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お待たせ致しました!
Side:椎名 和葉
あの攻撃でも、かすり傷ひとつ付かないなんて!
内心、動揺が隠せませんでした。大抵の悪霊は、光を込めたこの石の力で浄化出来ていましたし、ここまでの大物と出会ったことがないだけに・・・・・いえ、過去に何度かありましたけど、あの時は私は力が使えない状態で、足手まといだっただけに、今回の討伐は、どうしても成功させたいと思っていたんですが・・・・・。
「和葉! もう一回、それ放って!」
早乙女さんの声に、今一度、同じ攻撃を用意します。何か気付いたのでしょう。今の彼女は、切り札である”種”がありますが、このまま吸い込めるようなものではないでしょう。大物過ぎますもの。でも、あの種が、例の種ならば問題ないはずですけれど。
「いい? あたしの号令で、一斉に行くわよ!」
恐らく、ですが、龍ヶ崎先輩と早乙女先輩がアイコンタクトしてますから、何かしようとしてるはずです。でしたら、全力で当たらせていただきます!
『光明、この場の悪鬼に対し、聖なる光を与え給まえ!』
先程よりも、石に力を込めての攻撃です。光は、眩しい程にハッキリとした形を纏って、怪物に向かっていきます。勿論、奴とて、大人しく受ける訳がなく、先程と同じように、攻撃を消す為に、瘴気を放ってきます。狙いは私が放った、光の攻撃。それが光の攻撃に当たった瞬間、動いた人たちが居ました。
なるほど、私の攻撃を囮にして、こいつへ攻撃する訳ですね。さすがの連携です。
『『急急如律令!!』』
龍ヶ崎さんと、龍崎さんの声が重なりました。どうやら龍崎さんも、機会を伺っていたようです。更に、幸運は繋がります。先程よりも明らかに、我々への後押し、この場の霊脈が力強く輝いているんです。これは、巫女である美鈴ちゃんの力でしょう。厳密には、巫女とは言えないのですが、やってる事は巫女さんと同じですからね。それに、相性がいい、柊さんの神子舞まで加われば、かなりのアドバンテージと言えるでしょう。
「どうかしら?」
早乙女さんの確認の声が聞こえました。不意打ちのような攻撃ですが、命中していますし、どれほどのダメージかは気になります。濃い瘴気が私の攻撃で浄化され、一瞬キラキラと場違いにも綺麗な姿を見せた後、二人分の呪文が炸裂したのです。濃い瘴気のほとんどが浄化されました。
ーーーーーでも、未だに瘴気が感じられるのです。煙が晴れると、そこには、左の肩・・・といえるのでしょうか。そこが大きく抉れた怪物が立っていました。ダメージは、あまり喰らっているようには視えません。
「忌々しいわね・・・もう少し削らないといけないかしら?」
早乙女さん、なまじ綺麗な顔だけに、目を細めるとちょっと怖く感じます。手に持つ種は、先程同様に、この場の瘴気を吸い込んでいます。だから、こんなに濃い瘴気を放つ相手でも、我々は立って動けているのですが。
「同じ手は、喰らってはくれないでしょうね・・・今度はあたしがやるわ、後はよろしくね」
そう言って、真由合さんが印を組みます。それに合わせて、皆さんも術を準備し、いつでも放てるようにしているようです。そういえば、この怪物、未だに自分から攻撃してこないのは、何故なんでしょう??
『我が前にある悪鬼を祓い給え! 急急如律令!!』
真由合さんが放った術は、まっすぐに怪物へと向かっていきますが、怪物は濃い瘴気をその術に放つと、あっさりと消し去ってしまいました・・・。先程よりもずっと濃い、その瘴気は術を消しても消えず、そのまま真由合さんへ向かっていきます。とっさに横に飛んで逃げた事で、怪我はないようですが、先程まで彼女が居たところは、黒く変色し、異臭を放っていました。とっさの事で、皆さんもタイミングがつかめなかったようですが、これは中々、骨が折れそうです。
「もう、何なのよ! 危ないわね!」
彼女の高飛車で不機嫌な声が、当たりに木霊します。そういえば、ここは洞窟でしたね・・・。スッと場所を移動します。場所は勿論、龍ヶ崎先輩のところ。
「どうした?」
「実は・・・」
考えた事を、彼にコソッと伝えれば、そこにはいつもよりも凄みを増した、彼の顔。・・・・・何か、早まった気がしたのは、私だけでしょうか??
