第十二話 検証開始
修正も開始。
買い物をしようと、魔法の専門店を探して訪れる。
欲しいのは回復薬向けのガラス容器である。
どうやらガラス容器は付属品に該当するようで、売っても買っても銀貨1枚と定められているとか。
そうしないと容器の回収がはかどらず、消費するばかりだと足りなくなるかららしい。
つまり、ガラス容器は大量生産出来る訳では無いらしく、なるべくなら回収しての再利用が理想らしい。
なので普通ならガラス容器のみの購入は喜ばれないのだが、こちらも生産者だと告げると売ってくれた。
嘘じゃないしね。
ただ、専用の保存箱が少し高いが、衝撃にも強いし長持ちもするようで、中級冒険者ぐらいになると持つようになるとか。
その中でも大型の200本容器とガラス瓶を200本、それにフタ500個をセットで金貨5枚ってのを購入した。
どうやら長持ちと言うのは保存の魔法が掛かっているらしく、通常の10倍の5年ぐらいは保つらしい。
なのでパーティで長期に遠征する場合などに求められるらしい。
さあ、ゴブ肉ジュースの容器確保だな。
◇
この町でしばらく滞在の後、護衛の仕事が継続になるようだ。
どうやら駅馬車と言っても連続での移動をする訳ではなく、街ごとに数日の滞在を繰り返すとか。
なんせ途中は野宿になるので、保存食の追加購入も必要になる。
それに馬もたまにはゆっくりさせてやらないと、長距離移動にはきついとか。
そんな訳で、仕入れと馬の休息で3日の休みの後、更に次の街に移動になるようだ。
その間は基本的に自由行動らしく、旅の準備と称してゴブ肉ジュース作成に走る。
今ではあんなに大量に飲まなくても、ガラス瓶1本分でも充分に元気になると分かっている。
オレ達はただ、食事の代わりにしていただけで、そうじゃなければ僅かな量でも効果が出るようだ。
図書館で調べてみた感じでは、身体強化薬と言うのがあり、製法は不明ながら文献では魔人になる可能性が云々とある。
これは教えてやらないとな。
でも、薮蛇になりそうでもあるが、さすがに知らない振りと言うのも心苦しい。
だって身体強化薬という道しるべがあれば、同様の効果と言えば納得される。
そこで山の民ですよ。
山の民の秘法で作られた薬で、自分もその製法は知らないとかさ。
実はリュックの中に最初から持っていたという触れ込みで、ガラス瓶を渡せば良い。
それで何回飲んだら魔人になるかと言う、人体実験の被験者になってもらおうって話だ。
なので薬の保存箱は中古を買いました。
だってねぇ、新品は金貨10枚とか言うし、古ぼけているほうが元から持っていたってのにも信憑性が出る。
そもそも、新品が金貨10枚なのに中古がセットでも半値の訳は、その外見の古さにある。
保存の魔法自体は渡す前に付加し直すらしく、性能的には大差無いらしい。
見た目が悪いだけでそんなに値が下がるものなのかと思ったが、外面が大事なのは色々な物に適用されるらしく、神官だけじゃなかったんだな。
そんな訳でゴブ肉ジュースは確保です。
もちろん、たっぷりと別口で飲んでおきましたとも。
成分分析とかやれないけど、あちらの世界の砂糖は関係無いよな。
あれが関係するのなら、オレ以外は誰も作れないって事になっちまう。
それにしても、いくら少しずつ使うと言っても、200本も作ったら1袋分終わったな。
ビニール袋1袋からガラス容器に20本は取れたけど、今までも散々大量消費していたから、遂に1袋分を使いきった。
残りは後1キロの袋が1つだけか。
「これからはあれ1本ずつだからな」
「……ブフン」
「そう言うなよ。まだ検証途中なんだし、確立したら好きなだけ飲ませてやるからよ」
「ウォン」
もっとも、リュックの中には7袋分はツボに入れてある。
あのままでも数日は問題無いだろうし、消費した分は詰め替えないとな。
◇
図書館での話をすると、その話は知っていると言われた。
「ただね、その製法が問題なのよ」
「そうそう、それさえ分かればね」
「実はさ、同じかどうかは知らないんだけど、身体強化薬は持っているんだ」
「えっ……」
「いやいや、違うと思うよ。オレのはかつて、集落で作られていた秘法だし」
「山の民の秘法……これはもしかして」
「壊滅した後で残骸を掘り返していたら、村の貯蔵庫の中にあってさ、それを持って集落を出たんだ」
「じゃあ作り方は」
「オレも知らない」
「そっかぁ。で、どれぐらいあるの? 」
「ツボに入っていたのを小分けしたから、何とか500本分ぐらいはありそうでね、今までに半分は消費したかな」
「じゃあ、もしかして、君って、既に成っていたり? 」
「それで話をしてみようと思ったんだ」
結局、いくら古くても保存容器ってのは無理があるとして、ツボ入り秘法薬を詰め替えた話に変えた。
そうしないと余分に持っている説明にならないし、実際にツボは買って袋から詰めたんだし。
つまりだね、この世界に無いはずの石油化学製品を見せる訳にはいかないと言うのが最大の理由になっている。
そんな未知の品とか、いくら山の民とか言っても限度を超えていると思うからさ。
