2―13
今回は、真由合さん視点でお送りします。
雅くんとの出会い、謎の一部が明らかに!?
side:榊原 真由合
この世界が、美しいだけの物しかなかったら・・・。この、目の前に居る小さな主は、幸せだったかもしれない。
未だに眠り続ける美鈴を、雅さまは不安そうに見つめている。例え、気を失っていても、美鈴の回りは穏やかで。ーーーーーだからこそ、雅さまは恐れている。美鈴を失うことを。
私が雅さまの側近になったのは、初めは、家族からの依頼かきっかけだった。
ーーーーー数年前。
分家のあたしは、優秀だけあって、あちこちの一族から声がかけられていたわ。家族もあたしも、鼻高々だったわ。それだけ優秀だと、認められたも同然なんだから。
その中から、私はいくつかの条件の良い場所を選んで、面接を受けたのよ。
分家にとって、本家に使えるのは、認められた証拠。一流の術者にとっての、ステータスなの。どこも、あたしを欲しがったんだから!
そして、最後に受けたのが、竜前寺家。雅さまのご実家だったわ。ただ、ここだけは様子が違ったわ。
他は、全面にうちに来て欲しいって、アピールが凄かったの。当主に使える形でよ。でもここは何故か、当主様との面接から始まったの。あたしの他にも、それなりの人数が居たけど、どれも力量は下って直ぐに分かったわ。霊力が、粗いの。まぁ、下は学生さんから、上はあたしよりも少し年上くらいまで、幅広い年齢だったから、そこは不思議だったわ。勿論、それなりに力を持っている人もいたから、油断はしないけど。
因みに、ここには龍崎は居ないの。あいつは、家の紹介筋だから。
立派な和室で、一同は緊張のまま、当主様と面会してるのよ? あたしも緊張したわ。
『まず、我が家に来てくれた事に、礼を言わせてくれ、ありがとう』
軽く頭を下げた当主様に、まわりは恐縮してたけど、あたしは好感を持ったわ。当主としての、威厳はそのままに、感謝を示したんだから。
『当家が求めるのは、私の息子の側近になる存在だ、勿論、家に使える者も募集中だが、息子の側近がまだ、決まっていなくてね』
少しだけ、寂しそうな顔が気になったけど、御子息の側近とは、分家からしたらかなりの好条件ではあるが、性格によるリスキーな職場でもある。あたしが受けた他の家は、御息女の側近に女性が欲しいって、あたしにアピールはしてくれたけど、肝心の御息女と性格が合わず、保留になっていたのよね・・・。だって、心配になるくらいの、のんびりやさんなんだもの。考えちゃうわよ、流石に。
『息子は少々問題を抱えていてね・・・、側近に成れそうな人物が、中々にいなくてねぇ、正直、こちらも手詰まりで』
困ったように笑う当主様。そういえば、竜前寺家は少し前に、大きな不祥事があり、結果、後妻の方が亡くなっていたはず・・・。成る程、人数が少ないのと、未熟な存在が多いのは、そういう事かと、納得した。誰しも巻き込まれたくないから、詳しい人は来なかったのだ。あたしは、そんなの気にしないけど、気にする人は居るだろう。内容が内容なんだし、ね。
『さて、我が家ではまず、テストを受けてもらいたい、君たちが我が家で使えるに相応しい存在か、そして、私達は使えるに相応しい存在か、テストではっきりさせたいんだ』
実力をみたいというのは、どこも行う事だから、これには納得だけれども、後半、またしても当主様は、試すような事をいう。
・・・・・これ、テストが厳しそうなんだけど、大丈夫かしら?
