1
お読み頂きありがとうございます。では皆様、一時の時間をお楽しみ下さいませ。
水、それは清らかなままに大地を流れ、世界を清め流すモノ。
………………けれど、水が淀んだら、それは、一気に穢れとなって、大地を汚していく。
―――――――故に古来から、水は大切に扱われてきたのである。
◇◇◇◇◇
その日、事務所には、大まかなメンバーが揃っていました。これから、依頼先に向かう前の、ミーティングをするのです。
「今回参加は、雅くん、龍崎くん、榊原さん、美鈴ちゃん、和葉ちゃんね」
そうこの場を仕切っているのは、爆発したような独特な髪型の、どこか憎めない顔立ちの叔父さんです。よれよれのスーツが、何だか哀愁を漂わせています。名前は、田原 正敏さんと言い、この事務所の所長さんなんです、一応。
「あら? 他の皆は?」
艶やかな声で、堂々と問うたのは、茶髪のストレート髪の、ややキツい目元を持つ美人さんです。口元の黒子が艶っぽい感じを出しています。本日のお召し物は、ブランド物のベージュのスーツに、赤いブラウス、胸元には一粒ダイヤがキラキラ輝いています。何とも隙の無い装いです。名前を、榊原 真由合さんと言います。
「えっと、白木くんは実家の法事の手伝いね、カルロくんは教会のミサ、清流院くんは実家で結婚式があって手伝い、だから皆お休みだって」
軽い口調で田原所長が言うと、やれやれと肩を竦ませます。皆が自由に動くのが、この事務所の特徴でもあるのです。
「今日の依頼は、どちらからですか?」
質問したのは、黒い髪を緩く巻いた、ふわふわした感じの女性、椎名和葉さんです。本日のお召し物は、ふんわりした感じの白の服に、膝下のロングスカート。靴も丸みを帯びた、可愛いものです。
「今回は、とある山中の古民家カフェの家族からだよ」
要約すると、住んでいる家に夜な夜な、おかしな現象が起きているらしく、原因究明と解決を求める物らしいです。
「わたしもって事は、緊急依頼なんですね?」
そう聞いたのは、私です。長い髪を左右にゆったりと編んで流していて、文学少女を思わせる、眼鏡をかけた女の子です。着ているのは、シンプルな青色のワンピースに、水色のカーディガン。名前を神戸美鈴と申します。歳は、この中では二番目に若い高校生。そして、お恥ずかしながら、この物語の主人公でもあります。
「うん、人手が不安だったから、美鈴ちゃんが来てくれて助かったよ、雅くんも来てくれたしね」
所長がチラリと視線を向けたのは、この事務所には若過ぎるメンバー、竜前寺 雅くんです。歳は8歳位ですが、既に海外大学も出た優秀な人物です。無言で、殺気込みで睨まれて、所長は直ぐに、話題を変えました。現金なものです。
「という訳で、準備は事前にお願いした通りね、それでは皆、頼んだよ〜」
まさかその依頼が、とんでもない騒動に発展するとは、この時、誰も予想すらしていなかったのです。
◇◇◇◇◇
「ここが依頼の場所ですか、素敵な場所ですね」
私が車を降りて、目の前に広がった光景に、思わず感嘆しました。目の前には、雄大な森の光景が、一面に広がっているのですだから。
ここは、都心から車で一時間程の山中にある、古民家カフェです。残念ながら、本日は平日の為か、お客様が止める駐車場は、がら空き状態ですが。
「こっちがカフェで、向こうの立派な建物が住宅かしら?」
真由合さんが、指差した方には、確かに二ヶ所、建物が建っていました。私達から見て、右手にカフェ、少し離れた左手に、大きな一軒家が、カフェからは見えないように工夫されて建っています。
「美鈴、何か見える?」
警戒した様子で、車から降りた雅くんに、私は真面目な顔で眼鏡を取ります。そして、裸眼で辺りを見て、すぐに困惑してしまいます。私は、目で視る力が、このメンバーの中で一番強いのです。故に普段から、だて眼鏡を着けて、力を押さえています。ガラスを通すと、あまり視えなくなるので。
「雅くん、あの家、何だか変です………………上手く言えませんけど」
その言葉に、大人三人が険しい表情になるのは仕方ない事でしょう。私は、この中の誰より、ハッキリと場を視るのですから。
「御守り、用意してきて正解でしたね」
そう、ふんわり空気を持つ和葉さんの言葉に、皆を流れる空気が緩んでいきます。と、今まで沈黙していた龍崎さんが、雅くんに視線を向けます。
「雅様、万が一と言う事もあります、御守りは必ず着けて下さいませ」
龍崎さんは、雅の護衛です。故に、どうしても雅くんの身を優先するのです。因みに、真由合さんも雅くんの護衛です。これには事情があるそうですが、割愛しますね。
「分かってる、美鈴、君も………美鈴?」
雅くんの言葉に、私は反応出来ませんでした。左手に見えるお屋敷に、釘付けになっていたのです。
「美鈴、美鈴ってば!」
雅くんに手を握られて、ようやく我に返りました。今、視えた物に対して、警戒の意味を込めて、睨み付けます。
