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次回は、もう少しお待ち下さいませ。
Side:美鈴
目の前の光景、――――――それは息を呑む程の絶景だったのです。
青白く光輝く天井、その輝きはまるで、目の前に天ノ川があるかのように、小さな青白い光が幾つも集い、辺りを幻想的なまでに、美しく染め上げているのです。天井の壁、下の岩に至るまで、小さな蛍火のように漂う様は、自分が天ノ川の中に居るような、錯覚さえ覚えます。
「何て、凄い…………もしかして、ここ………」
―――――――霊脈の上?
最後まで呟く声すら、上げてはいけないような、そんな世界。私は、とんでもないところに、迷い込んだのでしょうか?
「確かに明るいけど…………颯太さん、一体どこまで進んだの?」
視る力が無ければ、光が無い、全くの暗闇の場所。そんな中で、颯太さんは、一体どこまで進んだのでしょうか?
目が光に自然と吸い込まれていきます。このままでは、危険でしょう。私は今、戦いが出来ないのです。すぐに眼鏡を着けます。先程とは違い、急な暗闇に、目が違和感を訴えますが、我慢です。霊脈を長時間、私の様な体質を持つ人間が視て、無事で済むとは思えませんから。
「まだ、かなり先がありますけど………………」
何だか、妙な感じがするのです。正しく流れている霊脈ならば、こんな感じはしないはず。もしかして、無理矢理流れているとか……………?
細い霊脈とはいえ、かなり強い力が流れます。しかし、力が無理矢理流れた時に感じる、軋みとかそういう物は感じませんし。
「何かの影響を受けているのかも」
影響、それも細いとはいえ、霊脈にです。それに影響を与えるような、そんな何かって何でしょう?
……………可能性として考えられるのは、幾つかあります。
まずは、霊脈の流れを強引に変えたが故の影響です。ダムを作ったり、川の流れを変えたり、ビルを建てたり…………こういった行為で、稀に変わる事がありますが、残念ながらここの条件には、当てはまらないのです。ダムも、ビルも無いですし、川の流れも細い物で、霊脈まで変える程の力は、どう見てもありません。
次に考えられるのは、無理矢理、誰かが霊脈をねじ曲げた可能性です。これなら、歪みは勿論出ますし、数年単位で辺りに影響が出ます。
「う〜ん、何だかパズルのピースはあるのに、上手く繋げて無いような……………」
頭が上手く働きません。やはり、冷静さが欠けているようです。
「とにかく、颯太さんを探さないと」
先程の目の違和感も、落ち着いたようです。とにかく、先に進みましょう。
「よしっ! 大丈夫、何とかなる!」
気合いでも入れないと、怖くて進めそうにありませんからね。
「颯太さ〜〜〜ん、私の声、聞こえてますか〜〜〜〜!」
お腹から声を出して、本日、何度目かになる呼び掛けをします。ブレスレットの仄かな灯りを頼りに、また不安定な足場を進みます。
『――――――…………』
今、何か聞こえた気がします。ただ、辺りに響く水の音で、その音は僅かにしか聞こえませんでした。前からなのか、後ろからなのかも、定かではありませんし。
「一本道ですし、間違えるはずは無いですし………………」
もしかして、後ろから雅君達が来たのかもしれません。あちらは灯りがありますから、私より早く進むでしょう。私のように、視る力を押さえる必要の無い皆さんですし。
「とにかく、颯太さんを早く見つけて帰らないと」
彼だけは一般人なのです。間違いなく、何かあっても対処出来ないでしょう。私も似たり寄ったりですが。
「それにしても、どこまで続いているのかしら?」
私の呟きは、近くを流れる水音に、吸い込まれて行きました。
◇◇◇◇◇
Side:竜前寺 雅
美鈴のハンカチが見つかったのは、別宅の裏を少し進んだ場所。別宅から目と鼻の先だ。かなりの深さのある大きな穴で、幅は直径2メートル以上はあると思う。
まず落ちたら、自分だけでは上がれない高さだ。打ち所が悪ければ、かなり危ないだろう。
「雅様、縄梯子です」
龍崎、遅れて来たのは、それを取りに行ってたんだね? 用意周到なんだから、まったく。
「あそこにあるのが、例のハンカチね……………確かに美鈴のだわ、微かにだけど美鈴の気配があるもの」
美鈴のハンカチには、キチンと名前が刺繍されているんだ。お母様が手先の器用な方で、ペンだと洗濯をすると滲んでしまうからと、刺繍を入れてくれたのだと、嬉しそうに教えてくれた。
「先に私が降りますので、雅様は後からお願いします」
龍崎は過保護だ。この高さ、縄梯子まであるのに、怪我をするわけないだろう?
