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次回は誠意執筆中です。
Side:椎名 和葉
重い沈黙が降りた室内は、静寂が満ちています。
でも私は、口を開くしかありません。この場で、場所を言えるのは、私だけなんですから……………。
「依頼のあった家の、地下から、気配がします……………」
そう言いましたが、明らかに異常事態でしょう。
あの家には、地下室なんて無いのですから。
「どういうことよ? あの家には、地下室なんて無いわよ?」
戸惑いが混じった真由合さんは、問うように私を見ますが、私には残念ながら、答えはありませんでした。
「そういえば………確か、別邸のすぐ後ろに、洞窟がありましたね」
龍崎さんの冷静な声に、ハッとしたように雅くんと、そして龍ヶ崎先輩が顔をあげます。二人の目は、何かに気付いたように、力強いものでした。最初に口を開いたのは、雅くんです。
「あの家にも、地下があるのかも…………」
呟くような声でしたが、この場の全員に聞こえています。
「例えば、―――――そう、洞窟のような、ポッカリ空いた空間とかな?」
ニヤリと笑みを浮かべた龍ケ崎先輩に、何だか嫌な予感がしました。先輩がこの笑みを浮かべた時は、お怒りの時なんですから!
「……………もしかして、なんだけど、ここって地下にまで、結界を張ってないわよね?」
早乙女先輩に静かに問われ、私はサァーっと、血の気が引くのが分かりました。確かに私は、地下に向けては張っていません。まさか………………!
「悪霊が、地上に居ないのは、地下に居たから、そして何より、あの家だったのも地下があったからだろ」
龍ケ崎先輩の後に続くように、雅くんが答えます。
「―――――そして、前の、いや、元々居た神官一族も、上だけ浄化して、地下は気付いて居なかったんでしょう、後ろの穴、比較的新しいようだから」
いつの間に、そんなに詳しく後ろの穴を調べたんでしょう? 私、こういうの専門分野なのに………………。残念ですが、時間がないですし、調べに行くのは無理だったので、私は見れていません。不覚です!
と、険しい顔の柊先輩が口を開きました。
「そうなると、かなりの大物が潜んでいそうですね、それなりに準備をしなければ、我々自身が危険に曝されます」
それはそうですが、これは予想外過ぎる事態です。まさか、いつものお祓いと思っていたら、いざ蓋を開けたら、とんでもない大物が居るなんて。
「でも…………気付かないものでしょうか? あそこには井戸がありましたよね? 地下を掘った以上、空間があった事は把握出来たはずですが……………」
私の問いに、既に答えを見つけた様子のお二人は、特に反応を示す事はありませんでした。口を開いたのは、雅くんです。焦りはあるようですが、此方が怖く思う程に冷静沈着です。………………どちらが年下か、分からなくなります。
「だから、使わなかったし、使えなかったんだよ、掘るのも止めて、封じていたんじゃないかな? 半分埋め戻したのも、地下を恐れていたのかも……………何かが居ると気付いていたから―――――」
でも、降りても、どうやって美鈴ちゃんが居る場所へ行けばいいのでしょう? 多少の無茶は、私がすればいいとして、怪物とも言える、かなり危険な存在を、このままには出来ませんし。
「なら、尚更急がないと!」
雅くんの言葉に、珍しく、真由合さんが声を荒げます。彼女も、美鈴ちゃんを大切にしていますからね。妹が出来たみたいだと、こっそりこぼしていました。
「助ける方法は、あるんですか?」
これがハッキリしなければ、行きたくても行けないのです。
「ある、あるんだが…………、和葉には無茶をさせるぞ?」
龍ケ崎先輩が、珍しく心配そうに此方を見ます。多少どころか、必要な無茶なら、いくらでも致します。人の、それも私の大切な仲間の命が、危険に曝されているのです。無理だろうが、無茶だろうが、全力でやってやりましょう。
「構いません、私でお役に立てるなら、全力でさせて頂きます!」
キッパリと言った私に、ぽんっと柊さんから肩を叩かれました。そして穏やかな声がかかります。
「肩に力が入り過ぎですよ? 意気込むのも分かりますが、龍ケ崎さんは中々に無茶を言いますからね、深呼吸でもして落ち着きましょう」
確認するように、ニッコリ微笑みを浮かべられて、ようやく私は、肩に力が入っていた事に気付きました。
………………焦ってもどうにもならないのは、あの日、経験したはずです。もう、あんな思いはしないと、誓って。なのに、忘れていたなんて……………。
言われた通り、深く深呼吸を数度すれば、高ぶっていた気持ちが落ち着いてきます。
私がしっかりしないで、どうします!