なので集落を出た後、人里に着くまでに空腹に耐えかねて、あれを水代わりに飲んでいたって話にして、だからオレとランダロフは共に魔に染まったと。
「ねぇ、それ、飲ませてはくれないよね」
「うっかり世に出したら、それを狙って他の山の民が狙われると嫌だから、もし渡すなら他言無用だよ」
「そっか、そうなるよね」
「けどさ、査定、いくらだろ」
「とんでもない価格になるよ。確定になったらさ」
「とりあえず全員に1本ずつ渡します。それで薬の効果を確かめてください」
「良いのかい? 」
「1本だけでなるとは限らない訳ですし」
「ああそうか。確かに文献でも確実になるとは書かれてなかったな」
「飲んでいるうちにそのうちなるかも知れないのね」
各自に飲ませると、全員が元気になる。
「これ、凄いわ」
「即効性があるんだな」
「ああ、肩が軽くなったわ。積年の肩こりが消えた感じ。これ良いわね」
「足の痛みが消えたぞ。回復効果もあるのか。凄いなこれは」
「さすがは秘法ね」
出発前のそんな一コマは、揃って神殿での祝福紙で少し落胆する。
「ま、まあ、1回だけでなるとは限らないんだし」
「そうそう、でも、飲んでいたらそのうちに」
「これからも良いのかい? 」
「毎日1本ずつ渡しますね。どのみち、自分も結果が知りたい訳ですし」
「それだとありがたいけど、これはタダって訳にはいかないよな」
「お前ら、新人からの横取りはいかんぞ」
「分かっているよ、リーダー」
「クライドさんも飲まない? 元気になるよ」
「そうだなぁ。検証するなら前衛も必要か」
「そうそう。オレだって前衛なんだし」
「分かった。ありがたくもらうが、見返りは渡すからな」
「なったらって事で」
「本当に悪いな」
どうやら1本の効果は半日ぐらい続くようで、しかも即効性がある事から、各自で所持して夕方までそのままで、そこでもし魔物が出たら即座に飲んで対処して、出なくても翌日までには飲んでおく。
そうして夜の見張りを交代でやって、また翌日に渡すというローテーションとした。
なんせ飲んだら色々強くなるんだから、戦闘前が一番ってそう決まった。
実は皆それぞれに祝福紙を10枚ずつ確保しており、それで毎日調べる予定になっている。
それと言うのも検証と言った事から、それに必要な経費は自分達で賄うと言ってくれたからである。
そうして成らなかったらまた次の町で祝福紙を10枚確保して、全員で200本消費までを確かめる。
ツボはもう少しあるので、消費したら詰め替えると話し、それで成るようなら残りが少しでも高額で売れる。
その取引は任せてくれたら最大限にするし、こちらの所在は明かさないから安心してくれと言われた。
どうやら彼らは揃ってAクラスらしく、金は余る程にあるらしい。
なので護衛の仕事をしながらあちこちの町で、文献を調べての検証なんかを行っていたらしい。
本当ならAクラスと言えば、お抱えになってしかるべきだが、そういう訳でフリーで世界を回っているのだと。
もし、魔人になれたなら、更なる厚遇が約束されるとして、その見返りは多大なものにすると、皆が揃って答えた。
詳しく聞くと『魔化』と言うのが魔人になった証のようで、祝福紙を見てみるとランダロフに出会う前に既になっていたみたいだ。
となると、他のスキルの獲得日時が気になるところだが『悪食』『鉄腹』『木工』『弓術』『解体』『斧術』『伐採』なんかは元々やっていた事もあり、こちらに来た時点ですぐさま付加された可能性もある。
皆の残り物を食っていたから悪食で、残飯寸前でも食わなきゃ生きられなかったから鉄腹で、木工クラブ所属だったから木工も付いて、弓も使っていたから弓術で、獲物の解体もしていたから解体で、ナタは斧術に入るみたいで、その関連で伐採も付いたんだろう。
『健体』は分からないけど、病気知らずだったんだから、それも元々だった可能性もある。
希望が持てるのは、ランダロフが魔化の後でスキルを覚えている点だ。
首切りって物騒なスキルだけど、確か出会った翌日に使っていたアレだろう。
ゴブリンに高速で近付いて飛び掛り、首に噛み付いてくるりと回転していたアレがそのスキルだったんだろう。
あれで血のネックレス状態になって、ゴブリンはすぐに死んだから。
頚動脈を両方切るんだから、そりゃすぐに死ぬよな。
そしてランダロフが魔獣になった時期だけど、最大でもビニール袋2袋分以内のはずだ。
出会って最初は1袋そっくり飲ませたけど、次からは毎日1袋を山分けにしてたんだし。
1袋から20本取れるとして、毎日10本分ずつ飲んでいた事になる。
つまり、出会って20本分飲んだところで成ったのなら最低20本で、翌日の食事の後なら30本って事になる。
なのでどのみち40本以内ではっきり分かると思うし、それなら検証してみようって気にもなる。
まだまだ砂糖の手持ちはあるし、この世界の砂糖でもいけるなら無尽蔵に近い。
更に言うなら、1度に5人の被験者の上に、魔人になりたいって人で信用の置ける人を探すのも大変だ。
彼らは曲がりなりにも上位の冒険者だし、あのチンピラなんかとは信用度が違う。
そして、こんな事がやれるのも同行しているうちなので、思い切って試す事にしたんだ。