24話 テイク・ザ・パワーバック
部屋に戻ったものの、なかなか智沙が戻ってこない。
リビングを見にいってみると、表の縁側に後ろ姿を発見した。
団扇で顔を仰いでいる。
「どうした、こんなとこで。湯冷めするぞ」
「あっ、ハ、ハル…いや、あの、ちょっとお風呂出たら暑かったから涼んでたというか…」
「そっか、ちょっと待ってて」
俺は冷蔵庫から麦茶を取り出し、二人分コップに注いだ。
冷凍庫も確認すると、ガリガリ君が数本入っていた。
「はい麦茶、アイスもあったから後で食べる?」
「ありがとっ!うん、一緒にたべたい」
麦茶を喉に流し込むと、沈黙が流れる。
澄んだ夜空に虫の声が響き、夏の終わりを感じた。
「あの、さっきはごめんね…急に変な事して…引いたよね」
智沙は俯きながら頬を赤らめる。
「まあ、びっくりはしたけど…」
「けど…?」
「智沙、立派なJKに成長したな。感動したっ」
「ハル…オジサンくさい…」
ここで、気持ちを伝えよう。
今しかない。
「…智沙はやっぱり可愛いよ」
「えっ?な、なにっいきなり…」
「正直、智沙といると安心する。
他の誰にもない、智沙だけの安心感がある。
いつでも優しくしてくれて…側に居るのが当たり前で。
でも、俺は…」
「ハル、待って!」
「え…?」
「その続きは、聞かなくても分かるから…」
「けど、こういうのはちゃんと」
「…そんな答えを出す、頑固で不器用なハルだから……私はハルを、好きになったの」
「…ありがとう、智沙」
「だから、これは…鈍感なハルに私の初恋をずっとスルーされて来た復讐っ」
頬に、キスをされた。
幼い頃何度もされたが、重みが違う。
唇から伝わる想いは、何年分だろう。
「ちょっ、おまっ!」
前歯を見せて笑顔を作る智沙の頬には、涙が伝っていた。
「ばーか!優ちゃんより先にハルのお嫁さんになる約束したの、わたしなんだから!…このくらい、許してよ」
「…ああ、ずっと気付けなくて、ごめんな」
「小さい頃は、まだ自分でもよくわかってなかったんだ。でも中学の時、「髪、短い方が似合うじゃん」って言ってくれたあの時から、ずっとずっと、好きだったんだよ」
「そっか…ありがとう」
「泣き虫でヘタレのくせに優しくて、たまにかっこいいし…
もう!なんか自分で言ってたらムカついてきた!」
グーで肩を殴られた。
「おおっ!?スイーツな雰囲気から急に逆ギレすんなよ!」
自然といつものように笑いあっていた。
「…ハルと優ちゃんは、お似合いだと思う。雰囲気がしっくり来てるもん。
優ちゃんにも何かきっと理由があるんだよ。
だからハル、わたしも応援するね」
「ありがとな、本当。頑張るよ、優の事も諦めない、バンドも絶対うまくやる」
「わたしだってハルの事、諦めないから!
ハルなんか、上手くいってもどうせすぐフられるし!」
「なんだと!人を甲斐性なしみたいにっ」
「実際そうでしょ!引き篭もり癖あるし!」
「…返す言葉もございません」
また、笑い合う。
俺は智沙と過ごすこんな時間が、好きだ。
それはきっと、これからも続くだろう。
「アイス…たべよっか」
「だな!」
2人で夜空に浮かぶ月を眺めながら、アイスを齧った。
日がくれるまで公園で駆け回った、あの頃みたいに。
そして、次の日。
理香姉の車に乗り込み、俺たちは山梨を後にした。
珍しく、すっきりした気分だった。
帰ったら問題は山積みだ。
けれど、今なら、なんとかなる気がする。
携帯を取り出し、ずっと放置していたメールボックスを開くと、みんなからの大量のメールが来ていた。
最後に来ていた七海のメールから開く。
「これ、マノケンには言うなって言われてるんだけどね、どうしても知って欲しくて…」
続く文章は、マノケンの過去に関する文面だった。
読み終わり、思う。
俺はなんて酷い事を言っちまったんだろう。
相馬だって、まだ俺を待ってくれているかもしれない。
あいつらとの関係を戻すには、方法はひとつしか思い浮かばない。
曲を、書くんだ。
ギターの下手さを補えるほどの曲を。
あいつらが納得する程の曲を。
今の俺にできる罪滅ぼしは、それしかない。