「油断は禁物ですわ、雅様…………あら、懐中電灯が必要かしら?」
穴を良く見れば、横穴が一つ開いているみたい。恐らく、美鈴はこの先だろうね。そして、依頼人のバカ息子も! あいつが居ながら、何でよりによって美鈴を連れて行ったんだ! 体質的に美鈴は、霊を寄せやすい。本人は無自覚だが、間違いないと思ってる。神戸家の大奥様………美鈴のお祖母様は何を考えているんだか。
「とにかく降りてみましょう、早くしないと日が暮れてしまうわ、危険な時間よ」
黄昏時、それは闇のモノ達の時間だ。それがもうすぐ迫っている。確かに時間がない。
「真由合、龍崎、さっさと迷子を見つけるぞ」
人生で一番低い声が出たと思う。まったく、あのバカ二人には、戻ったらたっぷりと説教をしなければ。
そう考えつつも、てきぱきと準備は終わり、龍崎、僕、真由合の順番で降りる。下は思ったより、柔らかい土のようで、落ちても大した怪我にはならないだろう。
「龍崎、お願い」
ハンカチを式にして、美鈴を追わないと。こういう作業は、繊細な術を使う龍崎が得意だ。
「分かりました、雅様…………ん?」
「あら、どうしたの? さっさと式にしてちょうだい」
真由合が不機嫌そうに、龍崎に言うけれど、龍崎は眉間にシワを作って、考え込んでしまった。時間が無いって、分かってるはずなのに、どうしたんだ?
「雅様、この先に美鈴さんは居るようですが、妙な気配を感じます、式にするのは、中でやった方がいいかと」
辺りの気配を探るけど、確かに妙な気配がする。言われなければ気付かないような、本当に微力なもの。真由合も辺りを確認してたけど、怪訝そうな表情だけだった。そうだよね、繊細さよりも豪快さを会得した真由合には、厳しいよね?
「雅様? 何か失礼な事を考えませんでした?」
あれ? 気付かれた!??
「イイエ、ベツニ………」
思わず出た不定の言葉は、妙に淡々とした片言みたいな物だった。女性の勘は怖いかもしれない。
「とにかく入ってみましょう、懐中電灯は持ちましたね? 私が先頭に立ちますから、雅様は後ろに着いて来て下さい、真由合さんは最後尾をお願いします」
こうして有耶無耶にして入った先は、流石に驚くしかなかった。
「これって…………!」
「まぁ…………」
「っ…………」
上から、僕、真由合、龍崎だ。まさか、が三人の共通した内心だと思う。流石に、これは僕等だって驚くよ?
「自宅の下に、霊脈が流れているとか…………」
本当に、厄介事が次から次へと…………!!
沸々と沸き上がる、この憤りは取り敢えず、後で二人の説教に回すとして。
「これなら、懐中電灯はいらないよ、さっさと行こう、あのバカ二人を捕獲しないと」
思いの外、低い声が出た所為か、二人が驚いたようだけど、そんな二人を気にする事もなく。今はただ探す為に、光の洪水とも呼べる道無き道へ視線を向け、目を凝らす。
「行くよ、二人とも」
歩き始めた僕に、二人が慌てた様子で付いてくる。普段は冷静な龍崎が、慌てているのを見て、ちょっとスッとしたかな。
結局、式を作らないまま、僕等は岩場とも言える道とも呼べない道を進んで行く。
「美鈴〜〜〜〜〜〜〜! 聞えたら〜〜〜〜〜〜、返事して〜〜〜〜〜〜!」
洞窟内は、かなり響く。しばらく耳を傾けたけど、返事は来ない。恐らくかなり先を進んでいるんだと思う。
「とにかく、進んでみよう、僕等は視界が明るいけど、恐らく美鈴は視界が悪いはず、だから早く見つかるはずだよ、見たところ一本道だからね」
こんなに濃厚な霊脈の上を、美鈴が長時間いて、無事とは言いにくいのが実情だ。更に、もう一人……………、普通の人のはずなのに、ここに居ない人物。依頼人の息子だ。一般人は、視えないはずだ、この光は。
「もしかして僕達は、とんでもない勘違いをしていたのかも」
「勘違い、ですか………? 確かに、霊脈があるなんて聞いてませんでしたし、あの細い川の件もそうなのよねぇ〜、まるで“バラバラな事”なのに、何故か一本になってるし……………どうなってるのかしら?」
真由合、後半が愚痴になってるよ?
「明日の情報部からの連絡で、かなり解けると思うよ? 浄化も人手が来るそうだし…………とにかく、今はあのバカ二人を連れ戻そう………………特に美鈴は、長時間ここに居たらマズいから」
話ながら岩場を進む。僕と真由合は、午前中から山へ行ってたからか、疲れてたけど、動きやすい服装だから楽に進める。けどさ? 龍崎は何でこんなにスイスイと進むのさ? スニーカーだけど、スーツだよね、龍崎は。
……………何か納得いかない。
お読み頂きまして、ありがとうございます! 今回はいかがでしたか?
少しずつ、謎が解かれて来ました。さあ、もうすぐ大きなヒントが出ます。謎が解けた方、秋月と答えあわせといきましょう! ホラー要素とミステリーのコラボ、楽しんで頂けたら幸いです♪
では、またお会いしましょう!




