3ー21
お待たせ致しました。
正面玄関口には、片膝を着いた清流院さんが、外を睨み付けながら、祓い串を手に、荒い息をしていました。あまり顔色も良くありません。
「清流院さんっ!」
思わず私が口を開いて、悲鳴混じりの声で呼んでしまいます。声により、私達に気付いた彼は、何処かホッとしたような表情になりました。
「皆さん、正直助かりましたよ・・・、一人でのサポートも、そろそろ限界でした」
口調には、力がありません。やはり、肩で息をしているようです。かなりキツイ状態に、変わりはないのでしょう。直ぐに状況を把握した、龍崎さんが動きます。
「白木さんが外ですか、私と矢上さんで加勢します、清流院さん、水島さんと神戸さんをお願いします」
キッと外を睨み付ける龍崎さんと、完全に顔をひきつらせ、これは無いと、力なく黄昏た矢上さんは、対照的です。
「分かりました、お願い致します、何方かの式神が来てくれまして、戦ってくれてるんですが、如何せん・・・敵もさるものでして」
式神? 今、ここに居ない、真由合さんでしょうか? 雅くんにしては、チラチラ見えている式神さんが、派手な気がします。先程から、火がボウボウとあちら此方を燃やしています。いくら異界でも、やり過ぎではないでしょうか?
「異界が消えるにしたって、・・・すげぇ」
呆気に取られている水島くんですが、そんな中、二人は戦闘に向かって行きます。二人が加わった事で、ようやく形勢逆転になったようです。防戦になっていた白木さんが、後ろに下がっています。矢上さんは、同じく後ろでサポートするみたいですし、龍崎さんは手持ちの式神を出して、撹乱しながら動くみたいです。
「あの式神、真由合さんですよね? 近くに来てるのかもしれませんね」
「合流したら、助かるんですが・・・」
清流院さんの憂いを含む表情は、本人がかなりの美成年であるため、かなりの色気を放っています。確か、まだ20代とは聞いていましたが、水島くんが、ちょっとポーッと見とれているのを見て、此方は少し恥ずかしいです。とはいえ、サポート系のお二人は、満身創痍に近く、私は完全に足手まといです。
どうしたものかと、頭を悩ませていたら、ふと、感じ慣れた気配がしました。
ーーーーーあぁ、これで大丈夫です。
思わず、そう感じるくらいの安心感を、この時の私は、無意識に感じていたのです。強張っていた体から、無駄な力が抜けていきます。
と、ボンヤリしていた水島くんが、ようやく、この気配に気付いたようです。
「うん? この気配って・・・」
と同時に、一気に顔色が悪くなります。私も、そして、清流院さんも、同時にそちらを見ました。眼鏡を外した私は、ゆらりと立ち上る、不可視の力が立ち上っているのを見ました。
そう、紛れもなく、この異界が、たった一人の力で、打ち震えているのです。
「何でしょう? 真由合さん、ブチギレしてませんか・・・?」
問うた私の声が、震えていました。
「だよね? だよね!? 何かいつもより、ピリッとした!」
水島さんには、そう感じたようです。明らかに、真由合さんの霊力が、ピリピリしています。どうしてなのかは分かりませんが、外から異界を壊す程の感情とは・・・。
「取り敢えず、異界が消え始めている以上、もう大丈夫でしょうが・・・・・」
何やら、含みを持つ清流院さんです。異界が消える、つまり、現実に戻る訳です。あんな危険なモノを、下手を打てば、逃がす可能性も出てきた訳です。何故なら、異界は、敵にとっては自分のテイトリーな訳です。有利な状況が壊れたら、不利になれば、逃げる場合もあるでしょう。
「ーーーーー大丈夫だよ、多分」
不意に、幼さを含む声が、私達に聞こえました。
「雅くん!」
驚きました。平然と居るんですから。いつの間に来たのか、分かりませんでした。と言いますか、ちょっと不機嫌に見えるんですが? 雅くんに、何かあったのでしょうか?
「真由合さん、張り切っちゃったんだよね・・・」
「えっ!? マジで!?」
水島くんがギョッとしてますが、雅くんたら、不機嫌では無くて、呆れてます!? ですが、清流院さんは、雅くんの態度から、心当たりがあったようです。
「竜前寺くん、もしかして・・・」
「うん」
雅くんが頷いただけで、分かったみたいです。
私や水島くんには分からない、何かがあるんでしょう。ーーーーーたまに、本当にたまに、雅くん達が遠くに感じます。私達の知らない繋がりが、彼らにはあるんです。まだ、出会って少しの私達には分からない、そんな繋がり・・・・・。
考え事に夢中になっていた私は、清流院さんの声で、思考の渦から引き戻されます。
「成る程、ならば大丈夫ですね・・・あれだけヤル気満々なら、人手もありますし、退治するでしょう」
清流院さんが言った内容は、私も納得ですが、ヤル気が、『殺る気』に聞こえたのは、気のせいでしょうか・・・・・??
ーーーーードオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ~~~~~~~~ン・・・
と、急に、凄まじい爆音が襲ってきました。鼓膜が揺れるような、そんな大きな音です。
「うわっ!」
「きゃっ!」
「くっ・・・」
「わっ!?」
全員が急な爆音に、地面に伏せます。清流院さんは、先のダメージがあるからか、一番しんどそうです。爆音と共に、地震のような、ビリビリとした揺れまで感じました。ここは、歴史博物館です。揺れで、飾られていた、美しい品物が、無惨に床に倒れたり、落ちたりしています。
とはいえ、完全に異界が解かれて無かったのが、幸いでしょう。現実に戻ったとしても、被害はないので、大丈夫だと思いますが。
「・・・やり過ぎですよぉ~、真由合さん」
「こえぇ~・・・」
情けない私の声に、水島くんの同じ情けない声がします。ですよね? あれは、怖すぎます! 心臓がまだ、バクバクしています。
「ビックリした・・・」
雅くんは、思ったより冷静でした。清流院さんは、既に外を気にしていました。
「どうやら、終わったようですが・・・・・異界が完全に消えましたね、今の衝撃で」
お二方、冷静ですね・・・。
「取り敢えず、終了かな?」
思わぬ大物退治は、呆気なく終わりを告げたのでした。




