第十三話 トラブル発生
護衛しながらの検証の他に、クライドからは剣術を、他の面々からは魔術を教わる事になった。
せめてものお礼の一環と言われ、ありがたく教授願う事にした。
以前作っていた木刀もどきを数本拵え、休憩の時には模擬戦めいた修行をやり、馬車の中では魔法の教授がなされた。
更には冒険者に必要な色々な知識の伝授も施され、自己流だった戦闘術もそれっぽくなっていく。
横ではランダロフも殊勝な顔して聞いていたので、彼の技能の腕前も上がるかも知れない。
そうして特にトラブルも無いままに次の街に到着したが、そこでトラブル発生である。
◇
緊急依頼。
確かにEランクには義務は無いが、他の彼らには強制依頼となる。
聞けば魔物暴走が発生したらしく、この町で食い止めないと被害拡大になるらしい。
既に住民の避難は始まっているものの、なるべくならここで止めて欲しいと言うのが依頼になっているとか。
「お前、どうするよ」
「弓で攻撃します」
「ああ、そうだなぁ。その代わり、壁から降りるなよ」
「分かりました」
まだまだビギナーなので、直接戦闘は危険って事で、弓での援護攻撃に決まる。
手持ちの矢の他に、ギルドでいくらか分けてくれるらしく、それを背負っての参加になる。
義務じゃないが他のメンバーが強制なので、それに付き合うのだと答えた。
なのでそこでも塀から降りないようにと言われ、危険を感じたらすぐに逃げるようにとも言われた。
「それにしても変わった弓だな」
「山の民ですから」
「けどよ、こんなに小さいんじゃ届かないかも知れないぞ」
「枯れ木も山の賑わいと言いますし」
「聞いた事の無い言い回しだが、言いたい事は分かるぞ」
「まあ良いじゃない。こういうのも経験よ」
「そうだなぁ」
ふふん、見た目はただの小弓だが、飛距離はかなりだぞ。
そんな訳で複合弓のお披露目は、魔物暴走の騒ぎの中で、こっそりと行われる事に決まった。
彼らは門の前に集まり、あれやこれやと指示を出している。
さすがに揃ってAランク冒険者なので、彼らが柱となっているようだ。
どうやら彼ら以外はBランクのソロの他はCランクパーティが最高だったようで、来てくれて助かったと言われていた。
後はDランクパーティが殆どで、Eランクの有志が補給を担当しているとか。
騎士団も準備をしているが、回り込んでの挟撃を狙っているらしく、既に街の外だと言う。
とにかく高ランク冒険者の数が少ないので、街の壁と冒険者で食い止めている間に回り込んで、一気に殲滅する作戦らしい。
言わば時間稼ぎのような役割のようで、それなら何とかなりそうだと言っていた。
塀の上に立つとそよ風程度なので、照準の狂いもさほどは無さそうだ。
手持ちと配給合わせて、矢の数は50本。
もっとも、傍らに山積みになっているので、無くなったらすぐに補充はやれそうだ。
塀のすぐ後ろにやぐらみたいなのを急遽拵え、階段で塀に昇れるようにしてあり、少し広い場所に物資が積み重ねられていく。
有志達が手作業で運んでいるが、下からの要請で回復薬をロープで降ろす役回りの人も居るとか。
とにかく、人が足りない中での防衛なので、色々と大変らしい。
ちなみにやぐらを組んだのは街在住の大工さん達のようで、彼らも戦いに参加しているとか。
もっとも、上から何かしら投げる役回りらしいが。
そういや、角材がかなりあるが、あれを投げるつもりじゃ無いだろうな。
「こいつはよ、いよいよとなった時に、登ってくる魔物を叩くんだよ」
ああ、そういう事かぁ。
もう少し時間があるようなので、角材を握り易いようにナタで細工していく。
何本かに細工していると、外が騒がしくなる。
「おめぇ器用だな。まあ、使う時にはありがたく使わせてもらうぞ」
「はい」
