30話 バックオン・マイフィート
電車に乗り込み、すぐさまメンバーにメールを送った。
マノケンからメールの返信が届く。
なんとか顧問のやっさんに事情を説明し、ライブの出番をトリにしてもらえたとの事だ。
それでも時間はギリギリだった。
間に合え、間に合え、と頭の中で呪詛のように唱える。
駅に着くなり、全速力で走り、学校へ向かう。
校門を抜け、学園祭ライブのステージである体育館へ向かうと扉からは既にバンドの演奏が漏れ聞こえていた。
七海の声だ。
本来学園内で随一の人気を誇るメイマリがトリを務めるはずが、俺の遅刻のおかげでトリ前になったというわけだ。
「間に合った…」
安堵し、扉に手をかけたと同時にメイマリの演奏が終わり、七海の「ありがとうございましたぁ〜!」という挨拶に観客は熱狂していた。
智沙は視線を客席に向けてキョロキョロしていた、俺を探しているのかもしれない。
加奈は髪の毛をボサボサにして燃え尽きて真っ白になっている。
優は照れくさそうにお辞儀をしていた。
それにしてもすごい人だ。
普段はだだっ広く感じる体育館が観客でパンパンに埋め尽くされていた。
俺がステージに向かおうと入り口に足を踏み入れた時だった。
出口へ向かうある人物とすれ違った。
「あんた…」
優の兄、アキだった。
「なんだ、またお前か」
「見に来てたのか、優のライブ」
アキは冷たい目で俺の目を見た。
その瞳は全てを見透かすような、そんな光を放っていた。
そのまま無言でアキは踵を返そうとする。
「待ってくれ!……待って下さい…!」
俺はアキを呼び止める。
「俺はあなたを、誤解してました。…優の事を大事に思っている、その気持ちは俺も同じなんです」
「…だからなんだよ」
「俺…これからライブします。あなたの、あなたが優に渡したギターで。
もし良かったら…見ていって欲しい」
「………」
「俺の曲なんてまだまだアキさんには遠く及ばないです、見る価値なんてないかもしれません…だけど…」
精一杯の気持ちを込めて訴える。
「お願いします。優に出会って、アキさんのギターに出会って、自分の過去と向き合って…だからこそ書けた曲なんです…そしてあなたを超える事が俺の夢なんです」
「お前さ…」
アキは俺を見つめると、言い放った。
「バンドマンだろ…?気持ちは全部、曲に込めろよ」
このとき初めて、俺はアキさんの笑顔を見た。
「はい…!!!」
俺は深くお辞儀をして、ステージへ駆け出した。