「ありがとう、雅くん―――――あそこには近付かない方がいいみたいです、あれは手強い」
実際問題、彼等も私程で無いにしろ視えるので、近付きたいとは思わないみたいですが、念のために。
「皆〜、依頼人さんが来たよ〜!」
和葉さんの声で、其方を見れば、三人の人物が居ました。40代位の男性と、同じ位の女性、そして私と歳の近い少年です。彼の方が、少し上でしょうか。
「この度は、内の依頼を受けて頂けたようで、改めまして、依頼人の水島と申します」
恐縮するように、男性がペコペコと頭を下げます。隣の女性も、顔色があまり良く無いですが、同じように頭を下げていました。
「此方こそ、お出迎えありがとうございます、あの…………失礼ですが、皆様は彼方に見える家にお住まいでは?」
龍崎さんが事務的に、受け答えをしています。しかし疑問も確かで、依頼人さん達が来たのは、道路の方からで、家の方からではないのです。依頼人さんは、此方を気にしつつも、答えてくれました。
「……………実は、既に聞いていると思いますが、あの家が怖いんですよ、夜に急に冷えたり、息苦しい事もあって……………、今は近くの別荘に住んでいます、あ、皆様もよろしければ、其方にお泊まり下さい」
どうやら、左手の屋敷に泊まる訳では無いようで、これには一堂がホッと胸を撫で下ろしました。それだけ、家に漂う気配が強いのです。
「ありがとうございます、なるべく早く解決出来るように、尽力致します」
丁寧に頭を下げる龍崎さんは、ザ・出来る人の空気を漂わせています。実質、今回のリーダー役は、彼のような物ですからね。
「あの、異変はいつから起きたのですか?」
私の質問に、依頼人、水島さんはしばし考えると、二ヵ月前、と口にしました。
「実は、あの家は、二ヵ月前にリフォームが終わったばかりでして、引っ越ししてすぐの事だったんです……………今、住んでいる家は、前に住んでいた別宅でして」
恐縮している水島さんの説明で、ピクリと真由合の形のよい眉が反応します。と、今まで黙っていた水島さんの息子さんが、何かを思い出したのか、いきなり声を上げました。
「あ、そういえば! リフォーム中に、古い枯れた井戸が出て来たんだよ!」
井戸と聞いて、既に、メンバーの中では、嫌な予感と警鐘が鳴り響いています。
「まさか……………井戸を埋めましたか?」
そう聞いたのは、龍崎さんです。淡々とした声から、感情が感じられません。井戸は、水が流れる氣がある場所で、埋める際には、細心の注意が必要なのです。水は循り、流れる物ですから。
「はい、埋めましたが…………きちんと神主さんに頼んで、ご祈祷致しましたよ?」
「そうですか…………一度、その神主さんに会わないといけませんね、何か知ってる可能性がありますし」
龍崎さんの眉間に、皺が寄りました。事態は、そう簡単な物では無いようです。
こうして、やるべき順番を決め、私達はまず、屋敷にカメラを仕掛け、他にも護符等を貼り、準備をしていきます。勿論、依頼人さん達にも、身の安全の為、和葉さん特製の御守りを渡し、先に水島さんの別宅へと、向かったのでした。
◇◇◇◇◇
歩いて5分程にあった別邸は、可愛らしいログハウスでした。
「可愛いお家ですね!」
和葉さんの言う通り、可愛らしいログハウスは、女性陣には大変好評でしたが、男性側は何ともクールな反応です。
「龍崎、神主さんに会いに行くんでしょ? 僕と龍崎、それに美鈴と行こう…………和葉さんは、護衛として残ってもらって、真由合さんには近所の聞き込みをお願い」
最年少とは思えない、しっかりした雅くんの言葉で、具体的な行動が決りました。皆さん不思議に思うでしょう。実際、依頼人さんは、ビックリしてますし。でも、これがいつもの事なんですけどね。
「あ、あの! 俺も一緒に行っていいですか!?」
そう言ったのは、依頼人さんの息子さんです。
「この辺りの道なら、俺、案内できますから!」
確かに、道案内は必要でしょう。チラリと雅くん達を見れば、クールな顔のままです。意気込み十分な事はいいですが、やや不安が残ります。こういう方は、色々と現場を引っ掻き回すからです。勿論、経験談ですよ。ただ、例外もあるのです。今回は知らない道、道案内はどうしても必要になります。それは龍崎さんも思ったようで、息子さんに視線が向いています。
「神主さんに会いに行くのには、確かに道案内は必要ですね、お願い出来ますか?」
淡々とした口調の龍崎さんに、息子さんは腰が引けてますが、大丈夫なのでしょうか?
読了、お疲れ様でした。久方ぶりの新作、如何でしたでしょうか?
ちょっと、他の小説がスランプになりまして、それ故に此方を投稿致しました。楽しんで頂けているでしょうか?
このお話は、短編連載小説にする予定です。最後までお付き合い頂けますよう、宜しくお願いしますm(__)m




