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27話 イノセンス

「優…」


優は、タオルを巻き直し、着替えに戻った。


その間にブレーカーを上げ、電気が復旧する。


あの傷は、優は…

様々な思考が渦巻いては、霧散する。


そのうちに、優が戻ってきた。


「びっくり…したよね」


「ああ…」


「…私ね、生まれつき心臓が悪いの。

小さい頃手術をして、その跡なんだ」


だから、あんなに錠剤を飲んでいたのか。


「…うん」


「その手術で、すごくお金がかかって…それから色々あって家族はバラバラになった」


家族の事を深く聞くのは、今は違う。

優が俺に伝えたいのは、それじゃない。

そんな気がする。


優は続ける。


「それで、まだ家族も一緒に住んで居た頃ね、私は中学生で、体育の着替えのとき、なるべく隠してたんだけど、この傷を見られちゃって…それが噂になって。

変なアダ名も付けられて、

その時好きだった男の子は、私から離れていった。

すごく仲が良くて、きっと両想いだったんだ」


「うん」


好きな人、居たんだ。

いや、今はそれは置いておこう。

ちんけな嫉妬心から頭を必死に切り替える。


「それで、私は家に帰ると、毎日部屋で泣いた。

身体が弱くて、傷があるだけでなんでこんな思いをしなくちゃならないんだろうって。

すごく、辛かった。悔しかった。

そしたらね、お兄ちゃんが部屋に入ってきて、理由を聞いてきたから、答えたんだ。

そしたら、お兄ちゃんはすごく怒って、一緒に泣いてくれて…」


そんないい兄貴が、どうしてあんな…

絶対に理由があると確信した。


「お兄ちゃんはその時必死にバイトして貯めたお金で買った大事なギターと、彫刻刀を持ってきて、自分の身体みたいに大事にしてたギターに傷を付けた。

「ほら、これで俺のギターも一緒だよ」って。

それが、今ハルが使ってるギターなんだよ」


「そんな意味があったのか、この傷…」


「うん。お兄ちゃんの気持ちがすごく嬉しかったんだ。

でもね、それ以来、誰かを好きになるのは辞めようって思った。

付き合っても、いつかこの傷を見られて、嫌われるなら…」


「優…」


優の表情は憂いに満ちている。


「ずっと、そう思って、お兄ちゃんが居なくなってから1人で生きてきた。

なのに…

突然、お兄ちゃんのギターを持った男の子が、ハルが、現れたんだよ」


「ああ、神社で会ったな」


「初めは変な人って思ったよ。だって1人で変な動きして、私が捨てたはずのギター、もってたんだもん。

だけど…

優しくて、本当は誰より心が暖かくて、困ってる人がいたら誰に対しても必死になる…

深く知って行くうちに、どんどん惹かれていったんだ、なるべく隠してたけど…」


「そ、そうなの…?」


「そうだよ。

だから、ハルが好きって言ってくれた時、本当に嬉しかった。

だけど、付き合ったらいつかは、胸を、傷を見る事になるから…

ハルに嫌われるのだけは、絶対に嫌だったから…ハルはお兄ちゃん以外で唯一心を開ける人だから…」


俺は深呼吸をした。


「…俺もさっき、優に言いたい事があるって言ったじゃん?

今からそれも全部言うから」


「う、うん…?」


息を再び、大きく吸い込んだ。


「バッッッッッカじゃねえの!!!」


「へっ!?」


優は驚き、身体をビクッとさせた。


「そんな傷の一つや二つ、関係ねえよ!

俺は決めたんだ。

優を諦めないって、ずっと好きでいるって!

その傷を悪く言うやつが居たら、全員俺がぶっ飛ばしてやる。

身体の事で社会が優を除け者にするなら、俺はこの社会を否定する!

1人で寂しいなら、ずっと側にいてやる!俺も寂しいからな!」


「ハル……」


「俺を変えてくれたのは優だ。

初めて会ったあの瞬間から、優はたくさんの心をくれた。

世界が色を変えた。

だから…

俺は優が好きだ。優を、愛してる」


「……ハルっ、ハル、大好きっ、私もハルが大好きっ」


俺たちは抱き合う。

雨音が響く和室で、ただ、抱き合った。


そして、唇を重ねた。


「チュー、はじめてした…」


「お、俺もだけど?」


「…ハルっていつもスカしてる癖に、ドーテーなんだね!」


優がケタケタと笑う。


「うっ、うるさい!イノセントだろ!俺の誇りだよっ、守りたい、この貞操。」


腕の中で無邪気に笑う優を、ずっと守りたいと思った。


それから、しばらく下らない、何気ない会話をした。


「んじゃ、そろそろいかねーと」


「バンド、だよね…頑張って。ハルなら大丈夫、きっと二人も」


「ああ、ありがとう。そんで曲作ったんだ」


「えっすご!聞きたい!今度聞かせてね!」


「もちろん!じゃ、いくわ」


俺は立ち上がり、機材を持つ。


「あっ、ちょっと待って!」


「ん?」


「ハル…もうすぐ誕生日だって聞いたから」


優は、小さな紙袋をくれた。


「バンドのとき、使えるのがいいと思って…ちょっと早いけど、受け取ってくれる?」


「うん、ありがとう、大事にするよ」



優の家を出て、袋を開けると、黒いリストバンドが入っていた。


早速左腕に付けてみると、何だか気分は最高だった。


携帯を見ると、相馬から着信が来ている。

やばい…言い訳は…

下痢が止まらなかった、で、どうだろう。



そして、俺はスタジオに走り出す。


あの日手に入れて、失いかけた、全てを取り戻す為に。






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