25話 ギフト
自宅に到着するや否や、俺は部屋に戻りギターを手にした。
あのライブの日から10日程しか経っていないはずだったか、酷く久しぶりに触れた気がした。
「よし…作るぞ、曲」
と、意気込んではみたものの、曲を作るのは初めての試みだ。
右も左もわからない。
こんなとき、相馬が居たらな…
でもこれは、俺の戦いだ。
1人でやらなきゃ意味がない。
変なところで几帳面な性格が幸いし、ギターを始めたばかりの頃から教本に載っていたコードと、カバーしてきた曲のコードは全て頭に叩き込んである。
けど、音楽の理論なんて全くわからない。
しかも、オタマジャクシも読めないと来ている。
こういうときは…
と、とにかくやってみよう。
考えるな、感じろ。だよな、こういうのは。
まず、大まかな進行と、イントロのリフから…
それから半日程作曲と格闘したが、納得のいくものは何も生まれなかった。
それから丸三日、ひたすらにギターを弾き続けた。
ダメだ。
煮詰まってきた。
気分転換に、少し外に出よう。
念のためギターを背負い、アパートを出た。
優と歩いた通学路を歩く。
相馬が倒れて居た裏路地。
ここ数ヶ月の記憶が蘇る。
気付けば、学校の近くまで来ていた。
そこで、一つの案を思いついた。
初心に帰るってのはどうだろう。
優と出会い、初めてこのギターを弾いた、あの大山神社に行ってみよう。
全てが始まった、あの場所へ。
神社に到着し、いつもの石段に腰を下ろす。
優を見つけた場所だ。
あの日から、俺の世界は確かに色付いたんだ。
ずっと、目に映る景色は灰色だった。
もがけばもがく程、色褪せていくばかりで。
全部嘘っぱちで、未来なんて明日と明後日くらいで十分だと思ってた。
退屈で、現実はただただ冷たくて、降り止まない雨に、傘なんて無かった。
人が、怖かった。
自分が、嫌いだった。
それでも、誰かを愛していたかった。
そんなとき、ここで優に出会った。
その日の夜、音楽に惹かれた。
初めて、本気で人を好きになった。
大切な仲間に出会って、信じる心を取り戻した。
そして、過去のトラウマを少しずつだけど、乗り越えられた。
空を見上げ目を閉じると、様々な記憶が走馬灯のように脳裏を走り出す。
一陣の風が、吹いた。
木々がざわめく。
その瞬間。
周囲から音が、消えた。
頭の中に、突然メロディーが鳴り響く。
詰まっていた何かが取れたかのように、溢れ出す。
聞いた事のないメロディー。
痛くて、辛くて、苦しくて、真っ暗な闇。
だけどそこから、ほんの少し光が見えるような…
これは、きっと、俺の…
ギターを取り出し、すぐさま携帯に鼻歌を録音する。
そのメロディーに、コードをつけてみた。
不思議な事に、パズルのピースがはまるように、自然と曲が組み上がって行く。
これは、なんだ。
自分でも分からない。
ただ、無尽蔵に溢れ出しては消えそうになるメロディーを、必死にコードで繋ぎとめていく。
夢中になるうち、辺りは夕闇に染まっていた。
1コーラスの骨組みだけが完成したその曲はまるで、自分の分身だった。
学祭まで、まだ時間はある。
必ず完成させて見せる。
家に帰り、ろくに飯も食わず、睡眠すら忘れてその曲と向き合う。
歌詞を付ける段階では、自分の過去と、内面をえぐった。
心が叫ぶから、
それをただ音にして、言葉にして…紡いでいく。
それから、何日経っていたのかは定かじゃない。
すごく短かった気もするし、無限にも感じられる時間だった。
細かいアレンジや、ギターと歌以外のパートは考えていなかった。
でも、出来た。
過去の自分に向けた手紙のような曲。
そして、同じ気持ちを抱える誰かの心に寄り添えたらいい。
そんな想いを込めた曲。
「Letters For Me」
ギターを置いた直後、深い眠りに落ちた。
夢も見ずに、眠った。




