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次回は誠意執筆中です
Side:榊原 真由合
雅様と龍崎と一緒に、美鈴を探す為に、あ、もう一人、依頼人の息子さん、確か、そう。颯太だったかしら? 二人を探して、霊脈上にある洞窟内に居る訳なんだけど………………。
「どこまで行ったのよ! あの二人っ!」
かれこれ20分も歩いた…………いえ、違うわね。岩場に悪戦苦闘しながら進んだ、の間違いだわ! 普通は見えてくるはずなのに、何で一本道で、しかも明らかに私達の方が進むのが早いのに!
見 つ か ら な い の よ ! ?
「真由合、もうすぐだと思うよ? 恐らく、美鈴は一時間以上は前に歩き始めたはずだし、こんなに早くは見つからないって」
そう、淡々と話す雅様だけど、気付いてるのかしら? 雅様、この洞窟に入ってから、目が据わってるの。もしかして、無自覚でやってるとか無いわよね…………? 普段から、精神的な面で、あまり動じない冷静な雅様。そう言えば、いつからだったかしら? 雅様が感情の起伏を、はっきりと見せるようになったのは………………。
「美鈴と………」
出会ってからだわ。ほんの数ヶ月前に出会って、それからだわ。初めての仕事終わりに、美鈴と何か話した時。あの後から、美鈴との仕事を楽しみにするようになったのは。今までは、別の事情があったからで、でも今はそれだけではなくって。
―――――――良い出会いだったのかもね、雅様にとって。
我々大人の所為で、雅様は色々と失った。……………でさえも。
「……ば、真由合ってば!」
雅様の呼び声に、ハッとして其方を向けば、真っ直ぐな瞳と視線がぶつかる。
「ボーッとして、大丈夫? まだ距離があるし、休もうか?」
嫌だわ、主人に気遣われるなんて。考え事なんて、今は必要無いのに。
「いいえ、大丈夫ですわ…………それにしても、長い洞窟ですわね、どこまで通じているのかしら?」
洞窟内の高さは、低くても大人一人が楽々通れる程だし、幅も広いまま。時折、狭くはなるものの、岩場があるため、近くを流れる川に濡れる心配もない。
「恐らく、まだ続くよ…………川の幅が広いし、あまり広さが変わらない、終わりが近付けば幅も狭くなるはずだよ」
これも、霊脈の影響かしら? それにしては、何か違和感があるけれど。
モヤモヤしてるけど、理由が分からないのよね? 何かしら、こう、上手く言えないのだけど、霊脈ってこうじゃない………と言うか、そう、自然過ぎる?
「龍崎、ここの霊脈って、何か変じゃない?」
一番早く気付いた龍崎に問う。気配というか、細かい作業が得意な龍崎。絶対に何か気付いたはずよ。
「確かに不自然な部分はある、だが一番分からないのは、綺麗過ぎる事だ」
…………………は?
「綺麗過ぎる…………? 確かに、霊脈には、霊が居たりするけど、そんなには……………え?」
そう、この20分で一度も遭遇しない時点で、おかしいのよ! 霊脈の近くなら、それも真上なら、居ない方がおかしいわ。
「じゃあ、霊は一体何処に…………まさか!」
私の考えている事が正しいなら、あの家、冗談では済まないわよ!?
「十中八九、それも原因に入ってると思うよ」
雅様、さらっと言わないで下さい。かなりどころか、本当に不味い状況よ!? 和葉一人で大丈夫なのかしら……………?
「そろそろ、美鈴が見えてもいいはずなんだけど……………」
雅様が、ポツリと呟く。そう言えば、歩いて30分くらいよね? 足元が覚束ない美鈴が歩くのと、視界良好な私達じゃ、そろそろ追い付きそうなものだけど。
「ん? 今、何か声がしなかった? もしかしたら、追い付いたかも!」
そういうなり、雅様は、大声で美鈴を呼び始める。先程までの大人びた姿は、そこには無い。本当に、美鈴が大切なのね。
「美鈴――――――! 聞こえたら返事して―――――――!」
何度か谺を聞きつつ、耳を澄ます。先を見るけど、まだ姿は見えないから、もう少し先なのかもね。
「あら? 何だか水の音が大きくなってない?」
進む毎に、響く水の音が大きくなっている気がするの。おかしいわね、そんなに変わらないはずだし、上流に行けば、普通は水の量が減るはずだもの。
「あ、あれ、滝じゃないかな」
雅様、妙に淡々と言うのは分かりますが、目が据わっているので、微妙に怖いのよ。
ただ、先に滝が見えて、ようやくゴールだと分かったのは、嬉しいわね。だって、その滝は、かなりの高さがあって、登れないもの。そして、そこには探していた二人が居た訳なんだけど……………。
「美鈴っ!」
雅様の声に、此方に視線を寄越すけど、余裕はないはずよね。一般人の颯太とか言う馬鹿息子を、“後ろに庇って”いるんだから! というより、あの馬鹿息子、意識あるのかしら?
