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第一話 コンビニを出たら……

この小説は短編の『巻き込まれたガテン系転移者の試行錯誤』を連載向きに変更調整したものです。

元の面影は殆どありませんので、全く新しい小説とも言えますが、念の為に記載しました。

その旨、よろしくお願いします。


表現を少し改めました。


  

 春先に田舎を出て、もう夏が近いのか。


 かつては意欲に燃えていたオレも、都会の洗礼を受けてすっかり変貌しちまった。

 田舎では殆どが幼馴染という事もあって、学校での苛めというものは存在しなかった。

 そりゃ何かをやらかして数日、皆にはぶられた事もあったが、なあなあのうちに消えていたものだ。

 そんな、ある意味ぬるい世界から出てきたオレが、いきなり苛めに遭遇しちまった。

 

 初日はまだ日が翳ったぐらいの気持ちだったけど、日が経つにつれて段々と曇天になり、しまいには嵐の様相となった。

 意気揚々と田舎から出てきた世間知らずの少年は、そこで挫折したと言っていいだろう。

 念願だった専門学校の出席も滞りがちとなり、巷をぶらつく日々を過ごし、ひたすら荒んでいった。

 実家で慣れていたと思っていたが、都会の学校での苛めは限度が違っていたんだ。

 外面など考える必要も無い輩のやる苛めはひたすら陰湿で、耐えられるものではなかったんだ。


 そんなある日の事、ある工事現場での出会いが、明るい未来をオレにくれた。


 工業系の専門学校生のせいか、やっている作業の意味も何となく理解出来た。

 そうして見ているうちに面白そうだと感じるようになり、夢中で作業工程を見ていた。


「お前、興味があるのか? 」


 そんな事を不意に言われ、びっくりして振り返ると熊が……人だった。

 そう、まるで熊のようなごつい風体の上に、顔の下半分は髭に覆われた人だった。


 でも、オレはつい叫んじまったんだ。


「山の親父様!! 」

「誰が熊だ」


 怒られた。


 それから彼と話をして分かったんだけど、どうやらその工事の関係者で『監督』と言っていた。

 後から知ったところによると、そこで働いていた人達を雇っている会社の社長であり、工事の全体を監督する役目を負っていた人だった。

 そうして聞かれるままに、作業についての興味を語ったら、試しにやってみるかと言われて手伝わせてくれる事になり、見よう見まねのままに、気付いたら夢中になってやっていたんだ。

