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霊感探偵達の物語  作者: 秋月煉
推理は挽歌を奏で
35/78

2-1

長らくお待たせ致しました! 新章スタートです。


はらり、はらり


灰色に染まった空から、まだ染まらない無垢な小さな綿が、大地を白に染め上げていく。


はらり、はらり、はらり


まだらに点在する、紅色に染まった大地さえ、きっと僅かな時間で白に染まってしまうんだろう。


「・・・・・ぐっ、・・・ゲホッ、ゲホッ・・」


また、僕の口から、紅の花が咲く。ツーっと口元を流れていくそれは、大地をまた、紅色に染め上げていく。


はらり、はらり


音何てないはずの、天からの贈り物。真っ白く大地を染め上げるそれは、まるで僕の存在さえも消してしまうかのようで。


きっと、”あの人”が、願った通りなんだとしても。


寂しいと、悲しいと、苦しいと、叫ぶことも出来なくて。


はらり、はらり、はらり


大地を染めるそれを見て、思ってしまったんだ。


僕の心こそ、白く染め上げてくれたらいいのに・・・・って。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇


side:竜前寺 雅


意識が浮上して、あぁ、目が覚めたのかと、僕は目を何度か瞬きする。

随分と懐かしい夢を見た。しばらく見てなかったのに・・・・・。やっぱり、自宅だけあって、完全には忘れる事はできなかったらしい。いや、思い出してしまったのか。

この家は、代々の家で、簡単に引っ越しは出来ない。離れでも作って、建て替えくらいはするけれど。既に僕が8歳になったおり、体調が安定したのを見て、父と両家の祖父が住みやすいように立て替えてしまった。それ以降は、たまにリフォームをしてるくらいだろう。だから、あの頃の面影は、今や庭のみだ。ここは簡単には変えられなかったそうで、父たちが珍しく頭を抱えていた気がする。僕は気にしてないのだけど。

あの依頼から、既に3日経っている。自分としては、成長できた・・・呪いの一部が解けただけと、そう認識していたのだが、どうやら外から見ると違うらしい。

あの日、家に帰るなり、連絡を受けたらしい、同居する父方の祖父母と、父と、継母が出迎え、その時、驚きで固まっていたくらいなんだから。いくら何でも、その反応は無いと思う。気を効かせた真由合のお陰で、いつまでも玄関で足止め、というのは無くなったのは助かった。


「み、雅? お前、随分と成長したな・・・? 何があった?」


奥の間に入るなり、不躾ともいえるくらいに動揺した父の、間抜けな質問には、苦笑いしかなかった。良かった、他の子供達がいなくて。父がこうなら、他は押して叱るべしだろう。


「今回の依頼で、運よく、呪いの欠片を飲み込んだモノを、退治できました」


詳細は、二人が後で詳しく説明してくれるだろう。面倒くさいし。


「そうか・・・だからこんなに大きく・・・そうか」


どこか安堵に近い、優しい父の声に、ちょっと居心地が悪くなる。しばらく成長が止まっていたから、余計嬉しいのかもしれない。正直、恥ずかしい。と、黙って聞いていた継母が、僅かに目を見開いて、あっと小さな声を出した。


「雅さん、お洋服が小さくなったんじゃないですか?」


いつも優しく、僕を気遣ってくれる継母は、今日は黄色の着物を着ていた。優しい雰囲気が漂う、品のいい継母は、細かい事に気が付くタイプだから、気が付いたみたいだ。これには、真由合が答えてくれた。


「はい、申し訳ないのですが、用意していた洋服ではサイズが合わず、依頼人のご子息のお下がりを頂きました」


今の季節の服が数枚と、ズボンが数枚。颯太とかいう青年は、子供の頃、かなり活発だったらしく、ズボンは短パンが多かった。長いタイプのズボンは、膝が破けていて、補修が目立ったため、短パンだけ頂いたのだ。


「まあ! じゃあ、後から私も買っておくわね、あと、すばるさんと、あきらさんのお下がりも出しておくわね」


ルンルン気分で、嬉しそうに顔を輝かせる継母に、一応、笑顔を見せておく。


「ありがとうございます、お義母さん」


この人は、ちゃんとお義母さんと呼ばないと、へそを曲げるから、ちゃんと呼ぶようにしてる。実の子ではない僕と昴を、ちゃんと実の子と同じように育ててくれた、優しくて懐の広い人だ。術者としても、優秀な人だからか、彼女の実の子である、弟の明と妹のあおいも、霊力は僕らに引けを取らないくらい高い。いや、もしかしたら、二人の方が高いかもしれない。


「さあ、そうとなったら、二人にもお手伝いをしてもらわないと! あなた、お義父様、お義母様、私、席を外しますわね」


そう言って、台風のように去ってしまった・・・。まあ、いつもの事だから、ここにいる皆は慣れているけれど。二人、お手伝いで通いの佐藤さんと、住み込みの鈴木さん。二人とも、うちの内情を知ってるところから来てるから、問題はない。でも、継母の今のテンションでは、かなり忙しくなるんじゃないかな?


