32話 クライ・ノー・モア
俺は今まで、ライブでMCらしいMCをしたことがなかった。
いつも饒舌なマノケンに任せっぱなしだった。
でも今は…
なんだろう、自分でも分からない。
気付いた時には、伝えたい想いが口から溢れ出していた。
「……あの、俺たち今日、初めて学校でライブをします。
今まではずっと外のライブハウスに出てました。」
俺が口火を切ると、館内は再び静寂に包まれた。
「時間がないので、今日は一曲しかできません。
その前に、この曲が出来るまでの事、話す時間を…少しだけ、時間を俺に下さい」
深く息を吸い込む。
今までの事が走馬灯のように脳裏を駆け巡る。
MCの内容なんてこれっぽっちも考えていなかったけれど、ただ、感情のままに話そうと思った。
「俺は…このバンドを組むまで、なんとなく過ぎていく、なあなあな日々を過ごしていました。
人と距離をとって、傷付かないように…
だけどそれは俺1人だけのことじゃなかったんだ。」
ここで、敬語が感情に飲まれ、崩れる。
最初に思い出したのは相馬の事だった。
「ある人は、人を信じて…裏切られて。自分を尖らせるしかなくなってしまう。自分も周りも、傷付くのに。」
横目で相馬を見ると、唇を噛み締めていた。
「ある人は、自分を責めて、上辺を取り繕う生き方しか出来なくなってしまう…」
マノケン、七海を思い浮かべた。
そして、優を思い浮かべる。
「ある人は、俺の大事な人は…周りの人の優しさがほんの少し足りなかったばかりに、人を愛する事を諦めてしまっていた。」
ここまで話すと、母さんの言葉を思い出した。
父さんとすれ違い、それでも家族を愛し続けた母さんの言葉。
「もうそんな生き方は嫌だ…!
俺は、どんなに傷付いても…人を愛する事を、信じる事をやめたくない…
やめちゃ、ダメなんだ…!」
これが、今の俺に出来る精一杯のMCだった。
「だから、俺はこの曲を書きました。
自分の為に、そして…」
今まで支えてくれたみんなの為に。
「……他でもない、この曲を聴いてくれる、あなたの為に。
聴いて下さい、Letters for me」
俺はイントロをかき鳴らす。
静寂に包まれていた館内が、熱を帯びるのを感じた。
全パートが合わさった瞬間、今までにない一体感を感じる。
メンバーと目が合う。
そのとき感じたものは、言葉に出来る感覚ではなかった。
Aメロ、Bメロを歌い終え、サビに入る頃にはホールの前例に男子生徒をメインに人だかりが出来ていた。
モッシュだ。
後ろの方まで見渡すと、会場のほぼ全員が腕を上げてくれていた。
届いてる…!
母さん、俺の声、届いてるよ…!
その熱気に包まれて、俺は精一杯の感情を歌詞に込め、一曲を、歌い切った。




