3ー10
お待たせ致しました!
次回も誠意執筆中です!!
結局、あれ以降、何度みても、着物に変化はありませんでした。そのため、依頼人さんのご厚意で、休憩をしています。
美しい細工のテーブルには、これまたお高いだろう、アンティークの華奢なコーヒーカップ一式が準備されていて、妙に緊張する休憩です。紅茶も美味しいはずですが、緊張で味がしません。庶民の私には、ハードルが高すぎました・・・。
矢上さんだけが、同じく緊張していました。同士です! 雅くんも、龍崎さんも、平然としていました。生まれの良さが出ている気がします。
そんな時に、事務所から龍崎さんへ電話が来ました。断りを入れてから、電話を取った龍崎さんが、途中、一瞬ですが、険しい顔をしたのを、私も雅くんも、矢上さんも、見逃しませんでした。
「何かありました?」
電話は直ぐに終わり、矢上さんが最初に口を開きました。表情が固いのは、仕方ありません。龍崎さんの、あの顔を見たばかりですもの。
「・・・あちらの仕事で、怪我人が出ました」
誰もが、息を飲みました。確かに、この仕事は、怪我があるかもしれない、危険なものです。私達が怪我をしていないのは、ただ単に、運が良かっただけです。実際、以前の依頼では、私は死にかけていますし、和葉さんは体調を崩しています。常に、危険と隣り合わせである事を、嫌でも思い出してしまいます。
「大丈夫なんですか?」
不安になって、私も聞いてしまいます。
「怪我をしたのは二人、榊原さんと水島さんのようです」
「・・・真由合さんが?」
雅君が驚いたように、小さく呟いていました。多分、無意識だったのだと思います。
「怪我は大したものではないそうですが、彼方は危険度が上がったそうで、此方を早急に解決するか、中断するかを決めるように、と所長からの指示です」
当然といえば、当然なのだと思いますが、やはり、我々も、いえ、私以外の皆さんが呼ばれているからなのでしょう。彼方の討伐、いえ、お祓いを、早急にすべきでしょうし。
「とはいえ、こちらも簡単とは言えませんし・・・資料待ち状態ですからね」
難しい顔の龍崎さんの言う通り、資料待ち状態なため、膠着状態なのです。動けない今は、まさに四面楚歌、でしょうか?
「資料が来るまで、彼方に応援はダメなんでしょうか?」
私の意見には、雅君が嫌そうな顔をしています。同じく、龍崎さんも険しい顔です。
「可能ではありますが、彼方の状況次第ですね、こちらも下手には動けません、神戸さん、貴方も呼ばれているんです、鑑定人として」
これには、目を見開きました。あちら、討伐組でしたよね? わたし、鑑定くらいしか出来ませんよ!?
「あちらの依頼が、歴史博物館の夜な夜なさ迷う霊の徐霊だったんですが、原因や何に宿っているのか、それすら分からないため、鑑定からスタートしたようですよ」
・・・・・私が必要な意味は分かりましたが、何でしょう。この、脱力感は。
「確かあっちは、攻撃特化の皆さんとかでしたよね?」
微妙な顔をしている矢上さんは、多分、呆れているんでしょうね。怪我をしたと聞きましたし、準備不足なんて真由合さんがする訳ありません。
「鑑定に関しては、していないそうです」
「「「はっ?」」」
綺麗に私達の言葉が重なりました。いやいや、おかしいですよね!? 鑑定しないで、何で分かったんですか??
「・・・・・何でも、九十九神にお願いをして、聞き出したそうです、いくつかに絞ってから、後は見張って特定したそうです」
思わず絶句しました。いやまぁ、間違ってはいないとは思うんですが、流石、攻撃特化型というべきでしょうか? 予想外過ぎました。
「ん? ってことは、特定できたんでしょ? 美鈴は要らないよね?」
至極全うな発言を雅くんから貰いました。私も同感です。既に特定され、後は祓うか、討伐か、くらいしか残っていません。今さら、私が鑑定する意味が分からないのですが。しかし、何故か龍崎さんの目が、遠くを見ていました。
「それが、・・・鑑定を覗いた為か、その対象に拒絶され、お札さえも張れないそうです」
「「「はっ?」」」
予想外の言葉に、全員で目が点になりました。何をやっているんですか、皆さん!!
それは、本末転倒ではないですか!?
「緊急性で言えば、彼方が優先はされるでしょうが・・・」
言いにくそうな、龍崎さんです。
分かります、これは、彼方の方々の手抜き故の事態だと。私は鑑定があるので、行くとしたら、私以外の皆様なんですが、これは、一波乱ありそうです。
「・・・・・仕方ありません、女性の皆さんには、お守りを渡し、一旦、合流しましょうか」
ため息を吐きながら、龍崎さんが答えました。全員で、一旦合流してから、また、此方の依頼をする。恐らく、今現在、もっとも有効な手の一つです。
「・・・賛成、仕方ないよ、あっちがヤバそうだし」
矢上さんが、渋々といった感じではありましたが、賛成に回りました。
「本来でしたら、中断するなど、あってはならないのですが・・・」
龍崎さんは、かなり、責任を感じているようです。
「早く終わらせて、直ぐに戻って来ましょう、わたし、鑑定を頑張りますから!」
私も、意気込み十分です。あちらは、鑑定さえしっかりすれば、問題も早く解決するでしょうし、何より、私にはこの着物が気になっていました。
「アハハッ、美鈴が本気を出したら、本当に早く終わりそうだね」
雅くんの笑い声で、ピーンと張っていた空気が緩くなります。
「向こうに連絡を取ります、まったく・・・」
このまったくが、私達に対してか、あちらの皆さんに対してなのか、私には分かりませんでしたが、龍崎さんの顔が何処か優しいような、困ったような顔が、印象的でした。




