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次回は、誠意執筆中です。
Side:龍崎
始めてから数時間。式神達を操りつつも、気配で中を探っていく。
「中は大体おわりか」
先に、お香を焚いた故に、中の虫―――霊の虫の事を霊虫と言うのだが―――それが数を減らし、ある一ヶ所に集まり始めているようだ。本体はそこに居ると言うことだろう。
「やはり、大物ですね………虫を操るとは…………壺毒系で無い事が幸いですね」
壺毒系だった場合、呪咀絡みが多いため、厄介以外の何物でもない。幸い、今回はこれに当てはまらないのだから、除霊の手間は随分減るだろう。中に入っての除霊は、今回はギリギリまで力を削ぎ落としてからで無いと、出来ないのだから。
「そろそろか」
霊虫は減った。後は本体だが、お香もそろそろ替え時だろう。練り香は、大きくないため、時間も短い。
「来い」
式達を呼び戻し、香も扉を開けて素早く取り出す。もう一度、練り香………いや、今度は線香タイプが良いだろう。練り香はゆっくり効くタイプが多いが、線香はすぐに効果がある。
「毒虫なんて嫌ですからね…………、『式よ、食らえ』」
ここまで落ちた悪霊は、元に戻す事は難しい。消滅させてやる事も、また一つの手である。
三体の式が、中に入り、私の命令を忠実に実行していく。中から、幾ら断末魔の声が聞こえようと、忠実に仕事を実行して行く。
ここはもうすぐ、終わりですね。さて、抜け道探しへと行きますか。
◇◇◇◇◇
Side:夜姫
ふわっと欠伸をする。ふむ、暇だ。縁側に座布団を引いて、陽なたぼっこをしているが、眠くて仕方ない。
「野比古、暇じゃ、何か面白い事は無いか?」
近くに控えている野比古に、きだるげに問う。彼は有能な、私の側近だ。
「本日は、仕事が入っております、しばしのご辛抱を」
ふむ、固いのが難点じゃのぅ。まあ、そこが可愛いのじゃが。仕事等、後でもいいじゃろうに。
「この前の、水辺への探索は、楽しかったのぅ、――――――久方ぶりじゃった…………あの、暗い怨みの感情は」
気晴らしに行った、とある水辺。そこには心地好い程の、深い闇を抱えた、亡骸があった。フフッ、今思い出しても、心踊る出来事じゃった。
「夜姫様、お戯れも程々に………」
まだ20歳程の歳だろうに、眉間に皺を作っておる。美形だと言うに、勿体ないのぅ。
「構わぬじゃろう? アレは死者、私は死者の願いを叶えただけなのじゃからな」
余程の怨みを持っていたらしく、私の術に程良く馴染んだ。今頃、面白い事態になっているだろうに、私は見れぬ…………。理不尽じゃろう? まったく、仕事等、面倒じゃのぅ。このまま温かい縁側で、昼寝でもしていた方がマシというものじゃ。
「夜姫様、陽なたぼっこも宜しいですが、風邪等めされませぬよう、大事な御身なのですから」
まったく、固いやつじゃ! 仕事とはいえ、御付きをこんな固い奴にしたのは、どこのどいつじゃ! ………………いや、本家の頑固じぃ達じゃったのぅ。まあ、野比古は、あやつらよりも話が分かる分、マシというものじゃな。
「失礼致します、夜姫様、お客様がいらっしゃいました、準備をお願い致します」
下働きが呼びに来たようじゃ。仕事の時間のようじゃのぅ。疲れるのぅ、勿論、面倒じゃが、仕事ゆえにやらねばな。
私は、夜姫なのじゃから。
◇◇◇◇◇
Side:竜前寺 雅
「美鈴が居ない…………? 龍崎、一緒に居たんじゃないのか?」
思わず眉間に皺が寄る。
午後、もうすぐ日が暮れる、そんな時にログハウスに着いた僕と、真由合、和葉さん。
先の言葉の通り、僕は今、大変機嫌が悪い。
着いて早々、美鈴が居ないと、顔色が悪い龍崎が待ち構えていた。龍崎は表情があまり変わらないからか、美鈴が苦手にしてるみたいだけど、今の龍崎、表情はないけど、焦ってるのが誰でも分かるくらいだと思う。
「姿が無いのは、いつから?」
早くしないと、夕方に成る。その時間帯は、物が見えにくくなる時間だ。急がないと!
「気付いたのは、14時くらいですね、此方の作業が終わったので、パソコンを見ていた戸倉さんに声をかけようと来たら、居なかったので、恐らく、抜け道を探しに出たのかと……………」
「今は、15時半………後1時間もすれば、黄昏時だ…………とにかく手分けをして探そう、連絡は各自スマホへ、―――――龍崎、真由合、動かせる式神を出して探して」
「はい」
「分かりましたわ、全く、美鈴ったら、何処に行ったのかしら?」
寡黙な龍崎と反対に、軽口を言った真由合は、口調とは反対に、顔に焦りが見える。美鈴の体質を知っている側として、皆が焦るのは当然かもしれないけど、素直じゃないからね、真由合は。
「美鈴………」
本当は、美鈴には誰かを着けているはずだったが、今回は皆に仕事が出来てしまった。美鈴は、簡単な退魔法が使えるだけだ。視る事に特化し、特殊体質を持つ美鈴。龍崎が近くだからと、後回しにしたツケが来てしまった。
美鈴は、黄昏時に一人になるなんて、そんな自殺行為に等しい事をするような子ではない。と言う事は、何か不足の事態が起きたと見るべきか?
