27
筆が乗りまして、こちらの作品を優先的に書いています。
他の作品をお待ちの方、もう少しお待ちくださいませ。次回は誠意執筆中です。
Side:竜前寺 雅
美鈴と別れた後、僕らは1階の別の場所を探しながら歩いていた。
廊下には、餌を逃がすまいとする早乙女さんが陣取っているから、そこを極力避けて通っている。何かあそこだけ、異様に寒気がするから。恐らく、精神的な意味の方で。
「張り切ってますね、魔女殿は」
「龍崎、笑い事じゃない、魔力が漂って、ピリピリするよ・・・」
多分だけど、興奮しすぎて、早乙女さん、魔力の制御が緩くなってるんじゃないかな? 早乙女さん一族は、この日本に珍しく魔法使いの家系だ。その本家のご令嬢である早乙女さんは、龍ヶ崎さんと同級生で、その縁で僕も何度か会っている。ここに入ったのも、その縁からで、僕にとっては頭の上がらない人でもある。
「っと、これは真由合かな? もしかして、結構早いペースで終わるかもね・・・・・」
途中、荒々しい真由合特有の気配を感じて、思わず一緒に居る美鈴に同情した。こんな荒れた霊力がバンバン飛び交う場所に一緒に居るとか、新手の嫌がらせにしか思えない。
「雅様、此方も動いた方が」
龍崎の言う事も、もっともなんだけど、明らかに龍崎がやりたそうにしてるから、きっと真由合の気配に触発されたんだと思う。普段は冷静な龍崎だけど、好戦的なとこがあるからね。でも、繊細な動きを得意としてる龍崎は、真由合のような豪快さは無いから安心できるけど。巻き込まれる心配が一切ないから。
「真由合も、龍崎みたいな繊細な術の扱いを覚えたらいいだろうに・・・」
思わず、半眼でぽつりと呟いたのは、言霊を願ってのことだけど。多分、叶う事はないだろう、とも思ってしまう。
「彼女には、合わないでしょう、細かな動かし方など」
珍しく、クスッと笑った龍崎に、僕は少し驚いて、そちらを見る。久しぶり過ぎると思う、龍崎の笑い声に。でも、次の瞬間、寒々しい程の冷気を乗せた、早乙女さんの魔法の気配に、二人で顔を強ばらせる。これは近くに居るのは、正直遠慮したい程の力で、そそくさと違う部屋に移動した。早乙女さんは、どうやら餌が大量な事に、はっちゃけているらしい。正直、近くに居たくない。
「ここでやろうか」
「分かりました」
龍崎の了承を得て、今回は僕が行う。成長した分、力も強くなってるし、感覚をつかむためにも、今日のこれは絶好の場所だったりする。
どうやら、仏壇を置く、奥の間だったようで、未だに収められていないところをみると、未だログハウスにあるのだろう。まあ、部屋の広さは6畳程なので、僕一人でもいけると思う。
「ナウマクサラマンダ・・・」
呪文を唱え始めると、いつもよりも自分の中の力が、普段よりも動いている感覚、いや、放出する・・・が近いかもしれないが、とりあえず放ってみる。
「ダカン! ハッ!」
気合と共に放った術は、いつも見慣れた大きさよりも一回り大きくて、内心やっぱりと思う。勿論、効果は抜群で一斉にここに隠れていた霊やら悪霊やらが逃げていく。恐らく本能的に、一番安全だと思っている、廊下の方へと・・・・・。うん、それ以上はいうまい。
「如何でした? 随分と安定していたようですが」
龍崎の心配げな問いかけに、そちらに視線をむけると、安心させるように笑顔を見せる。
「うん、思ったよりも大丈夫そうだ、制御は問題ないけど、今までよりも精度が低いかも、練習するしかないね」
一気に二つも外れたから、普段よりも力が多くて、精度が落ちたように思う。まあ、制御は問題ないだろう。まだまだ、これからなんだし。
「そうですか、ここには大物が居ないようですし、二階に行ってみますか?」
「うん、そうだね、どれくらい使えるかも検証しないと」
そんな事を言いつつ、足は廊下から階段へ上がり、二階へと向かっていく。真由合達も、大物を片付けたようで、ちょうど階段の中腹で、部屋から出てきた美鈴と視線があった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ハラハラドキドキの、真由合さんとの除霊・・・・・いえ、廊下へのお引越し? が無事に終わり、取り残しが無いか、再度確認してから、私達は部屋を出ました。
思わず、深いため息が出たのは、安心したからでしょう。真由合さん、まったく遠慮無しに、ガンガン行くものですから、本当に除霊してしまうんじゃないかと、違う意味で心配になりました。まあ、お引越しした悪霊さん達は、嬉々として待ち受けていた早乙女さんが片付けてくれたので、大丈夫なんでしょう。物凄い寒気がして、一瞬で鳥肌が立ちましたけど! 私の所を通る際に、悪霊の皆さんが落としていった言葉も、中々に怖かったですが、それ以上に、早乙女さんから感じるこの気配も、本当に怖いです!
