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28話 ヴァニシング・ポイント

スタジオの前に到着する。


覚悟を決め、赤い防音ドアを開く。


煙草を吹かしながらヒロさんが話しかけてきた。


「おう、春希。久しぶりじゃねえか、みんな待ってるぞ」


「お久しぶりです。みんなは…」


スタジオの中を見渡すと、カウンターの席にマノケンが座っていた。

ペットボトルの水を飲んでいる。


「おー浅見、久しぶりだなー」


何事もなかったかのようないつもの態度だ。


「おう、マノケン俺…本当にごめん」


「いやあ、俺も熱くなっちゃって正直すまんかった。頬っぺた、大丈夫か?」


マノケンは自分の頬を指差しながら前歯を見せて笑う。


「あんなの大したことない。相馬にあった日なんかもっと酷い目にあった」


「間違いない、あん時の二人の顔最高に笑えたよなー」


改めて思うが、こいつは本当にいい奴だ。

マノケンに出会わななったら俺はきっとずっと、あの頃のままだった。


「あ、相馬は?」


「Bスタでベース弾いてるよ。俺は今ちょっと休憩」


「分かった」


相馬の元に向かおうとすると、マノケンに呼び止められた。


「浅見さ…あんとき楽屋の中での会話、どこまで聞いたんだ?」


「えーと、相馬がバンド誘われて、「それもいいかもしれない」って言ったとこらへん」


「バッカ、お前もうちょっと聴けよなー」


「いや、耐えられなくて扉、そっ閉じした」


「相変わらず浅見は思い込み激しいし思考が極端だなー、まああんだけディスられたら無理もないけど…、あの後な、」


マノケンはあの日の、夏休みラストライブの真相を話し出す。


ーーーー


「いやいや、実はさ、うちのベース就活で来月から抜けちゃうんだけどさ、うちで弾かない?

CDの全国流通も決まってる。

君が入ればもっと良くなると思うんだ」


成人バンドのメガネ茶髪ギタリストが切り出した。


「はあ、それもいいかもしんないっすね…」


「でしょ?だからあんな糞バンド辞めてこっち入って欲しいんだけど」


相馬はその場でメガネ茶髪をぶん殴ったという。


楽屋のパイプ椅子にメガネ茶髪は激しい音を立てて突っ込んだ。


「すんませんね。俺、口より先に手が出る方なんで」


メガネ茶髪は鼻血を垂らしながら、割れたメガネを掛け直す。


「なっ、何すんだよいきなり!ちょっと褒めてやった位で調子のんなよガキ…お前位のベーシスト腐る程…」


「あ?もう一発食らいてえか?あんたみたいなタイプの歳上には、かな〜り恨みあるから、手加減できないよ」


「……なんでそこまで今のバンドにこだわる?」


「バンドってさ、技術より大事なもんがあんだよ。だから」


「技術より大事なもの…?」


「ハートだよ。あんたらは確かに上手いけどそれを感じない」


「はっ、馬鹿馬鹿しい…そんなもん長く続けるうちに薄れる」


「…あんたがバカにしたうちのギタボはな、誰よりもそのハートを持ってる。

俺もそれに救われた。

今にあんたらのハリボテバンドなんか、超えると思うぜ」


「オリジナルの曲もないくせに大した自信だな!