「和葉さん、室内を見てきてくれる? 僕達は、外を探そう」
各自散ろうと動こうとした、そんな時に、依頼人が血相を変えて、此方に走って来た。普段は温厚そうな旦那さんは、今や汗だくで、肩で息をしている。
今度は何事だろう?
「す、すいません! 息子の颯太を見ませんでしたか!? お昼過ぎから、連絡がつかなくて…………」
依頼人の息子が居ない…………? このタイミングで? 何だか嫌な予感がする。
「念のために聞きますが、うちの美鈴を見ませんでしたか? お下げにした、息子さんと同い年くらいの女の子なんですが…………」
依頼人は、キョトンとした後、静かに首を振った。となると、もしや一緒に居る可能性が高いのか………………? パソコンは2台動かされた形跡があったようだし。
「龍崎、美鈴の携帯にかけたんだよな?」
「勿論です、何十回とかけましたが、全く繋がらなくて……………無事ならいいのですが」
ここまで龍崎に心配させるって、ある意味凄い事だよ、美鈴。とはいえ、全く検討がつかない以上は、探すしかないんだよなぁ。
「とにかく、家の周りから探そう、そう遠くには行ってないはずだから」
美鈴、無事で居て……………。
◇◇◇◇◇
Side:美鈴
あぁ、懐かしい…………。これはいつの事でしょう。
小さい頃から、私はお婆様に着いて、あちらこちらの親戚の家で、お泊まりをしていました。それには、お婆様は必ずとして、母か父のどちらかが動向するという形で、この不思議なお泊まりは続いたのです。
「ねえ、お婆ちゃん、どうしてお泊まりするの…………?」
最初はワクワクしていたお泊まりも、ある家に泊まった時に、聞いてしまった言葉により、苦痛しか感じない物になってしまいました。
あの時のお婆様は、どこかすまないような、哀しそうな表情で、それ以上の事を、私は問えませんでした。
「貴女はね、美鈴…………特別な子なのよ」
その言葉が、深く深く頭の中に、こびり付きました。
確か、これは、あの時の――――――…………。
「……………ん」
目が覚めると、一番初めに見たのは、薄暗い周りと、天井に空いた、ポッカリした丸い穴でした。
「ここは………イタッ!」
動こうとして、体のあちらこちらに痛みを感じます。思わず体が硬直し、息を止めましたが、体を少しずつ動かし、確かめていきます。幸い、捻ったり、動かせないとかは無いようです。擦り傷は沢山ありましたが……………。
「ふぅ、不幸中の幸いね………でも、一体ここは……………?」
私は、そう、パソコンで確認をして、終わったから、外に出たんです。原因と言いますか、抜け道を探す為に。しかし、おかしいですね。確か、颯太さんが一緒だったはずなんですが。落ちた時、確かに一緒に落ちたのを覚えています。
「あ! 颯太さん!? やだ、どこですか!?」
何をボンヤリしているんでしょう! どれくらい気を失っていたのか分かりませんが、急がないといけません! 夕方は、私にとっては鬼門です。普段ならばまだしも、今は誰も居ません。自衛は多少出来る程度…………颯太さんを守りながら、果たして出来るでしょうか? いえ、やらねばなりません。私とて、探偵事務所の一人なんですから………………。
「颯太さ―ん、颯太さ――ん、何処にいますかぁ――! 返事をして下さぁ―い!」
ここはかなりの深さですが、広さもそれなりにあるようです。もし、迷子になっていたら…………。式神を持たない私には、探すのも普通に探すしかないのです。
「颯太さん、一体どこに…………」
時間は嫌でも進んで行きます。とにかく、辺りを見て、何でもいいから、手がかりを……………うぅ、一人なんです。誰も居ませんから、淋しさで、涙が出そうになりますが、それも我慢です。
「落ち着け、美鈴、私は探偵なの……………颯太さんを守らないと」
穴からは戻れませんから、横に続く穴を探すしかありません。穴から見える場所に、ハンカチを置いて、目印にして。
さあ、いざ探検の時間です。
颯太さん、無事で居て下さいね!
お読み頂きまして、ありがとうございますm(__)m
本日は、お話が急展開となりました。間に合うかヒヤヒヤしましたが、間に合って良かったです♪
消えた美鈴ちゃんと、颯太さん。焦る雅くんに、心配する周り。一体、何が起きているのか?
さあ、皆さん、推理してみて下さい。
次回も宜しくお願いします。