18話 深夜高速
理香姉は一日先に車で山梨に向かった。
智沙のバンド練習があり、日にちが合わなかったからと言っていたが、腑に落ちない。
どうせまた妙な勘違いをして気を回したんだろう。
その翌日、俺と智沙は夜行バスに揺られていた。
夜行バスというのは、嫌いじゃない。
普段移動だけに使っているはずの空間に、独特な生活感が出来上がっているのに背徳感を感じる。
繰り返す心地よいエンジンの振動と、ハイウェイを照らす等間隔のライトが気持ちを落ち着かせ、時より停車するサービスエリアは、寂寥とも言える雰囲気を纏っている。
そんな車内で、となりに智沙がいるのは、何というか、優と居るときの感覚に近いものがあった。
毛布を膝に掛けた智沙がささやきかけてくる。
周りの乗客がぽつりぽつりと眠り始めていたから。
「ハル…寒くない?」
「んん、ちょっと冷えて来たかも」
智沙が自分の毛布を膝に掛けてくれた。
距離が縮まり、肩が触れ合いそうになる。
「ハルが山梨に引越したとき、たまに会いに行ってたでしょ?
私ね、こうやって夜行バスで毛布掛けて一人で向かってたんだよ」
「そっか。ありがとう。あの頃智沙が来てくれて本当はすげえ嬉しかった」
中学3年の半年間、俺は今住んでいる神奈川から離れ、山梨の親戚に家に住んでいた。
それでも智沙は、纏まった休みの度に、ヒロさんから借りたたくさんのCDを持って会いに来てくれた。
今思えば、あの頃から音楽が好きになったんだ。
「あの頃のハルは、本当に擦り切れてて、弱ってたから」
「…そうだな」
「今のハルは、昔のハルを思いださせるよ…だから付いて来ちゃった。迷惑だった?」
上目遣いで見つめて来る。
不覚にも、意識してしまう。
幼馴染とは言え、可愛い女の子に変わりはない。
「いや、全然。むしろ智沙が居てくれて助かる。あそこ行くの毎回結構勇気いるんだ」
「なんか今日はやけに素直じゃん」
「弱ってるから。優しくして」
「なんかムカつくんだけどっ」
智沙が肩を小突いてきた。
「そろそろ寝ようか」
「うん。お休み、ハル」
微睡みの中で、昔の、あの頃を思い出す。
となりに居る智沙が、俺の世話を焼いてくれる理由。
そして、今の俺の人格が形成された過程を。