私がこうして、探偵見習をしているのは、おばあ様の勧めですが、本当にここでよかったのかは、未だに疑問が残ります。だって、視るしかできないんですよ? あとは簡単な除霊や、ちょっとした術、特殊能力もあるらしいですが、正直ピーンと来ませんし。足手まといではないか、時々、本気で考えてしまいます。
「美鈴、行くわよ」
考え込んでいた私は、真由合さんの声で慌てて、着いていきます。ふと、階段のところに雅君の姿が見えて、視線で追うと、彼と目が合いました。未だに成長した彼の姿に慣れない私ですが、この年頃ですから、成長も早いんだろうな、とは思います。だって、私にも弟が居るので、成長痛の痛さは分かります。弟は、どうも伸びやすい体質らしく、中学生に上がってすぐの頃が、一番大変そうでした。目の下によく、隈が出来てましたから。最近は私よりも身長が高くなって、見降ろされることが増えましたが。
『頑張ってね』
声にならない呟きを囁いて、私は先に行った真由合さんを追いかけます。視る力は、ここにいる誰よりも私が強いらしいので、こんな時くらいは力になりたいんです!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
Side:竜前寺 雅
『頑張ってね』
視線が合った美鈴の言葉を正確に拾ってしまった僕は、思わず、その場でフリーズしてしまう。多分、顔には少ししか出ていないと思うけど。それでも、読唇術を叩きこまれている僕は、それが理解できてしまったので。
ーーーーーーーーここでそれは反則だよ、美鈴。
「雅様?」
いつまでも着いてこない僕に、心配した龍崎が僕を呼ぶまで、そのままで居るしかなかった。
「いま、いく」
その声さえ擦れていて。情けなくは思うけど、多分、顔も赤くなってるだろう自覚がある。右手で顔を覆う。
普段から、幼い自分を姉のように接してくれる美鈴は、僕にとっては眩しい人だ。存在そのものが、僕の周りには居なかった人。龍崎も、真由合も、仕事であり、仕えているという部分がどうしても付きまとうから。でも、それに含まれない純粋な美鈴は、特殊な環境に居た僕にとっては、眩しかった。
だから、この厄介な気持ちも気づいてしまった。まあ、この家のアホ息子も、熱い視線を送っていたけど。
ふと、あの時を思い出し、右の眉がぴくりと上がる。嫌な事まで想い出してしまった。
急に不機嫌になった僕に、律義に待っていた龍崎が、問うような視線を向けてくるけど、今は無視だ。このイライラを晴らしてしまいたい。
「次はあの部屋に行こうか」
奥の部屋をいえば、僅かな頷きと共に、龍崎も後に続く。気配からして、大物は多くはないし、僕でも十分対処できそうだ。勿論、油断はしなけれど。
・・・・・・・・・しかし、おかしいな? この家は、長く封鎖されていたはず。その割に、大物クラスがあまり居ない気がする。
「龍崎、何かおかしい・・・・・」
「雅様?」
龍崎の問いにも答えずに、僕は考え込む。この家は、間違いなく”蠱毒”と同じ状態になっていたはずだ。霊も予想通りで、数が多いが、初日に感じたような、危険をほとんど感じない。それは変だ、たった数日で、変わるわけがない。この後、霊脈を少し動かす事を考えれば、ここの除霊は、後の憂いなく、きっちり終わらせたいのだ。
・・・・・・・上に居ないなら、下か?
ざっと見たところ、霊は下の方が多いような気がする。溜まりやすい場所を隙間なく探すしかないだろう。
「・・・ん? 下?」
自分の考えに、ふと違和感を感じる。ここは、古い家である。それこそ、戦時中も乗り切った程の。その場合、どうする?
「地下だ! 龍崎、ここの家に地下室はない!?」
急に僕から問われた龍崎も、真剣に考え込んでいた。依頼人には、こういった話は聞いていないので、もしかしたら杞憂かもしれないけれど。調べてみる価値はあると思うんだ。
お読みいただきまして、ありがとうございます。
そして読了、お疲れさまでした。いかがでしたでしょうか?
とうとう始まった、お屋敷の除霊作業! なんだか、面倒になる雰囲気ですよね?
さあ、立ったフラグは全て回収できるのか!?
次回をまて!
・・・・・が、頑張りますね。