嫌な予感程、当たるもの。当主様に出された課題は、宝箱に施された解呪だった。それも、絡まりが凄く、やや難解なものだった。
『これを一人一つ、用意してある、無事に中身を出せた者を、合格とし、息子に会う権利も付けよう』
あたしの右の眉が、ピクリと動いた。これが最初の課題で、御子息に会うのは、合格者のみ。それも、あくまで一族に使える存在が優先であり、御子息に会うのは、合格者のみ。徹底されている、そう思ったわ。
今日、集まった者たちは、あたしよりも下の術者が多いけど、強い存在も数人いる。気を引き締めないと、落ちてしまう気がする。
『宝箱は行き渡ったね? 制限時間は二時間、では、初め』
パズルのように絡まった術を、丁寧に解いていく。細かい作業は、得意じゃないのよ? でも、合格するなら、やるしかない!
あたしがモタモタしてる間に、やっぱり、あたしが気にしていた数人は、素晴らしい手腕で次々と宝箱を開けていく。あたしだって、あたしだって! 負けないんだから!!
厄介な一つを解いたら、後は楽勝! 油断はしないで、何とか解いた術は、全部で七つ・・・。この試験、難しいわよ!
開いた宝箱の中身は、合格通知書・・・・・。思わず、固まったわ。あたし、初めてよ? こんなに脱力したのは。
『そこまで! 宝箱を開けた皆さんは、別室に案内しよう』
こうして案内された部屋は、先程とは違う洋室で、一人一人に椅子を進められた。合格者は、あたしを含めて全部で5人。少ないけれど、実力は確かでしょうね。
『まずは、合格おめでとう、我が家は・・・竜前寺家は、君たちにとって使えるに相応しい一族かな? 君たちが決めてくれーーーーーさて、その前に、君たちには私の息子と会ってもらいたい、勿論、使える、使えないは君たちが決めていい、側近じゃなくても、当家に使えるでも構わないからね』
当主様は、私達に決めさせる事で、見極めたいのかと思ったわ。優秀な人材ならば、どの一族も喉から手が出る程に欲しがるのに、この方は控え目に言う。正直、戸惑いが大きかったわ。
『窓の向こうが、息子の部屋だ、覗いて見てほしい』
この言い方に不思議に思いつつ、覗いた先。確かに、小さな子供がいたわ。今は誰かが遊んでくれているみたいだが、何故かパジャマ姿。そして、その子に絡まる、黒いそれに気付いた者は、唖然とするしかなかった。
『・・・・・あの子が息子だ、あの子はね、大人の犠牲になったんだ』
悲しそうに言う当主様の目には、複雑な色が宿っていた。無力感を嘆くでもなく、ただただ、現実を直視する姿には、好感が持てた。
『・・・・・あの子の側近には、苦労をかけると分かっている、だから、強制出来ないんだ、それは本当の側近ではないだろう?』
多分、あの言葉があったから、あたしは側近に成ったんだと思う。強制でもなく、あたしが決めた、あたしの主。目が話せなかった。小さなこの方から。
『当主様、会わせて貰えますか、あの方に・・・』
この出会いは、必然のものだと思った。小さなこの子を主に決めたあたしは、その後、他の話を全て断り、竜前寺家の長男の側近になった。あたしの家族も、まわりも、驚いた様子だったけど、迷いはなかった。
あたしの主は、雅さまだもの。
◇◇◇◇◇
side:榊原 真百合
「美鈴・・・」
雅さまの声がして、記憶の旅から、はたと元に戻された。あの幼い姿は、今も記憶にあるけれど、ちゃんと目の前には、元気に育った雅さまの姿。苦労は確かにあったけど、雅さまを救う希望を見つけた。
当主様が頭を下げて、ようやっと動いた、この小さな変化に、あたしは期待している。小さなこの方が、自由を得るその日まで。
「雅さま、美鈴なら大丈夫ですわ」
「でも・・・」
不安そうな顔を見るたびに、成長を感じるのだから、あたしも大概だわ。小さな頃は、顔の表情がなかったなんて、誰も信じないわね。
だから、大丈夫よ。この小さな希望、絶対になくしたりしないわ!
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