「もう、大丈夫ですね?」
「はい」
私の様子に、龍ケ崎先輩も何処かホッとしたように見れました。
「んじゃ、作戦を言う…………全力で行くぞ!」
さぁ、美鈴ちゃん、今行きますから、待って居て下さいね。大丈夫、絶対に助け出しますから!
◇◇◇◇◇
Side:榊原 真由合
何度も何度も、苛々しながら、あたしは爪で机を叩く。わかってるわ、理由なんて。
あの子には、守る存在が必要だった事くらい、知っていたはずなのに!
今もそう。あたしも、龍崎も、龍ケ崎さんも、雅様も……………、待機する事しか出来ないの。
今回、必要な事は、和葉が一番、負担が多いの。あたしだって、手伝いたいけど、和葉には日暮くんが付いてサポートしてるわ。彼は精霊使い…………サポート役には適任なのだもの。
柊さんは、この辺りの結界を張ってるわ。広範囲なのに、受け持ってくれた辺り、彼も落ち着かないのかもね。今回参加しなかった、アイツと似ているから、どうにも調子が狂うのよね。
早乙女さんは、何か考え事をした後、すぐに戻ると言って、部屋を出ているわ。彼女、魔女だし、何か考えがあるのも分かるし、何より龍ケ崎さんが何かを指示していたから、必要な事なんでしょう。
でもね?
「いつまで、こうしてる訳?」
いい加減、忍耐がキレそうよ? こうしている間にも、美鈴の命が危ないっていうのに!
「落ち着いて、真由合…………って言っても、無理だよね?」
苦笑付きで雅さまに、そう言われても、やっぱり苛々は収まらない。それどころか、落ち着いていられる事が不思議にすら思うわ!
「当然ですわ! 美鈴の命が危ないんですのよ? 雅さまこそ、何故落ち着いて居られるのですか!」
思わず、声高に叫ぶような話し方になってしまったけど、仕方ないじゃない! 心配で心配で不安なんだもの。
「いや、まぁ、正直言うとね? 美鈴には和葉さんの御守りがあるし、それに美鈴は“あの家系”だからね」
どこか遠くを見るような、影を感じるその姿に、違和感を感じる。
「雅さま? どういう…………?」
美鈴が特別な一族の家系だって事は、私も知ってるわ。でも、だからこそ、分からないのよ。命の危機がある場所に居る美鈴を、準備が整うを待っているとはいえ、焦りがない、その訳が!
「神戸家は比較的、新しい分家なのは真由合も知ってるでしょ? 本家は神楽院家、彼の家の特殊性は術者ならば知ってるはずだよ?」
分かってるわ、分かっているけど、それでも、心配するわよ!
「あの一族の血を引く以上、手を出される事はないよ、――――――しばらくはね」
最後の小さく呟くような声で、なんとなく分かってしまう。雅さまだって、行きたいのを我慢して、平静を保っているんだと。
だって、雅さまの握り締めた右手が、力の入り過ぎで、うっすら赤くなっているんだもの。このままいったら、手を怪我してしまうわ。
そんな私達を視界の端の入れながら、口を開いた龍ケ崎さん。この方、苦手なのよね。
「安心しろ、そろそろ終わるはずだ、準備しておけよ? 降りたら、何が起きるか分からないんだからな」
皮肉としか言えないわ。それぐらい、こっちだって分かってるわよ!
「ご安心下さいな、御札も数珠も最高の物を用意してますから」
苛々しながら答えたから、高飛車になったけど、それすら龍ケ崎さんはお見通しだったみたいね。
「苛々してるが、集中はしてくれよ? あんたは、化け物と戦う側なんだからな?」
人間、怒りが過ぎると、逆に冷静になるのね。――――――目が座っているのは、仕方ないのよ。
「分かってますわ」
この鬱憤は全て、化け物に八つ当たりしてやるわっ!
此方の圧力に、龍ケ崎さんが微妙に引いたようだけど、熱意が伝わったならいいわ。
フフフ、今に見てなさい! 全力で相手をしてやるんだから!!
ようやく、ようやく、ここまで来ました。
いつもお読み頂きまして、本当にありがとうございます。
最終回まで、もう少し! 頑張りますね☆
さて、推理をして下さった皆様は、答えがあっていたでしょうか???
こそっと教えて下さいませ☆
では、次回も宜しくお願いしますm(__)m




