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8話 ピカデリー

ギターに出会い、雨宮に出会い、バンドを結成したあの日から、三ヶ月弱の時が流れた。



元々レベルの高い相馬のベースに加え、マノケンの成長は著しく、目を見張るものがあった。

既に一年からドラムを始めた二年の部員と並び始めている。それ以上かもしれない。


一方、俺はというと、指の豆が破壊と再生を繰り返し、睡眠時間を削りひたすら練習だけに時間を割いていたにも関わらず、他の二人において行かれ気味である。


「おいヘタクソ、親父の金玉ん中からやり直せ」


練習中、相馬がディスってくるのはいつもの事だ。


「あ?黙れロリコンヤンキー」


そう、あれは俺たちが喜多高軽音学部に入部してから最初の練習日だった。

隣の教室では、智沙、七海、加奈、そして雨宮を加えたメイマリのメンバーが練習していた。

加奈はまだ来て居ないようだった。


「いやーでも、本当メイマリの子達はレベル高いよなあ!」


三人で機材を運びながら相馬が喜々として語り出す。


「森谷ちゃんは家庭的で可愛いしさあ、ボーカルの子なんかボンキュッボンで、天使ちゃんはマジ天使だし」


「わかるっすわあ…俺は七海ちゃん推しっす」


マノケンがしみじみと返答する。

相馬は一応ダブりの歳上なので、ラフな敬語を使っている。


「浅見、お前は誰推し?」


「いや俺は別に」


早口で答える。


「うそつけーこのムッツリさんめっ」


下らない会話をしながらメイマリの練習している教室を覗いていると、金髪ツインテールのちんちくりんが凄まじい勢いで走ってきた。


「はあはあ…!教室で居眠りしていたら誰にも起こされず、教師にすら起こされず、デートの遅刻で彼女にキレたら器が小さいとガールズトークされる位の、ほんの少しの時間だけ遅れました!如何なる罰も受ける次第であります!」


教室のドアを開けると、スライディング土下座でメンバーに謝罪している。


「………」


相馬が沈黙している。


「ん?どうした相馬、いきなり」


「あのテンプレなロリっ娘は…誰だ」


「あー、一年の山田加奈。ドラム。見ての通り頭沸いてるから気を付けた方がいい」


「そうか、俺は今あの子を嫁にする事に決めた」


「ちょ、人の話きいてる?」


という、事があったのである。




話は再び現在に戻る。


俺と相馬は今や恒例になった睨み合いをしていた。


「まあまあ二人とも落ち着いて。相馬くんも気持ちは分かるっすけど、浅見も相当練習してます。浅見の手、みた事あります?」


マノケンがすごくいい奴である。

普段はヘラヘラしているが、いざという時は頼りになるやつだ。


「んなもんとっくに知ってるよ。普通からしたら十分過ぎる程上手くなってる。でもスリフォを本気で超えたいなら今のままじゃ無理だ」


相馬の言う事は正しい。


「まあでも、歌の声質だけはまあまあだな。音外しすぎだが」


今はまだオリジナル曲もなく、バンド名は仮で「日本ブレイク高校(仮)」とマノケンが名付けた。


俺は毎日家ではひたすらコードを頭に叩き込み、バンド練習では有名な3ピースバンドのカバーを練習している。

歌いながら弾くのが、本当に難しいのだ。

相馬曰く、「慣れ」らしいが。


「分かってる。もうだけ少し待ってくれ、絶対お前らに追いつく、曲も書く」


「おう」


相馬はムカつく奴だが、発言に筋が通っていて、素直だ。


俺たちが気を取り直して練習を再開しようとしたとき、加奈が教室に入ってきた。


「真野せんぱいっ、差し入れです!愛を込めた特別なスープをあなたに!あ、浅見先輩には与えなくて大丈夫です。」


「いらねえよ、お前の愛で腹壊しそうだ」


つかこの真夏になんであったか〜いスープなのか。


「ひっ」


加奈が相馬のただならぬ視線に気づく。


「山田あああああああああああ、結っ婚してくれえええええ!!」


悲鳴をあげながら逃げて行く加奈。

追いかける相馬。


もはや見慣れた光景と化していた。

まあ相馬はすぐ戻ってくるのだが。


夏だなあ、と思う。DQNが活性化する季節だ。



ここで、遅れてメイマリのメンバーが入ってきた。


七海が1番に口を開く。


「みんな、こんにちわ!なんか今加奈と相馬さんが駆け抜けていったけど…」


「うん、愛の逃避行じゃないかな?」


マノケンが答えた。加奈が聞いたら発狂しかねない。


「あのねハル、明日みんなで御茶ノ水の楽器街行こうと思うんだけど、日ブレ(仮)のみんなもこない?」


智沙が提案する。

そういえばいつかの帰り道そんな話をしてたな。


「俺はいいけど、そのバンド名あくまで仮だからな、親しげに略さないでくれ…」


正直引きこもって練習したかったが、雨宮が行くんじゃあ、仕方ない。

気分転換にもなるしね。


「あのね、ハル、マノケンくん、私ギター買いたいんだっ、選ぶの手伝って欲しいんだけど…」


雨宮がモジモジしていった。

もう、本当にエンジェルである。


「もちろん!」


俺は食い気味に答えると、今度はマノケンが聞いた。


「七海ちゃんもいくのー?」


「うん!マノケンもおいでよ!」


「おっけーい」


マノケンも行くようだ。

二人はなんだか最近、いい感じだ。

俺と雨宮の間では、なんもないと言うのに。

たまに一緒に帰るくらい、家近いから。


マノケンが来るって事はどうせ加奈もくる。

ということは相馬も来るだろう。


「じゃあ明日、駅集合で!ハルは遅刻したらみんなにスタベのフラペチーノおごり!」


あれ確か結構高いよな。


「詳しい事は後でメールするねっ」


七海がキュートな笑顔で言うと、三人は練習に戻っていった。


ともかく明日、2バンド合同で買い物に行く事になったのであった。



「これがリア充か」などと考えていられたのは、今のうちだけだった。




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