…チッ、もういいわ。精々慣れあってバンドごっこやってろ、そんな甘くねえんだよ」


「知ってるよ、甘くない事くらい。

でも今のメンバーならやれる気がすんだよね、不思議と。

…俺は、このバンドで上がってく」



ーーーー


マノケンは話終えると、肩を組んできた。


「お前さ、もっと俺らを信じろよな。

相馬くんだって面と向かっては言わないけど、浅見を認めてるし、本気で付いてくつもりだぞ」


「……くっそ、本当ホモホモしいな、お前らっ…」


「浅見、最近さすがに涙腺弱すぎ!ほらいこーぜ練習」



Bスタジオに入ると、相馬がベースを弾いていた。

手を止め、こちらを向く。


「遅えぞバカハル。自分から呼び出しといて」


「女の家に居たんだ。ロックだろ?」


「…健二、こいつ殴っていい?」


マノケンがフォローを入れる。


「まあまあまあ、いきなりやめようよ二人とも。

ほら、浅見も照れてないで!」


俺はなるべく真剣さが伝わるように務めて、言葉を発した。


「…待たせたな。相馬」


「ったく……学祭近えんだ、とっとと準備しろ」


相馬はボリボリと頭をかく。


「あのさ、その事でみんなに話があんだ」


相馬とマノケンの視線が俺に集中する。


「…曲を、作ったんだ」



俺は、ギターを肩に掛け、マイクスタンドを立てる。


音を確認し、深呼吸をする。


言葉はもう、要らない。

俺達はバンドマンだ。

気持ちは全部、音楽に込める。


そして、弾き語りをはじめた。


本来疾走感のある曲だが、あえて弾き語りらしく、ゆっくりとしたテンポで演奏する。


何度も何度も、繰り返し弾いて歌った、自分の曲。

心なしか、以前より自然に身体が反応する気がする。

ずっと感じていた「ギターに弾かされている」ような感覚が消えていた。



演奏を終え2人を見ると、相馬は唖然とした表情。

マノケンは、俯いていた。


あれ…そんなダメだったかな…


沈黙を破ったのは相馬だった。


「ハル…これ本当にお前が作ったのか…?」


「え?ああ、そうだけど…」


「どうやって作った…?コードは、基礎理論は?」


「コードは最初に教本の全部覚えてたから。理論は全然わからない、感覚としか言えない。なんか急に降ってきたというか…」


「嘘だろ…」


「嘘じゃねえし!証拠!証拠は…ないけど…」


俯いていたマノケンが顔を上げ、割り込む。


「いや、相馬くん…これは浅見の曲だよ…浅見にしか書けない歌詞だよ」


「俺もそう思う。だけど、これは…」


な、なんだ?

マノケンはなんか目が赤いし、相馬はフリーズしてるし…


「え、ええと…どうだった?初めてだから自分でもよくわかんないんだけど」


相馬が答える。


「…魂が、震えた。

もし本当にお前が作ったなら…天性としか、言いようがない」


あの相馬が、俺を褒めてる?


続いてマノケンが話す。


「…浅見の感情がそのまま音になったみたいな…上手く言葉にできないけどメロディが、やばい」


あのヘラヘラしてるマノケンまでもが、神妙なトーンで。

しかもちょっと瞳が潤んでるし。



「あ、ありがと、正直そこまで言われると照れるな?」


良かった…ちゃんと伝わったみたいだ。


相馬がベースを肩に掛ける。


「…今日から学祭まで、死ぬ気で仕上げるぞ、この曲」


「おう!」


俺は嬉しくて、自分で思った以上に元気に返事をしてしまった。


「ハル、何ニヤケてんだ、調子のんなよ。相変わらずギターは下手くそなんだからな!歌もマシにはなったけどまだ音外してんぞ」


「わかってるよ!皆まで言うな」


マノケンも立ち上がる。


「…よーっし!これで七海ちゃんのハートとオッパイを更に掴むぞ!

やるぞー!」


「マノケン、七海にチクるぞ。

とりあえず後三日だ、いつもの気合い入れようぜ」


俺が提案すると、部屋の真ん中に三人で集まった。


「んじゃリーダー、一声よろしく」


「えっ、相馬くん!?俺?」


マノケンはアタフタしている。


「俺もリーダーはマノケンしか居ないと思ってた。俺と相馬はダメだ、協調性がない」


「ハルてめえ、一緒にすんな」


「あ?相馬は髪型から協調性皆無なんだよ、毛先が全方向に散開してんだろうが」


「バックレ野郎が偉そうに!」


「まあまあまあ、二人ともやめなって。

それじゃ」


それぞれの中心で、それぞれの手を重ねる。


マノケンが大きく息を吸い込んだ。


「せっええええええのっ!!」


この世界が、自分の目にどう映るかは、自分自身の心ひとつだと知った。

だから…


この三人で、心の壁を、壊す。


自分たちの心の壁を。

そして、俺たちの音楽を聞く人達の、心の壁を、壊す。



重ねた手を振り下ろす。



「えい!!!!!」




迷うばかりだった心に、少しだけ光が差した。


けれど現実がどこまでも暗闇で、標識もない道なのは、きっと変わらない事実だ。


これからもまた、何度も迷うだろう。


それでも今は進むしかない。



それぞれが、前だと思う方へ。









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