 そうして作業終了時刻となり、お前も来いと誘われて、近所の飯屋での小さな宴に参加した。


 田舎では会合と食事と酒盛りが合わさったようなのを『宴』と言い、たまにあったそれに参加した事もある。

 それに良く似た感じだったので宴と称したし、実際に酒も勧められるままに飲んだ。

「お前、イケるクチか。よし、もっと飲め」と、目の前のジョッキに注がれるビール。


 確かに田舎でも機会があれば酒は飲んでいた。


 そりゃ二十歳までは酒が禁止なのは知っていたけど、田舎じゃその認識がおかしかったんだ。

 今から考えると時代錯誤な事に、15才元服成人方式とでも言うべきか、15才になったら成人と同じ扱いを受けていたんだ。

 だから末席ながらも宴にも参加し、発言機会も滅多に無いものの、食事と酒の振る舞いは受けていた。


 そんな訳で慣れていたんだ。


 そしてある案件でのオレの意見が採用された事が契機となり、地位向上と言うか進学への後押しとなったんだ。

 もっとも、そんな村の期待を重荷に感じていたが、それでも裏切るような現状が、オレをひたすら追い詰めていたと言っていい。

 そんな時に起こった出来事が後の自分を変える事になった。


 宴の後、オレはアルバイトとして雇われる事になった。


 そして新鮮な気持ちでアパートを出て現場に向かう。

 途中のコンビニで朝食を買い、それを食べながら歩いていく。

 先に主食が無くなり、残ったジュースを飲みながら、それを片手に現場にと向かい、見かけた作業員に朝の挨拶をする。


「ちわっす」

「おう、来たか」

「ういっす」


 直属の上司なんだけど、気の良い先輩か兄貴みたいな人。

 その人に付いて作業をするようになり、言われるままに働いた。

 元々技術系が好きだった事もあり、新しい環境でのオレは苛めの事などすっかり忘れ、日々を楽しく過ごしていた。

 そんな楽しい日々の中、かつての事を思い出す。


 ああ、そういや学校があったなと。


 その頃には違う現場になっていたものの、待ち合わせでの送迎状態になっていた。

 そしてもう自分の中では仕事のほうに比重が傾き、学校とかどうでも良くなっていた。

 事務局に赴くと、後期の授業料の滞納について言われたが、既に休学状態になっていたのでそのまま退学の手続きをとった。

 少し何か言われたが、都会の苛めは半端無いですねと言うと、何も言わずに手続きは完了した。

 金を払っての学べない環境は、学校側にも責任が発生するかも知れず、その追求は困ると思ったのかも知れない。

 案外、苛めていた奴らは権力者の関係とかで、うっかり手が出せないとか、あり得る話だし。


 それはそもかく、そうして晴れて正式採用の日を迎える……はずだった。


 仕事に使う工具も自前の物を揃え、作業服もいくつか購入していた。


 白いヘルメットに薄いブルーの作業着の上下、最新式の安全帯につま先に鋼鉄が入っている安全靴、それと有名メーカーの工具の数々。

 確かに共用の工具もありはするが、そのどれもが古くてまともに使えない代物なのと、大きな工具に限られていたので、皆はそれぞれ自前で揃えていたから真似たんだけどね。

 さすがに作業現場まで仕事用の格好で行く訳にもいかず、でかいリュックに全部入れて現場で着替えるつもりで準備していたんだ。

 現場には仮設住宅みたいなのもあり、ちょっとした荷物なんかも置けるようになっていたので、それを利用するつもりでいた。

 屋外での仕事の関係上、その内容次第では昼食抜きになるような場合もあり、皆それぞれに保存食みたいなのを持っていた。

 高い鉄塔の上での作業の場合、昇るだけでも数十分も掛かるので、降りる時にも大変で、いちいちメシの為に降りて行くより、現地で軽い食事を摂る。

 確かに合理的な話だと、オレもリュックに色々と詰め込んでおいたんだ。

 荷物だけなら引き上げる装置があったので、上に備蓄しても良いかと、多めに用意してたんだ。


 その日、いつものようにコンビニに寄った。


 前日におやっさんから言われていた買い出しを忘れていて、ここで揃えようと思ったんだ。

 正式採用を翌日に控えて舞い上がっていたようで、スーパーに行くのをすっかり忘れていたんだ。

 仕事の準備だけは万全でも、これじゃ台無しだ。


 幸い、酒やタバコも置いてあるコンビニのようで、ここなら全て揃いそうだと、つらつらと見て買い物かごに入れていった。


 熊な見た目によらず、いや、熊は蜂蜜が好きだと言うし、意外と合っているのかも知れないが、とにかく甘党なおやっさんからは、クッキーとチョコレートをたくさん買うように言われていた。

 後は現場でよく使う調味料で、色々足りない物があるから、ついでに買っておいてくれと言われてもいた。

 普通はそちらがメインでお菓子はサブだと思うのだが。


 ともかく、そんな訳で、クッキーは箱入りの物をいくらかと、チョコレートは板の奴を切りよく10枚と、他の種類のチョコも入れ、これぐらいで良いかと次の酒と肴の売り場へ移動した。

 さすがに1升瓶は重いのでカップ酒とし、肴は好物のチーカマと、あいつらが好きなスルメイカと。

 後、酒が足りないと言われても困らないように、ウイスキーのボトルも1本買っておく。

 調味料は定番の、しょう油、砂糖、塩、胡椒、七味と、おっとこれもだな……お好みソースとマヨネーズ。

 作業員の中にお好み焼きが好きな奴がいて、そいつがよく焼くんだけど、何故かしょう油味なんだ。

 だからオレの独断と偏見でお好みソースとマヨネーズは買います。

 まあ、嫌なら無理に使う事も無いので、専用の調味料でも構わないぞ。


 後は、お、これこれ、これを買わないとな。


 メルモロワンカートンと、仕事にも使うからライターも10本ぐらい買っておくか。

 本当は専用の火打石があるんだけど、あれって使い辛いんだよな。

 だからついつい手持ちのライターで着火するんだけど、そのせいですぐにライターが終わるんだ。

 ガス切断だから、ライターの部品には悪影響なんだろうけど、便利なのはやはりライターだ。


 ああ、そういや、バイライトが欲しいと言っていたな。

 自分で買えと言ったんだけど、朝が弱いからよく忘れると言われ、いつもオレのタバコを寄越せって言いやがって。

 よし、買ってやるから後で金くれよな、ワンカートンも買うからさ。


 さてと、後は朝食におにぎり2個と野菜サラダはイマイチだし、野菜のサンドにするか。

 そして珈琲とお茶のペットボトルに、ああ、昼の分も必要か……2本ずつ買っとこ。

 最近、暑いから喉が渇くんだよな。


 おっとこの雑誌、懐かしいな……よし、これも買っておこう。


 うん、こんなもんかな。


 レジで支払いをして、でかいコンビニ袋を両手に提げ、意気揚々とコンビニを出たところで──


 オレは現在、とても困惑している。

  

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