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4話 ユア・ガーディアン・エンジェル

練習終わりにギターをアンプに繋がせて貰い、初めて「エレキ」の音を出した。

自分の手から生み出された音が、真空管を通して力強い轟音に変換される。

いつもイヤホンで聞いていた歪んだあの音を自分が奏でていると思うと、言葉に表せない程の感動を覚えた。

とは言え、曲が弾けるわけでもなかったので、俺は早々にギターを雨宮に渡した。

雨宮は戸惑いながらも受け取ると、みんなの前でその腕前を十分に見せつけた。

メイメリのメンバーは絶句したのち、さっそく雨宮をリードギターにヘッドハンティングしていた。


機材を手分けして片付け、全員で学校を後にする。

校門から続く一本道の坂をぞろぞろと歩きながら、軽く自己紹介をした。

俺、マノケン、雨宮、智沙の順を終えると、メイメリのボーカルの子が口を開いた。

「加藤七海です、メイメリのボーカルと、たまにモデルの仕事もやってます、ナナミでいいよ!」

誰にでも好かれそうな愛嬌のある笑顔でフランクな口調だ。

最初見た時からスタイルがいいと思っていたが、なるほど。

サラサラした長い茶髪の隙間からピアスが見え、どちらかと言うと派手な印象を受ける。

どう見ても今時のJKだが、電車で化粧をしたり、人を指差して下品に笑うような尖った印象は受けない。

きっと七海の容姿と人柄もメイメリの人気に一役買っているに違いない。

次に口を開いたのは、頭のネジが月までぶっ飛んだ可哀想な女だった。

「ロリロリの一年生、かなかなちゃんで~す!前世はチワワで、特技は前周り受け身、好きなスポーツはカバディ。好きな人は真野先輩…キャーッ!、嫌いなものは」

「いや、お前はもういいや」

非常にウザいので強制終了させた。

「嫌いなものは、浅見先輩です!!!」

「な、なんだってー」

棒読みで対応すると憤慨した加奈をまたも智沙がなだめる。

「智沙は実にいいお母さんになりそうだな」

「そっそうかなあ?ありがとっ」

料理もうまいし、間違いないだろう。

振り返ると、雨宮と七海が会話していた。

「えーっ、優ちゃんギター持っていないの!?」

「う、うん、訳あって今は…」

チラチラと俺の方を見て助け船を求めている。

「そうなんだ。雨宮は前の学校でパフォーマンスの一環としてステージでギターを叩き折ってしまったんだ」

「ハル!?」

「へぇー、人は見かけによらないねー」

七海は冗談だとわかっている様子でケタケタと笑う。

その後も雨宮は必死で弁解していた。


それから電車通学のマノケン、七海、加奈と駅で別れた。

俺、雨宮、智沙は歩き出す。

途中、ムスッとしていた智沙の機嫌もいつの間にか治っており、雨宮と楽しそうに会話をしていた。

智沙の家が楽器屋である事を知ると、話題は雨宮がギターを買いたいというものに変わった。

智沙が「でもうちの楽器屋狭いからあんまり種類ないんだよねー」と告げると、

近いうちに楽器屋のメッカである御茶ノ水にギターを見に行く、という約束が交わされた。

それまでは智沙のギターを貸してあげるらしい。

「なんか姉妹みたいだな」

思った事を口に出す。

「そうー?でもなんかさ、優ちゃんって守ってあげたくなるタイプかも」

「確かに」

「ハルもいいお父さんになりそうだよねっ」

一瞬、親父の、血の気の引いた真っ白な顔がフラッシュバックした。

動悸が激しい。

意識をなるべく別のものに移したくて、裏の路地を見る。


そこには、見るからに柄の悪い3人組と、そのうちの1人に蹴りを入れられ、ダウンしている若者が居た。

3人組は若者に唾を吐き掛け、去っていく。

「ハル?どうしたの?」

智沙と雨宮は俺の視線の先を追う。

それを見るや雨宮は路地の方に駆け出す。

「大丈夫ですかっ?鼻血出てる…」

雨宮は鞄からタオルを取り出し、血を拭き取った。

「あああ…痛ってえなチクショー…」

男は目を開け雨宮を見る。

「て、」

「あっ、手も擦りむいて…」

「天使だ…」

「へ?」


男は再びダウンした。



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