23話 インターリュード
智沙と二人で駅に着き、電車に乗った。
「智沙、俺次の駅に用があるんだ。こっから一人で帰れる?」
「え、昔の友達とか?」
「んー、まあそんなとこ」
「…女の子?」
「男」
「わ、わかったよ!1人で帰れるから!気をつけてねっ」
「迷ったら理香姉に連絡してくれ、迎えに来てくれると思う」
俺は電車を降り、目的地に向かった。
田園風景が広がる道を抜け、坂を登り、到着する。
入口をまたぎ、目的のものの前にしゃがみ込む。
いつの間にか日が落ち、ひぐらしが鳴いていた。
静かだ。
ひぐらしの声と、風に木々が揺れる音だけが響く。
「親父…久しぶりだな」
その墓石に触れる。
そして、リュックを漁った。
「これ、理香姉のやつだから、親父が吸ってたのと違うけど」
煙草に火をつけ、線香の代わりに置いた。
「あと、ビール。俺はまだ飲めないんだけどさ、とりあえず今はこれで」
缶のコーラを取り出し、墓石の前に置いたビールと乾杯した。
「俺さ、ギター始めたんだ。バンドも組んだんだ。
笑っちゃうだろ、俺がギターボーカルなんて」
ただ、話しかける。
死んだ後の世界なんてあるかどうかすら分からない。
けれど、もしかしたら声が届くかもしれない。
「それからさ、友達も増えたんだ。今はちょっと喧嘩しちゃったけど、すぐ仲直りするよ」
最後に、今1番親父に伝えたい事を話そう。
「…母さんさ、親父の事、愛してたぜ。
最後の最後まで、親父を想ってたんだ。
だからもう苦しまないで、安心して眠ってくれ」
それから、しばらく墓前でコーラを飲み、立ち上がる。
「じゃあな親父。またくるよ、今度はすげえバンドのギターボーカルになって」
そう言い残し、墓地を後にした。
なんとなく、親父がどこかで「頑張れ」と言った気がした。
実家に戻ると、食卓には豪勢な手料理が並び始めていた。
キッチンを見ると、ばあちゃんと智沙が並んで料理をしている。
「なんか、智沙の方が孫みたいだな」
「あ!ハル帰って来てたんだ!えへへぇ~、おばあちゃんに色々教えて貰ってるんだあ」
「なんだい春希、手伝いたいのかい?」
「いやばあちゃん、俺は遠慮しとくよ。先風呂入っていい?」
「はいはい、お湯湧いてるからねー」
リビングでは、じいちゃんと理香姉が囲碁を打ちながら酒を飲んでいた。
「じいちゃん、お久しぶり」
「おお、よく来たな。もう美和子の見舞いは行ったんだってな」
「ああ、今行ってきた」
「それにしても、可愛い彼女連れて来おって、色気付いたかクソガキ」
「違うから!理香姉もなんか言ってよ!」
「え?なんだって?」
くそっ、色ボケじじいと難聴アラサーめ。
風呂に入り、みんなで食卓を囲む。
あの頃、会話もなく黙々と飯を口に運ぶばかりで苦手だったこの家の食事も、今日はとても明るくて、団欒と呼べるものだった。
理香姉と智沙が居ると、会話も弾んだ。
そんなどこか懐かしいような時間を過ごすうち、気付けば時刻は22時をまわり、みんなそれぞれの部屋に戻っていった。
俺は歯を磨こうと、洗面所の暖簾をくぐった。
「あ…」
「っっ!!」
タオルを巻いた風呂上りの智沙が、立っていた。
まだ風呂入ってなかったのか。
「ご、ごめん!一回部屋戻るわ!」
蒸気した智沙の頬と、昔とは比べ物にならない程成長した身体が、網膜に焼き付いて離れない。
「待って」
「え…?」
智沙に寝巻きの裾を掴まれた。
「いいよ…ハルなら」
いい?いいって何が?
興奮しちゃうだろ。
…え?これどこのエロゲ?
「な、何言ってんだ智沙、のぼせたか!?」
「み、見てもいいって事!小さい頃何度も見てるから興味ないかな…」
いや、ある。
正直悩ましい。
いかん、煩悩退散煩悩即菩提。
智沙は幼馴染だ。
そうだ、ヒロさんに殺されるぞ。こんなところで死ぬわけにはいかない!
「優ちゃんのことは…もう、忘れちゃいなよ…」
…それに俺には、母さんとの約束がある。
「ごめん智沙、俺実は女に興味ないんだ!
後でゆっくり話そう!」
凄まじい言い訳を口走りながら、ダッシュで自室に帰投した。
俺はずっと、智沙が俺を気にかけてくれるのは、中学の頃イジメから智沙を庇ったから、その恩返しみたいなものだと思っていた。
でも、流石の俺だって、最近は薄々その想いに気付いていた。
智沙はきっと、俺を好きになってくれてる。
そして、優の事でウジウジしていた俺を見兼ねて強行手段に出たのだろう。
こんなに近くに、大切な想いがあったんだ。
決着を、つけなきゃな。




