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霊感探偵達の物語  作者: 秋月煉
前奏曲は怪異と共に
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明けましておめでとうございます。

皆様、今年も何卒よろしゅうお願い致しますね。


Said:竜前寺 雅



地下に広がる無数の髪の中を、美鈴へ向けて、ひたすら走る。真由合と龍崎の式神は大変優秀で、僕へ向かってくる髪の攻撃から、完全に僕を守ってくれてる。本当に、優秀な二人の護衛に感謝しないとね。

ーーーーーーーー二人に頼んだ、父上の考えは、僕には分からないけれど。僕がこうなったのは、間接的に父上の所為でもあるから。でも、護衛を付けたってことは、まだ、不出来な僕の事を、少しは思ってくれているのかな? ・・・・・いや、今考える必要はないね。

先程よりも、距離は縮まったけど、近づくにつれて、髪の量が増えてきていて、僕に触れそうなほど。優秀な式神が守ってくれてるけど、それもいつまで持つか。


「燃やしなさい!─────フェニックス!」


えっぇぇぇぇぇ!!? 僕がここに居るのに!? 早乙女さん、幾らなんでも、それは不味いんじゃないかな!?

でも、思わず走ったままそちらを見た僕は、その心配が杞憂だとすぐに分かった。真由合がもう一体、式を僕に付けてくれたから。綺麗な赤い鳥は、あの神々しい神の鳥の炎から、完璧に僕を守ってくれた。ちょっとヒヤヒヤしたのは、許してほしいな。

本当に、真由合は過保護だよ・・・・・嬉しいけどさ。今回はそれに、助けられたし。

と、仄かに光に照らされたこの空間の片隅で、いきなり視界が開けた。

いや、”ぽっかり空いた”空間に出た。二人が付けてくれた式神は、急に空いた空間でも、僕を守るために、傍に控えてくれてる。まるであの二人みたいに。ちょっと笑えた。

けど、突如目の前に現れたモノには、僕は情けないけど声を上げた。


「うわあ!?」


僕だって男だよ? 甲高い悲鳴は上げなかったんだから、そこは褒めてほしい。なんて、悠長に考えていられたのも、そこまでだった。

明らかに場にはそぐわないものである。だってそうだろう、何で大きなクマのぬいぐるみが急に出現するのさ。ここは、家の地下。霊の親玉もどきが居るはずの場所。

そんな場所に現れた、巨大なクマのぬいぐるみ。子供が抱えるにはかなり大きいそれは、今の今まで、誰にも気づかれなかった。直感が言っている。そんなのが、ここにただあるわけがない!! 先程より、これから感じてるのは、禍々しいまでの、負のオーラ。これとの戦いは、本能が厭うほどだ。そんなモノが何故今、ここで出てきたのか。

・・・・・もしかして、僕のコレに引かれた?

確信もないし、気付かれたら二人には怒られるだろう、そんな疑問。だからすぐに振り払った。当然だ、この疑問は、二人に対して失礼だと心で思ったから。

どうすればいいか問うために、真由合たちの方に視線をやれば、やる気満々の顔の彼が、獰猛な視線を可愛らしいクマのぬいぐるみに向けた。普段なら滑稽な姿に映るだろうが、今は違う。緊急事態だ。常なら心から笑ってやるけど、感じる負の力が大きすぎる。今の僕じゃ、戦いにすら、ならないくらいに。


「てめーの相手は俺だ、いい加減姿見せろや」


そんな言葉が聞こえる中、僕は美鈴に向かってまた、走り出す。間違いなく最強の術者が何とかしてくれると、確信しているから。なにより、龍ヶ崎さんが、こう言ってる感じがしたんだ。

ーーーーーーーーーここはいいから、お前はお前にしか出来ない事をやれ。

本当に、敵わないや。若手のエースとさえ言われている彼と、半端者の僕とじゃさ。

待ってて、美鈴。絶対に助けるから。

ちらりと見えた美鈴の姿は、結界により守られている。でも、それとて、長くは持たないだろう。その前に倒さなければならないのだが。


「もうそろそろ、いいかしら?」


艶やかに、けれども、背筋をゾッとさせるような、優しい音色の、冷たい声。先程聞いたのが嘘にさえ感じる、その声は。


「早乙女さん?」


「いいのか? もう少し、弱めた方がいいんじゃないか?」


「いいのよ、思ったより小物のようだし、餌にはちょうどだもの」


会話が離れた僕のそばまで、何故か聞こえた。いや、あの二人のそばにいる、側近たちが、動揺したんだろう。多分、真由合だと思う。だって、真由合の式神から聞こえたし。

そもそも、この化け物を前にして、平然と”餌”といえる人間が、どれだけいるのか。僕は勿論、無理だよ? 低級の霊を相手にするのが精一杯だからさ。この小さな体が恨めしいよ、本当に。


「若君? 聞こえてるわよね? 今から餌をこちらに吸収するから、何としてでも全力で姫を守って下さいな、・・・・・では行きますわよ?」


真由合の式神からの声に、僕は背筋が凍り付くと思った。この声が嫌でも、本気だと感じれる程に、真剣なものだったから。当然、動揺した二人の声も、ゴモゴモと聞こえたけど。と、同時に、空間が揺れた。文字通り、何か巨大な何かが現れるかのように。まるで、空間そのものが怖がっているかのように。

その衝撃で、美鈴が悪霊の手から滑り落ちる。


「美鈴っ!!」


近くても、まだ僕には届かない場所。そこに無我夢中で、自分の式神を全力で放った。一番、力が強くて、実体を取れるその式神は、綺麗な6本の尻尾を持つ狐である。今の僕が操れる、ぎりぎりの強さなのだ。その式神が走り、美鈴を間一髪で敵から奪い返した。


「良かった・・・」


ホッと息を吐いたのも、そのままに僕は異変に気付いた。先程まで執拗に襲ってきた髪が来ない。何より、空気が変わった? 先程までに禍々しい空気は消えて、清浄に近い空気が流れているような?