ここは今、美鈴ちゃんと、柊先輩の舞で、普段よりも霊脈が活性化してますし、お陰で封印も強固な物になっています。だからこそ、我々も敵と対峙できているんですが。相手は、
「やるぞ! みんな続け!」
龍ヶ崎先輩の号令で、各々が動き始めます。ここは、洞窟。木霊する場所。ならば、それを利用したらどうか。私の提案は、そういうものです。実際に、流派は若干違いますが、皆さんが場を浄化する呪文を、大声で唱えています。こういう時、居ないメンバー達が居ればと思いますが、居ない方々に期待はできません。
『グゥゥゥゥゥゥゥ・・・・』
唸り声を上げ、より一層、濃い瘴気を身から吹き出し、身を守ろうと足掻く怪物に、皆さんはそれぞれ容赦なく、呪文を声高々に響かせて、唱えています。私が使う石霊の術は、言霊を利用するため、こういう術には向いていません。正確には、出来ますが、ここにある封印に影響が出たら怖いので、出来ないが正しいですが。その為、私だけが待機の状態です。勿論、警戒は怠るつもりはありません。
直ぐに動けるように、手には防御と攻撃の石を用意しています。
ふと、後ろに視線が向きました。本当に偶然だったのですが、何か大切な事を、見逃しているような・・・・・そんな気がして。
石霊師は、石を使いこなす術者です。この場は洞窟、例え魔に穢れていようと、この場を掌握する事も、私の力は可能です。だから、でしょうか?
先程から、攻撃してこない目の前の敵よりも、後方の、それが気になったのは。
幸運にも、私を止める人は、いませんでした。皆さん、木霊する呪文に気を取られていますから。
「これって・・・・・」
そこにあったのは、朽ちることなく健在の、小さな社でした。石で出来たそれには、ちゃんと祀っている形跡はありましたが、かなり古く、ボロボロになっていました。石であれば、石霊師は力を使い、視る事も可能です。倒すための手がかりが一つでも欲しい今、この情報は重要となるでしょう。
「和葉さん?」
唯一、護衛の目的で手が空いている雅君に、呼び止められましたが、彼もまた、私の前にある小さな社に気付いたようで、怪訝そうにそれを見ていました。当然です、ここにあったのに、誰も気付かなかったのですから! 私が気づいたから、彼も気付いたのでしょう。まるで、気付いて欲しくないような、そんな場所に立っていたのですから。
「雅君は、少し離れていてくださいね、美鈴ちゃんと柊さんをお願いします」
念の為に、お願いをしてから、私も行動します。手には万が一を考えて、いくつかの石を用意しておきます。恐る恐る触った屋根の部分は、この洞窟内に長年あった為か、湿っていました。石霊師の力で、ここに祀られていた存在を突き止めようと、力を使います。少し抵抗がありましたが、それらを上手く流していきます。その次の瞬間、流れてくる情報は、今回の根源とも言えるものでした。
「だから・・・」
思わず呟いた声に、ハッとします。それはつまり。見当違いな事をしていた訳です。道理で、早乙女さんが持つ種に吸い込まないはずです。
・・・・・だって、本体ではないんですもの。まあ、あれはあれでちゃんと役目を果たしているので、問題はないのでしょうが。
さて、この場を収めるためにも、動かなければいけませんね。
「雅君、どうやら罠にハマったのは、我々だったようですね」
「・・・・・どういう事ですか?」
苦笑いを浮かべる私と、そんな私に怪訝そうな視線を向ける雅君。当然です、あの種が吸い込まない時点で、疑うべきでした。
「早乙女さんが持つ種、何か知ってますか?」
急に話題が飛んだからでしょう。困った顔になってしまいましたが、説明するためには、どうしても先に理解しておいてもらった方がいいでしょう。
「あれは、恐らく早乙女さんの一族が代々継承してきた遺産、『魔法樹の種』でしょう」
それには聞き覚えがあるのか、雅君の顔が一瞬で強ばりました。私も分かります、その気持ち。だって、ホイホイと外に出せる物ではないんですから。
そもそも魔法樹とは、文字通り、魔力でのみ成長する特殊な木のことを指します。全てが魔法の材料になる上に、その実には魔法使いには必要とする、魔法薬の材料となるのです。継承してる家は、今や数軒のみ。国内で継承してるのは、早乙女家だけだったはずです。まさか、こんな現場に持ち出してくるなんて・・・・・。まあ、餌が必要とか言ってましたから、本当に理由はそれなんでしょうけど。
「もしも、そうであるならば、おかしいとは思いませんか? 何で伝説級の種が、あの怪物を吸い込まないのか」
その疑問に、雅君も気付いたようでした。おかしい事に。先程まで、凄い数の悪霊を吸い込んだ種です。勿論、これも吸い込めば、済むはずなのに、未だに吸っているのは、空気に漂う、瘴気のみ。私たちは濃い瘴気故に、この怪物から出ていると思っていましたが、本体が別にあるならば、話は別です。あれがもしも、本体ではなく、囮の目的である、分身だとしたら・・・・・。
「種は強い力を望みます、あれだけの存在を、いつまでも吸わないのはおかしい」
強く見せていても、囮だからそれほどの力はない。そして、本体も恐らく、あんな姿をしていないんでしょう。
「だから、この茶番を、早く終わらせましょう?」
私が浮かべた表情に、雅くんは驚いたように僅かに目を見開いていました。その目に映る私は、きっと微笑んでいるでしょう。
────────ようやく終わるのですから。
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