「はあ、あいつは雅の事になると、直ぐに周りが見えなくなる・・・」


頭が痛いと、父が天を仰ぐけど、それこそいつもの事だ。継母は、実の子と同じくらいに、僕と昴を大切にしてくれた。僕が心を壊すことなく、昴とも仲良くいられるのは、間違いなく彼女のお陰だ。だから僕は、継母の事を、実の母のように思っている。


「僕は嬉しいですよ、お義母さんはいつも優しいですから」


「それはそうだが・・・雅、成長はしたが霊力はどうだ?」


きっと此方が本題なんだろう。父の目を誤魔化す事なんて出来ないし、僕としてもお願いしたい事があったから、ちょうどいい話題だった。お義母さんが、席を立ったのは偶然だったけど。


「成長と一緒に、霊力も上がったみたいです、扱えない訳ではありませんが、どうしても前より大雑把になってしまって、細かいコントロールが上手くいきません」


そう正直に話して、父親たちを見れば、なんだろう。とても嬉しそうな、優しい顔が気になった。


「そうか、では修行するか!」


酷く嬉しそうな父と、そして祖父。呆れた顔なのに、嬉しそうな祖母。意味が分からない。


「はい、お願いしようと思ってました、ご指導、お願いします」


そういって頭を下げたら、いつの間にか傍に来ていた父が、僕の頭を撫でていた。だから、意味が分からない。僕は何かしたんだろうか? キョトンとした僕の顔に気付いたのか、小さな笑い声と共に祖母が助け舟を出してくれた。


「ふふっ、この子はね、雅さんが成長して、さらに頼ってくれた事が嬉しいんですよ、だって、雅さん、あまり頼ってくれないでしょう? 親は寂しいものなんですよ」


そういうものなのか。この辺り、僕は特殊な立場にいるから、どうしても分からないんだよね・・・。でも、胸の奥がポカポカする気がした。

でも、愛の鞭の言葉通り、その後の修行はとても厳しかった。久しぶりの父との修行は、やっぱり父は凄いのだと、再認識するには十分なもので、しばらく手ほどきを受けれると思うと、ちょっと嬉しい。基本的に、父と一緒というのが少ないから。祖父は厳しいけれど、父以上の迫力が凄い。結局、その日は一日、修行に消えたのだった。


「・・・・・容赦なかったな」


思い出して、遠くを見てしまう。

そういえば、今日は出かける日だった。本調子とは言えない僕に、継母が息抜きにどうかと、言ってくれたのだ。行くのは、僕と真由合、龍崎である。ぶらりとショッピングや、カフェに行くつもりである。多分、職質は受けないだろう。土日だし。前に言われて、大変だったのだ。最終的に、家の名と、医者からの診断書が役にたった。


「あ、服・・・・・」


細かいもの、下着類や靴下などの消耗品は、継母が急ぎ用意してくれたので、問題はない。服も、昴と明のお下がりとはいえ、立派な物ばかりで、中には明らかに新品もあった。いつの間に・・・。


「今日は、これにしようかな」


箪笥から、今日着る服を取り出し、着替えていく。僕に与えられてる部屋は、ちょっと特殊で、和室の作りになっている。他の兄弟たちは、洋室なんだが、僕の体質上、和室の方が都合が良かったのもある。ここには、未だに巣食うモノから、僕を守る術が、これでもかと施されており、ここにいる限り、体に不調はもたらされないのだ。

とりあえず、着替えを済ませて、朝食の席に着く。前は、和室で食べていたが、今は洋室の長テーブルで家族と食べている。

そういえば、帰ってきた初日。兄弟達の帰宅は、それこそ騒がしかったと、今更ながら思い出す・・・。特に昴は、成長した僕を見て、しばらく驚いて固まったものの、いきなり抱き着いてきて、しばらく泣いていた。良かった、良かったと嬉しそうに。逆に僕が心配になったよ・・・。

明は帰ってくるなり、同じくらいの背になった僕を見て、おっきく成ってる! と騒いだ後、騒ぎを聞きつけたお義母さんに、拳骨を落とされていた。まあ、痛みに泣きながら、僕の服を掴んで離さないという、器用な事をやってのけ、周りを呆れさせていたけど。

そして、この中で一番まともな反応だったのが、葵である。帰宅して、僕を見た瞬間。開口一番、彼女はこう言ったのである。


「良かった!! 雅が大きくなって、早く全部解いて、肩車してね!!」


・・・・・一番まともなんだが、何というか。個性豊かな兄弟達に、ちょっと遠くを見てしまった僕は、悪くないと思うんだ。


「おはよう、雅・・・どうした?」


父の声に、現実に一気に引き戻された。どうやら、回想して意識を飛ばしていたらしい。


「・・・・・おはようございます、いえ、ちょっと初日を思い出しまして」


そういえば、父はすぐにあの騒ぎを思い出したのか、ニヤリと笑う。


「愛されてるな、雅」


「ありがとうございます・・・」


かなり複雑だった。まぁ、色んな事情があったのに、家族仲良くいられるのは、きっと皆が願った事なんだろう。



お読み頂きありがとうございます♪

お久し振りな皆様も、初めましてな皆様も、作者の秋月煉です。

かなり長らくお待たせ致しましたが、ようやく新章スタートとなりました。また、ゆっくりとではありますが、投稿していこうと思っています。

今回は雅くんを中心に、物語は動いていきます。勿論、美鈴ちゃんも登場しますよ!

これからも、霊感探偵を宜しくお願いいたします!

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