第十四話 飛行魔法についての考察
まあ、折角だし、ネタスキルの活用もしてみるけどな。
とは言うものの、お貴族様のペットは屋敷の中だし、町に野良猫がうろついている訳でもない。
大体、魔物の居る世界なうえに、町にはスラム街なんてのもあるんだ。
野良の動物とかすぐに捕まえられて、食われるに決まっている。
だからランダロフも放し飼いは拙いので、街中ではリードを放す訳にはいかないんだ。
確かに攻撃には対処出来るだろうけど、騒ぎになったら面倒な事になるだろう。
余計な手続きや取調べなんかもあるだろうから、ここはひとつ我慢してもらうという事で。
「……ブフン」
◇
町の英雄騒ぎは結局、駅馬車が出発するまで続いた。
もっとも、まだ続いているとも言えるが。
つまり、次の街に移動する客がやたら増えたのだ。
恐らくこれは、王都に着くまでこのままなのだろうとも思うが、王都での表彰を見たいんだろうな。
つまり、ファンって訳で、必然的に護衛の連中が座る席が減ってしまう。
それでも英雄な彼らは乗車となれば、誰が走るかはもう決まっている。
「疲れたら交代してやるからな」
「頑張ります」
「悪いな。まさかこんなに客が増えるとはよ」
ランダロフは任せろとばかりに息巻いている。
そういう事なら、付き合いますか。
かろうじて荷物だけは載せてくれるらしく、屋根の上に載せてロープで縛っておく。
腰に提げたナタとバールという、従来の戦闘スタイルでの行動開始。
ランダロフが勢い良く駆けるのを追いかけていく。
◇
(おいおい、あいつ、あんなに足が速かったのかよ)
(凄いわね。それにあのワンちゃんも速いわ)
(ありゃ魔獣だからだろ)
(と言う事は、もしかして、魔法だけじゃなくて)
(アレの効果の持続って事なら、そうかも知れないな)
(楽しみね)
(ああ)
◇
魔物発見……ああ、ランダロフに取られた。
あいつ、首切りが気に入ったのか、飛び付いて首の周りで回転しているんだよ。
しかもだよ、後ろ足で隣の魔物を攻撃していたりして、応用かよ。
どうにも魔物暴走の時に出番が無かったのが気に入らなかったのか、発散のような暴れている。
まあ、最近は馬車での移動ばかりだったから、暴れたい気持ちも分かる。
だから気に済むまで暴れれば良いさ。
そんなオレはイメージのままに魔法に挑戦だ。
『アシスト』
追い風をイメージした風の魔法になるんだけど、おおお、押されている押されている。
思ったとおり、速く走っても前からの風が無いから呼吸が楽で良い。
自然と歩幅も大きくなり、跳ぶように駆ければ速度はますます上昇する。
あれ、追い付けないの? くっくっくっ。
悔しそうにランダロフが吼えている。
まあ、悔しかったら開発するんだな。
そしてこの勢いのままに。
『フライ』
うおっと、ジャンプしたら少し飛んだ感じになるが、そのまま落ちていく。
ううむ、これは本当の飛行魔法じゃないな。
まるでムササビみたいに滑空って感じだ。
もっと修練が必要と見た。
てかさ、グライダーみたいな翼を何とかすれば、この魔法でも飛べるんじゃないのかな。
そういうアイテムを拵えるのも良いけど、魔法で何とか出来ないものかな。
そんな翼作成の考察になり、いつの間にか歩きになり、馬車が追い付いてくる。
「おーい、そろそろ休憩するぞ」
「はーい」
「ウォン」
これってふと思ったんだけど、中二病方式のほうが巧く行きそうな感じがするんだよ。
魔法はイメージだからさ、飛行機かジェット機に成り切ってやったほうが良い感じになりそうなんだけど、絶対に人前でやれないという欠点がある。
そこで思い付いたのがオリジナル飛行魔法で、魔法名は『可変翼展開』である。
そして肝心の詠唱なんだけど『キィィィィィン』である。
いやね、これでやれそうな気がするんだよ。
後は『テイクオフ』で飛べそうな気がするんだけど、さすがにこれは試すのも恥ずかしいぞ。
仕方が無い、グライダーで考えよう。
折角の思い付きだったんだけど、羞恥に負けてお蔵入りになりそうだ。
まあでもどうしてもダメだった時の保険と思えば……そうだよな。
大体、ファンタジーの世界にジェット機とか合わないよな。
いくらイメージが出し易いからと言って、これはさすがにダメだろ。
「何か悩みでもあるのかしら? 」
「オリジナル魔法を考えてました」
「へぇぇ、それでどんな魔法なの? 」
「空を飛ぶ魔法です」
「それなら風魔法のレビートがあるわよ」
「遅いんですよね」
「それは仕方が無いわ。飛べるだけでもありがたいんだから」
「高速移動を考えてました」
「それが出来たら表彰ものよ」
「そうですよね」
「まあそう簡単にはいかないわ」
「ですよねぇ」
これは人里離れた場所で、恥を忍んで試してみるべきかな。
それで成功したとしても、絶対に発表出来ない魔法になっちまうけどな。
しかしなぁ、レビートは確かに飛行魔法だけど、あれって飛ぶって感じじゃないんだよな。
浮かんで移動って感じで、飛ぶというイメージとは合わないんだ。
試しに使ってもらったけど、どうしてもイメージに合わなくて、覚える意欲が沸かなくてさ。
工事現場の壁の塗装なんかには良さそうだけど、空を飛ぶというニーズには合わないと思う。
あれに似た事ならあっちの世界でもやれるぞ。
つまりだね、クレーンに吊るされて移動している感じなんだ。
吊り上げ→旋回→吊り下げ→飛行終わりって感じ。
あれは飛行魔法じゃなしに、空中移動魔法だろ。
誰だよ、あんな飛行魔法考えたのは。
◇
結局、野営地点まで走り通した代償に、交代での見張りが免除になった。
疲れているだろうからゆっくり休めと言われたが、どうせアレを飲めば疲れは消える。
それでも昼間に寝られなくなったので、飲むのを早朝にしようと思った。
「……ブフン」
どうやら飲みたいようで、半分だけ飲ませてやる。
まあ良いか、ついでに飲んでも。
そうして結局、眠気が消えちまうんだけど。
折角なので恥ずかしい魔法のテストをやってみる。
大声のほうが感じが出るけど、さすがにそこまで恥知らずじゃない。
なので小さな声で魔法名を唱え、走りながら詠唱を行う。
いかん、加熱加熱、冷却冷却。
えーと、エンジントラブルです。
つまり、顔面が、その。
これは恥ずかしいな。
小声でも、誰も聞いてなくても恥ずかしい。
いい年して何をやってんだって感じだよな。
そんなこんなしていたら、かなり離れたのか、ランダロフの気配も感じなくなる。
拙いな、戻らないと。
うお、魔物かよ。
しかも、でかくないか?
なんだこの魔物は。
恐竜みたいな魔物だけど、これは勝てないだろ。
ナタで叩いても平気そうだし。
ヤバい、逃げるぞ。
『アシスト』
くそ、追い付かれる。
仕方が無い。
『可変翼展開……キィィィィィィィン……テイクオフ』
ああ、恥ずかしいぃぃぃ。
うっ、速度が出ない。
仕方が無い。
『アフターバーナー』
くそぉぉぉ、あの魔物の野郎。
恨むぞ、てめぇぇぇ。
なんとか逃げ切ったようですが、心のダメージが大きかったようで、野営の場所に戻ったらそのままま熟睡になってしまいました。