「おっし、戦闘開始だ。ドンドン撃ってくれ」
「分かりました」
引き絞って狙って……撃つ。
ちょっと外れたな……よし、次だ。
高所からの山なり攻撃は中々慣れないが、それでも数が多いから狙った隣なんかに当たっていく。
長弓と変わらない飛距離は、次第に周囲の注目を集めていく。
こりゃ下手すると根掘り葉掘りになっちまうかもな。
そうこうしているうちに、範囲魔法みたいなのが炸裂し、手前の雑魚が軒並み消えた。
大きなどよめきの後、歓声が沸き起こり、皆のモチベーションも高くなっている様子。
あれはトールかな。
身体強化薬を飲むと、普段ならきつい魔法の行使もやれるって言っていたから、あれがそうなのかも知れない。
まだ魔人には成ってないけど、成り掛けぐらいになっているのかもな。
ともかくあれで弓から注意が逸れたので、まずは一安心。
それからも弓でひたすら攻撃し、下の連中がそれに止めを刺していく。
当初の目算がプラス修正になった迎撃は、魔物暴走の魔物の数を大幅に減らし、騎士団の猛攻で費える事になる。
◇
どうやら成りかけだったのはランクのようで、彼らは揃ってSランクに昇格になるらしい。
そうなるとギルド本部での表彰になるようで、護衛の仕事をどうするのかと思えば、次の次の街が王都らしく、そこに到着したらで構わないらしい。
どのみち駅馬車もそこで折り返しになるらしく、契約も王都までなのでちょうど良いと、ひとまず終了にするらしい。
そうして始まる宴会。
彼らが宴席の主役となるのは当然で、街の英雄と呼ばれている。
そんな中、オレは片隅でひっそりと飲み食いしている訳で、声は掛けないで欲しいと告げてある。
「でも君も同じパーティなんだし、これはチャンスよ」
「Eランクなのに目立ったら、やっかみとかありますし」
「まあそうか」
「これがBとかCランクならまだ違うんでしょうけど、ギルド員になったばかりですし」
「そうね。なら、しっかりと食べて飲むのよ」
「分かりました」
どうやら有志で参加したEランクは軒並みランクアップになるらしく、オレにもその打診が来た。
「ですがつい先日、ギルド員になったばかりなので、もうしばらくこのままにします」
「遠慮する事は無いんだが、そう言う事なら保留にしておこう」
「まだ実戦の数が少ないんです」
「成程な。なら、自信が付いたら昇格願いを出すと良い。既にその資格ありとしておくからな」
「はい、それでお願いします」
せめて半年は現状でやらないと、どっかの小説の主人公じゃあるまいに、トントン拍子とかトラブルになるに決まっている。
ビギナーがそんなに目立っても、良い事は滅多に無いからな。
特にそんな野望も持ってないんだし、まったりと過ごすなら低ランクが一番さ。
ぼったくり商売で蓄えもあるし、無理に稼ぐ必要も無い。
階級も特に無理して上げたいとも思わないし、その必要も無いだろう。
これが勇者召還とかなら別だろうけど、不意に無一文での転移なんだ。
確かに物資は持っていたけど、異世界転移を希望していた訳でもない。
それどころか正式採用が決まった初日の出来事だったんだ。
そんな無理やりみたいな状態で、更に何かの役割とか冗談じゃない。
何かして欲しいなら、チートとか付けて説明するもんだろ。
確かに固有技能はあったけど、それはランダロフにも付いていた。
しかも、意思疎通ってさ、どんなチートだよ。
戦いに役立ちそうにないし、かと言って生産に使えそうでもない。
ただ、従魔の言いたい事がなんとなく分かるってだけの効果だし。
まあ、そのうち、他の動物の考えが分かるかも知れないけど、それがどうしたと言うのだろう。
そんなものがチートとは、オレは認めないからな。
そういうのは普通、ネタスキルって言うんだよ。