3ー19
お待たせ致しました!
さぁ、物語は動き始めました。どうなっていくのか、お楽しみ頂けたら幸いです。
side:榊原 真由合
取り敢えず、花嫁衣装に関する事は、何とか分かったけど、憑依された状態の冴子さんは、お札を持たせても意味が無い事が分かったわ。
まったく、陰陽師泣かせの霊よね。
「真由合さん、イライラすると鑑定に影響が出るよ」
雅さまに、ズバッと言われちゃったわ。年上の面目丸潰れじゃないの・・・。私、貴方の側近なんだけど?
「勿論、そんなヘマは致しませんわ、お任せ下さいませ、今なら逆に、我々でも見えるかもしれませんし」
これは、何となくの勘だけど、強ち、間違ってないと思うわ。本体の核みたいな霊が居ない時、品物は無防備になる事が多いの。花嫁衣装も、あの女性の霊が核のはずだもの。間違いなく、何か見える筈だわ。
「・・・美鈴が拒絶されたのが、気になるんだよね」
「誰だって、隠しておきたい思い出や過去は、必ずありますわ・・・・・あの霊にとっても、見せたくないのでしょうね」
花嫁衣装の彼女の目的は、やり直す事。”幸せな花嫁“を。妻を、家族の幸せを。ーーーーーでは、何故?
「あの一族の過去の事は、資料室にお願いしたし、とにかく彼女を着物に戻さないと・・・印籠とも、関わりがあるみたいだし」
雅さまは、着物に関しての推測は出来たみたいだけど、印籠に関しての方はお手上げね。資料次第っていうのも、何か嫌だわ。
「・・・さぁ、見せてちょうだいね? 貴女の思い出を」
呪文を唱え、着物に集中していく。意識を着物へ向けて、入ろうとした、まさにその時。
ーーーーー余計なことをしないでっ!!
突然、聞こえた女性の声と共に、着物から強烈な衝撃波が放たれ、それを全身に受ける羽目になった。
「キャァーーーーー!?」
ちょっと甲高い声が出たけど、とっさに腕を交差して受身をしたけど、内心、またかっ! って思っちゃったのは、許して欲しいわ。そのまま、勢いよく倒れ込んだ。・・・・・お高い家具にぶつからなくて、本当に良かったわ。下が絨毯だったのも、助かったわ。あんまり痛くないもの。
「真由合さんっ!! 大丈夫!?」
雅さまの声がしたけど、さっきの衝撃波がまだ抜けてなくて、呻き声しか出せなかったわ。
「ごめん、自分の分しか結界、間に合わなくて・・・」
申し訳なさそうな雅さまだけど、あたしは雅さまの護衛であり、側近。雅さまに怪我が無くて、そっちの方にホッとしたわ。ゆっくり体を起き上がらせたら、衝撃波がようやく抜けたのか、動けたわ。
「いえ、ご無事で良かったですわ・・・申し訳ありません、油断しました」
あたしとしても、雅さまに何かあったら、そちらの方が恐ろしいわ・・・。龍崎の怒声に比べれば、自分の怪我の方がまだマシだわ。
あたしも、雅さまも自然と視線は、着物へ向かう。
美しい、誰もを魅了する、魅惑の花嫁衣装。縁起の良い図柄を、着物全体に丁寧に刺繍された、見事な一品よ。
「綺麗な品なんですよねぇ」
「うん、でも、解決しなくちゃ・・・彼女は、ここに居てはいけないよ」
雅さまの言うとおり、彼女は死んでいるの。本来ならば、心残りを解いて、あの世に送ってあげなければいけないんだけど・・・。
手がかりは、やはりこの花嫁衣装の過去。彼女がやり直すのは、・・・・・あら。もしかして?
「幸せじゃ、なかったから・・・・・?」
「えっ?」
あたしの呟きに反応して、雅さまが驚いたように目を見開いていた。
「雅さま?」
「そっか・・・何で気付かなかったんだろ? やり直すのは、幸せな花嫁! つまり、これが彼女の理想なんだ」
つまり、だ。不幸な花嫁だった彼女は、幸せになりたくて、やり直しているのかしら?
「もしかして、印籠もその時期のものなら、花嫁衣装と離されたから、出てきた・・・なんて?」
何となく、何となく呟いただけの言葉だったんだけど・・・何故か、雅さまの顔色が変わった。
「真由合さん、その可能性、あるかも・・・急いで印籠も確認しよう! 胸騒ぎがするんだ」
胸騒ぎがする、という雅さまに、あたしまで嫌な予感がしてきたわ。まぁ、あそこには清流院がいるし、何かがあっても大丈夫だとは知っているけど、雅さまの勘て、こういう時、何故か当たるのよねぇ・・・。
「あっ、でしたら、着物もお借りしては? 印籠に関係があるなら、何か起きるかもしれませんし」
「そうだね、聞いてみよう」
豊穣さんは、今日は来客のため、自宅に居ると聞いているわ。執事さんが居るだろうし、聞いてみましょう。
「借りれたら、一度、歴史博物館に戻ろう」
雅さまのお願いは、あっさりと叶えられ、我々は歴史博物館へ舞い戻ったの。まぁ、着いて早々、トラブルに向き合う羽目になったけどね!!
何でこんな大物、引き当てるわけ!??
◇◇◇◇◇
side:竜前寺 雅
車は特に問題なく、道を進んでいく。嫌な予感てものは、何故か外れてくれないものだ。
唯一、今回の件で良かったのは、着物をちゃんと持ち出せたこと。勿論、依頼人の豊穣さんから、正式に許可をとった。抵抗されるかもと思ったけど、着物を箱に納めたら、以外にも、邪魔されずに、すんなり外へ出れた。
「箱に仕掛けも何も無かったよね?」
「えぇ、美鈴が確認していましたわ、あの子の目に映らなかった物が合ったとは思えませんわ」
確かにそうだ。美鈴の目は、このメンバーの中で、一番強い。彼女が見えない物があるとは、どうしても思えなかった。
「箱に、抵抗無く入ったからさ、ちょっと拍子抜けしたっていうか、意外というか・・・」
「そうですね、助かったとはいえ、あんまりに素直だと、勘ぐってしまいますわ」
「確かに」
帰りの車は、もうすぐ歴史博物館に到着するという、まさにその時。久しぶりに、心臓がドクリと鳴る。
まさか・・・。
「雅さま? どうされました?」
運転しているのに、こういうのには、直ぐに気付くんだから・・・。とはいえ、今は此方ではない。
「大丈夫、それよりも真由合さん、気付いてるよね?」
今は、こっちが先だ。自然と、空気は真面目な物に変わっていく。
「えっ? えぇ、これはかなりのを引き当てたみたいですね」
「清流院さん達、大丈夫なのかな? 白木さんはまだしも、二人は戦闘には向いてないんじゃ・・・」
「あら、あのメンバーならば、大丈夫でしょう、加勢はしますけど」
運転しながら、真由合さんは片手で器用に印を組み、何かを呟いている。気配が二つ、僕らが向かう先へ向かったから、式神を向かわせたみたい。
「少しはマシでしょう」
まぁ、もうすぐだしね。何て思いながら、駐車場が見えると、かなりヤバイ気配を感じた。ゾクリと毛穴が逆立つような、そんな不愉快な気配。
「駐車場が異界とか・・・何を引き当ててるのよ!」
真由合さんの悲鳴に、僕も思わず、全力で同意したのだった。