「全く、あたし達はピンチを助けてくれる勇者じゃないのよ?」
そうは言っても、私達だって、迂闊には動けないわ。
だって、美鈴の前に居るのは―――――――。
「あの人もよく“当たり”を引きますね………」
龍崎、あんたねぇ…………。まあ、軽口叩いていても、式神やら、お札やらを用意してるんだから、倒す気満々よね。
そういってる私も、お札と式神を準備してるんだもの。大概よね。
「さてと、とんでもない大物を釣り上げちゃった美鈴を、勇者よろしく、お助けしましょ?」
スッと目を細めた私に、近くに居た二人がビクッとなったけど、些細な事よね。
◇◇◇◇◇
かなり歩いた頃、辺りの音が変わった事に気付きました。何かヒヤリとした冷たい空気も感じられます。
「この灯りだと、流石に見えませんし……………」
仕方なく、眼鏡を外します。手元や足元を照らす程度の灯りしかありません。当然、周りは見えない訳です。眼鏡を外して、辺りを見渡せば、入り口付近で見た淡い青白い光が、岩場を照らしています。暗闇から、いきなり光の世界に変わった為に、眩しくて目を細めます。
「え? 滝!? ……………だからヒヤリとしたんですね」
肌寒いと感じる訳です。滝は高くて、とても登れませんから。つまりはゴールな、訳なのですが………………。
「え!? 美鈴ちゃん!?」
かなり離れたところに、居ました。探し人が……………。何でこんな奥深くに居るんですか! 歩いて一時間はかかりましたよ!? 何で見えないはずの颯太さんが、こんな奥深くにいるんですか!!!
「颯太さん、無事で良かったです、さあ、ここから早く出ましょう!」
時間的にそろそろ、本当に不味いはずです。そう、例えば…………。
……………う……め…し…………
この世の恨み辛みを、全て混ぜたかのような……………こんな不気味な声が、聞こえて来たりする程度には………………です。
「あれ? 美鈴ちゃん、何か言った?」
キョトンとして、首をかしげてる、颯太さんの、その後ろ。気付いて居ないから、颯太さんは私を見ています。
「私ではありませんよ…………」
顔が思いっきり引きつります。彼の後ろに立っている、“それ”は、颯太さんに触れようとして、和葉さん特製の御守りブレスレットに、バチッとした音と共に弾かれています。悪意ある存在の証拠です。
「颯太さん、私の後ろに来て下さい、緊急事態ですから」
私の声も、自ずと険しくなっていきます。本当に緊急事態なんです!
「え…………? 美鈴ちゃん?」
颯太さんは、突然の事態に、付いて来れないようですが、私の方は冷や汗が止まりません。それだけ、目の前に迫る“ソレ”は、大物であり、死の気配が濃いモノです。人型の黒い影に、ポッカリ空いた紅い空洞。そこからは、絶え間なく滴る……………どす黒い血。
まさか、数百年にあるかないかの、大物を引き当ててしまうなんて……………。私、どれだけ運が無いんでしょう?
目を凝らすと、黒い影の周りに歪みすら見えます。
未だに颯太さんを諦められないらしく、それは不毛な攻防を繰り返しています。和葉さん特製ブレスレットは、かなりの、かーなーりーの強度です。だからこそ、執拗な攻撃にも耐えていますが、これが続けば長くは保たないでしょう…………………。
「早くっ!」
思わず出た言葉に、颯太さんは怪訝そうではありますが、素直に私の後ろに来てくれました。ただ…………、私の後ろから、見えちゃったようで。
「美鈴ちゃん、一体…………うわっ!? 何だソレ!?」
………………耳後ろで叫ばないで欲しいです。響くんですよ、ここ。
「私の出来る退魔法では、時間稼ぎしか出来ません、絶対に私から離れないで下さいね…………ッ!」
化け物と化したソレが、近付こうとするのを、ブレスレットを使い威嚇します。今、私の御守りブレスレットは、火の神の加護を受けています。僅かと言えど、聖なる物は悪霊には近寄りたくないものです。これで少しは、時間稼ぎが出来る、そう思った瞬間。
………………じゃまをするなぁぁぁぁぁ―――――――!!!
凄まじい力に、怨念を多分に含んだ風が、私達に襲いかかります。黒い怨念は、ブレスレットが防いでくれましたが、残念ながら物理的な衝撃派は防げませんでした。
「キャッ!!」「うわっ!?」
私の悲鳴と共に、二人揃って吹き飛ばされます。恐らく、人一人分くらいは飛んだはずです。
「……うっ、くぅ〜〜〜」
全身を襲う痛みに、思わず呻き声がでます。私が落ちたのは、水際の比較的小さな砂利の上ではありましたが、右腕に鋭い痛みが走ります。ちょうど下に、大きな岩があったようで、ぶつけたようです。
「っぁ…………、あ、颯太さん、無事ですか……………!?」
すぐ後ろに、颯太さんが、倒れていました。ざっと見た感じ、出血はしてないようですが、意識が無いようです。
足だけで何とか立ち上がり、ブレスレットで威嚇しつつ、颯太さんを庇う位置に立ちます。
「私は戦うの、苦手なんですよ…………?」
痛む腕を庇いつつ、背中からは冷や汗が出ます。このままだと、じり貧です。二人揃って、死を覚悟しなくてはいけなくなります。
相手は余裕があると分かっているからか、ジリジリと動いて来ます。そのまま睨み合いを続けたまま、しばらく経ったころ……………。
「美鈴っ!」
今、一番聞きたかった声が、辺りに響きました………………。
いつもお読み頂きまして、ありがとうございます♪
今回、少しだけですが、進みました。
皆様はどんな推理をなさっているのでしょう? 今から楽しみです。
では、次回にお会いしましょう。