ーーーーーーーーズキンッ

辺りを見渡して、直ぐに分かった。早乙女さんが掲げるように持っている、何かが、この空間を支配していることに。そして何より、化け物クラスの悪霊を、吸収していることに。

ーーーーーーーーズキンッ


「いや、あれは・・・」


吸収なんて生易しいものではないかもしれない。喰らっている・・・・・多分、それが表現にはふさわしいと思う。先程、龍ヶ崎さんが引き受けてくれた、クマのぬいぐるみでさえ、一瞬にして吸収された。何の抵抗も出来ずに、そのまま一瞬で消え去る。

アハハ、笑うしかないや。こんなモノを、隠し玉、いや、切り札に出してくるんだから!!

そして同時に、自分の中の異変にも気づいた。


「あら、やっぱり物足りなかったかしら?」


その呟きが、この静かになった空間に、やけに響いた。これで足りないとか、一体何を使ったのか非常に気になったけど、先にもっとも気になるところへ向かう。


「美鈴ッ!」


胸の痛みには気付かないふりをして、彼女の元へ走る。気を失って、ぐったりしていたけど、特に外傷とかは見つからなかったから、思わずホッとする。少し遅れて、和葉さんが来てくれて、また御守りに力を入れてくれた。ここを出るまで、もう少し、気を付けなければいけないだろう。ここは、外れていても、霊脈の上なんだから。


「雅様!」


真由合と龍崎が駆けてくる。二人にも心配させてしまった。でも、何よりも。


「二人とも、ごめん、休む・・・」


僕が限界だった。強い式神召喚でただでさえ霊力を使ったところに、コレの反動が来ていたから。

ーーーーーーーカチリ

小さな小さな、カギを開けるような、そんな音が聞こえた気がしたけど、僕はそのまま意識を手放した。


◇◇◇◇◇


Side:椎名 和葉


私は、入り口の近くで待機する羽目になりました。近くには日暮さんが居ます。彼の場合は、私の護衛と、外との連絡係りと言ったところでしょうか。上には柊さんが、このあたり一帯を覆う、大きな結界を張っています。


「はい、柊さん、了解です」


ちょうど今、何かを聞いたようです。その顔が、困ったようになっていたのが、逆に気になりました。


「和葉さん、困った事になりました、上のお屋敷、まるで蠱毒のようになってるって・・・・・終わり次第、あちらも討伐ですね」


上のお屋敷って、新築の方の? 今、原因を取り除いているのに? おかしいです、だってここが原因ではないの? では、コレは何? まるで、小さなきっかけが積み重なって大きな原因になっているような・・・・・。そこまで考えて、ゾクッとなります。

途方もない、長い時間によって、この原因が起きたのだとしたら? すべては小さなきっかけが、偶然、重なったものだとしたら?

・・・・・いえ、もしかしたら、綿密に計算されたものだったとしたら?


「和葉さん?」


心配そうに此方を気遣う彼に、無理やり笑顔を見せます。今は仮定の話を考えている場合ではありませんから。


「大丈夫です、大分回復しましたし、早乙女先輩をそろそろ止めないと」


あの方、たまに抜けてるんですよね。大雑把というか、豪快というか。昔から変わらない、大切な先輩ですけれど。


「あ、どうやら早乙女先輩が切り札を使ったようです、後は大丈夫ですよ」


その言葉に、私はすぐに駆けだします。美鈴ちゃんが心配でしたし、何よりも、気になる事があったので。

駆け付けたそこには、青白い顔で横たわる美鈴ちゃんが居て、泣きそうになりましたが、急いでブレスレットに力を込めていきます。帰りにもこれは必要ですから。

でも、それを見届けた後すぐに、今度は雅くんが倒れてしまいました。

雅くんの事情は大まかには聞いて知っています。だから、気になっていました。私達、視る側の人間は、まれにその人が抱えている物まで視る事があります。

小さな彼が抱えている物を、私も視ています。だから、気になっていました。日に日に、少しずつ解けるそれは、恐らく二人がしているんでしょう。でも、解けない物があるのです。

私はすでに試した後ですから、後は待つしかないのでしょうが。

願ってしまうのです、彼が心から笑えるように、と───────。

いつもお読み頂きまして、ありがとうございます。

そして、読了お疲れ様でした。

何とか、今年一発目が間に合いました(笑)

思い返せば、この作品。短編連載予定でした。

しかし、盛り込み過ぎて、中編の連載小説へとなりました。

ここまで書けましたのも、読んで下さる皆様がいるからです。

でも、新年一発目がホラーで、すいません。

次回も宜しくお願いしますm(_ _)m

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