に推薦をしておこうが、依頼を頼むぞ」
「分かりました」
順調に行っても1ヶ月は掛かるらしく、ギリギリの線だろうな。
◇
『迷惑か。人族如きにそのような言われよう。本来なれば許しおかぬところじゃがの』
「無理ですかね」
『話が通じると言うのも珍しき事よ。人族との対話などもう、どれぐらい振りになるかの。まあ良い。それに免じて退去しようぞ』
「申し訳無いですね」
『なに、構わぬよ。じゃが、そう何度もは通じると思うでないぞ』
「はい。これっきりですね」
『その代わり、話は何時でも構わぬからの、また暇な折りにでも来るが良い』
「そうしますね」
『時に、酒は無いかの』
「ありますが」
『人族の酒が飲みたくなった。どうかの、出せるかの』
カップ酒を開けたらツルリと飲まれ、美味いからもっと寄越せと言われて全部飲まれた。
少しずつ飲もうと思っていたのに、大誤算だ。
それでも気分良く移動してくれたので、依頼としては成功になる。
それにしても、ネタスキルだと思っていたのに意外な効果が。
まさか竜族と話が出来るとは。
本来は追い立てて場所の移動という依頼で、巧く逃げないとヤバいので、受け手が居なかったらしい。
そもそも竜族などまともに討伐などやれず、精々が決死隊での場所移動にするしかなく、この依頼も退去依頼になってはいるものの、冒険者が逆にこの世から退去させられそうな依頼として、長らく塩漬けになっていたらしい。
と言うのも竜が棲んでいる山で鉱脈が発見されたらしく、採掘するのに人夫が怖がって仕事にならないらしい。
なので何処かに移動させて欲しいと言うのが本来の依頼の内容だった。
彼は隣の山に移動すると言ってくれて、それで依頼は成功となる。
更に思わぬ副産物が。
◇
「竜と話が出来ただと? 」
「ええ、説得すれば快く引き受けてくれました」
「それならばの、同様の案件があちこちにあるのだ。それもついでに引き受けぬかの。なればそれだけでもAは確実だ。そこからなら容易く推薦も叶おうな」
「じゃああれ、秘密にします? 」
「よくよく考えてみたんだが、うっかり広めると市場が混乱する。それでは治安も悪くなろうし、困る輩も多くなる。それに、ゴブリンを熟練の冒険者が乱獲を始めると、初心者が狩る獲物が無くなろう。それでは冒険者の未来にも関わる。だからな、あれは無かった事にして、竜族の調停の専門家という事で推薦にしようと思う」
「魔物使いですし、信憑性もありますね」
「そういう事だ」
「あれはどうしますか」
「ワシだけに留めよう。だからの、あんまり市場に流すでないぞ」
「そうしますね」
「もっと長い時を掛けて、少しずつ広めるのが正解だろう。だからな、ゆくゆくは自然と広まって行く事にはなるが、おぬしの功績にするのは難しい。その見返りを正式に渡す訳にはいかんが、可能な限り便宜は図ろう」
「それなら知名度を限りなく下げてください」
「また珍しいな」
「目立つのが嫌なんです」
「ふむ、それならばギルドの専属扱いにしての、秘蔵の存在にするかの」
「困った時の切り札ですね」
「うむ、まさにな」
「それでお願いします」
そうして対竜族の調停の専門家という役割で、ギルドの切り札的存在として、秘かに依頼をこなしていく。
その途次でSランクへの昇格が決まり、晴れてSランクになるんだけど、従魔と共に依頼をしたという名目で、Sランクパーティだと押し通した。
だって実際に一緒に依頼をこなしているんだし、パーティメンバーが従魔で何がいけないの。
そうしていよいよ報酬です。
◇
『元の世界とこちらの世界を往復するスキルをください』
『それは無理じゃ』
『ならば、一時の里帰りだけでもお願いします』
『理由を聞いても良いかの』
『こちらに来たのが正式採用の日だったんです。せめて社長にお断りを伝えたいんです。一身上の都合で就職出来なくなったと』
『それはワシが伝えておこう。それで良いかの』
『もう逢えないんですか』
『残念だが、それは叶わぬ』
『そうですか』
『ふむ、ならばの、連絡とは別に、異界商店のスキルを渡そうぞ』
『それは一体』
『そちらの金で故郷の品が買えるスキルよ』
『うっ』
『戻れぬ代わりにそれで偲ぶがよい』
『分かりました』
『おぬしの事は大いなる流れの中にある事柄じゃ。なれば我にもそれを覆す事は出来ぬ。じゃから多少の援助はしようが、今回だけでもギリギリなのじゃ。今後はもう手助けも出来まいが、達者で暮らすのじゃぞ』
『はい、ありがとうございました』
おやっさん、ごめんな、もう逢えないんだって。
自分の口から言いたかったけど、それは無理なんだって。
だから……楽しみにしていたのに、本当にごめんなさい。
◇
思念が伝わった。
スマホを取り出して電源を入れる。
そしてメッセージを音声入力する。
おやっさんへのお詫びと戻れなくなった事。
今までのお礼と今後の健康への祈願。
そしてスマホを供えると……消えちまった。
お願いします、神様。
ああ、久し振りに泣いたな。