第十五話 魔人達との別離
あの魔法はもう二度と使わないぞ。
高速飛行の実践は可能だったんだし、他の方法で実現すれば良いだけだ。
さりげなくでかい魔物の話を聞いてみると、この辺りには竜が生息していると言われた。
そして竜はとても討伐出来るような代物ではない代わりに、おとなしい性格なのでちょっかいを出さない限りは襲われる事は殆ど無いらしい。
それでも恐れる人は多いので、竜の生息域には近づかないんだそうだ。
道理でナタで叩いても平気なはずだよ。
今日も今日とてロングランなので、夜の見張りは免除になるだろう。
最初は心配していた面々だけど、今は少し呆れているようです。
それと共に、アレへの期待が大になっているようで、飲んだ後のチェックの落胆の度合いが高くなっている様子。
結局、次の街まで5日だったせいか、まだ成ってないみたいだ。
計算では30日前後なので、王都に着く頃には成るか成らないかの境目だろうと思う。
この街では1日の休みの後の移動になるようで、魔物暴走の影響で休みを2日削ったみたいだ。
これで王都には予定日時の到着って感じになるらしい。
途中の休みには、日程がずれ込んだ時の用心の為の意味もあると知った。
さて次の街、つまりは王都までの日数は15日の予定だけど、誰が最初に成るかな。
休みの間も毎日飲んでいたから、きっと途中で誰かが成るはずだ。
だけどあんまり大騒ぎするなよな。
ファンの連中にバレたらヤバいんだからよ。
「それは分かっているんだけどね」
「頼むからバレないようにしてくれよ」
「なるべく気を付けるわ」
そう言っていたのにな。
◇
王都まで後数日となったある朝、妙にこわばった顔の女性を発見する。
これは成ったな。
動きもぎこちなく、何かあると宣伝しているようなものだ。
「ぐふふふふふっ」
実に気持ちの悪い笑い声である。
そして更にその翌日、似たような奴が増える。
同じようなギクシャクして、物陰で気持ちの悪い笑い声を立てるんだ。
頼むから目立たないでくれよな。
それでも到着前日に全員が揃ったようで、やっと普通っぽい挙動になる。
「実証されたわね」
「ああ、念願叶ったな」
「感激だわ」
「そうだな」
「ちょっと思ったんだがよ。Sランクパーティ報酬、あれにしないか? 」
「そういや、あれって1人だけよね」
「おうっ、普通ならリーダーが獲得するとか言うが、不公平だからな」
「そうね、あれでトラブルになって解散って話も聞くわ」
何の話だろう。
「いやな、お前への見返りの一環として、Sランクパーティでもらえる権利を譲渡しようと思うのさ」
「え、そんな凄いの、もらって良いの? 」
「いや、凄いのはあの薬さ。まだまだそんなもんじゃ足りねぇけどよ、せめてものお礼の一部にはなるだろ」
「それだけも貰い過ぎみたいだけど」
「未発見の方法だぞ。本来なら一生遊んで暮らせるぐらいの大金と、でかい屋敷に見合う地位ぐらいはせしめて当然だ」
「他言無用にしてくれるだけで充分ですよ」
「それでも報酬の譲渡は受けてくれ。いくら何でも、全くの無しってのは気が済まないからよ」
「分かりました」
「それで残った薬はどうする? 」
「今はまだ出さないほうが良いと思うんです」
「まあなぁ。オレ達が揃って成っていれば、お前も同様と思われる。しかもそこに薬が登場したら、大騒ぎになっちまうか」
「その事なんですが、発表は迷宮で見つけたとかにしてもらって、その前に別行動にしたいんです」
「そういや、しばらくの間って約束だったな」
「ええ、お陰様で戦いも何とかなりそうですし、魔法も色々教わりました。冒険者の心得みたいなのも分かりましたし、常識みたいなのも知れました。なのでそろそろ独り立ちしようと思うんです」
「お前ならどこに行ってもやっていけるが、そうなると寂しくなるな」
「ありがとうございます」
◇
かれこれ1ヶ月ちょっとの付き合いも終わり、彼らは今頃、王宮での行事に参加している頃だろう。
昨日、神殿での権利の譲渡が行われ、見事獲得になりました。
『神からの祝福』と言うのが権利の名前で、Sランクパーティへ1つだけの願いの成就という内容でした。
そうして神殿でお祈りをすると厳かな声が響き、1つだけ願いを叶えると言われました。
そこで願ったのです。
『荷物がたくさん入るスキルをください』と。
そんな訳で今のオレの背中には、トレードマークになっていたリュックはもうありません。
それどころか、バールもナタも持っていません。
今の格好はトレーナーにジーパンで運動靴です。
そうして彼と共に自由に草原を駆けています。
やっと彼との約束が果たせます。
これからは自由に世界を巡るんです。
何も約束は無く、拘束も無く、そしてやらなければならない使命もありません。
本当に自由に、好きなように過ごせるんです。
田舎育ちのオレはやはり、人との付き合いは苦手です。
有名になりたいとか、そうしないと舐められるとか、言われても共感は出来ませんでした。
だって有名になったりしたら自由が無くなるだろうし、舐められたくないのならずっと気を張っていないといけないだろうし。
そんな肩の凝りそうな生活はごめんです。
彼らの目標が達せられた時が、ちょうど良い別離の時期だったんです。
あれで彼らの未来は安泰でしょうけど、恐らく不自由な生活になるでしょう。
それが有名税という事なら、そんなものは欲しくありません。
無名でも自由のほうが良いと、オレはそう思いますね。
さあ、行こうか。
オレ達の旅はこれからだ。
いや、終わらないよ?