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16話 クリープ

優の家に行く途中、近所のスーパーに寄り、食材を買った。


時間も時間だし簡単なものでいいよと言うと、優は手慣れた仕草で手早く様々な食材をカゴに入れていった。


俺は優の後をついて行くばかりで、幼い頃母さんとこんな風に買い物をしていた事を思い出した。

おまけ付きのお菓子をねだったっけ。


「ねえこれ買ってー」


「だーめ。ご飯の前でしょー」


「なんかイイ。もう一回お願い」


「もお〜、なんだハル、元気じゃんっ」


そりゃ元気にもなるさ。

優の手料理が食べられるんだから。

それに、こうして二人でスーパーで買い物をしていると、なんだか大人のカップルになった気分だ。



そして、家に着くや否や優は早速エプロンを付けた。


「すぐ出来るから、待っててねっ」


エプロンがやけに似合っていた。

普段から付けているんだろうな。


「うん、急がなくていいから」


「了解だよ!」


優は嬉しそうにも、緊張しているようにも見える。


俺はバンドの事で内心はぐちゃぐちゃだったけど、務めていつも通りに振舞った。


ギターを弾いて待とう。

そんな考えがよぎった。

今までずっと、空いてる時間があればギターを弾いていたから、その癖が身体に染み付いている。


けれど、やめた。


ギターに触るのが、怖い。


優と、そして軽音のみんなと俺を繋いでくれて、生き甲斐をくれたはずのこのギターが、今は遠くに感じる。


ボディに刻まれた稲妻のような傷が「これ以上弾くとまた傷付くぞ」と、警鐘を鳴らしている気がした。


「優、テレビつけていい?」


「あっ、いいよー、適当に楽にしててー」


テレビを付けると、液晶に音楽番組が映し出された。


「あ…」


Sleeping Fallの特集だ。

タイミング悪過ぎ…


すぐにチャンネルを変えたが、優は気付いたようだった。


「…お兄ちゃんはね、ハルに似てるんだ」


「俺はあんなかっこよくないよ」


「見た目とかじゃなくてね、中身が。あっ、ハルがかっこよくないって訳じゃないよ!」


「おkおk」


「もう、本当に納得してるー?」


優は背中を向けてキッチンに立っているので、表情は伺い知れない。

が、おそらく冗談混じりにふくれっ面を作っているはずだ。


「と、とにかくね、ハルとお兄ちゃんはそっくりなの」


「どんなとこが?」


「…優しくて、他人の事になるとすごく必死で。

なのに自分には自信がなくて、ひとりで抱え込んで、いつも強がってる。

だから、今日のハルみたいに、崩れちゃう時があって」


優はこんなにも俺の事を見ていてくれたんだ。

それが例え兄の面影を重ねていたとしても。

俺を見てくれてる人が、側に居たんだ。


「…私は、そんなお兄ちゃんに守られてばっかりだった。

…でもね、ハルは私が守ってあげたい。今度こそ、大事な人を失いたくない」


「優…」


涙腺が刺激される。

それを必死に堪えた。

一日に二回も好きな子の前で泣けるかよ。


「ごっ、ごめんね!

元気になって欲しいからごはん作ってるのに、湿っぽくなっちゃったねっ、さあて次は〜…」


優はわざとらしい鼻歌を鳴らしながら料理に戻った。


というか、さっきの優の言葉、「大事な人」ってどういう意味なんだろう。

単に兄貴を重ねてるだけなのか、それとも…


もんもんと思考しながらテレビを見ていると、料理が出来たようだ。


食卓には、定番の和食家庭料理が広がっていた。

鮭の切り身、肉じゃが、味噌汁、サラダ。

それに湯気を立てる白米。


「うまそう…」


「あんまり自信ないけど…どうぞっ」


「いただきます!」


料理は、本当に美味かった。

懐かしくて、優しくて、それでも味付けは男も満足できる位しっかりしていて、本当に美味しい。


「ど、どうかな?」


「うまい、うまいよ…うぐっ、優、本当にうまい、これっ」


「ハル!?なんで泣いてるの!?口に合わなかった…かな?」


優が心配そうにこちらを見ていた。


「違うんだ、なんか、こういうの久しぶりで…

料理が、優が、あったかくて…」


もう、涙を堪えられなかった。


ずっと一人でコンビニの弁当ばかり食べていた事、今日ライブハウスであった事、さっきの優の言葉。


その全てが頭の中で入り混じって、感情の発露を抑えられない。


「ハル」


優がいつのまにか俺の後ろに回っていて、抱きしめられた。


「大丈夫だよ。きっとみんなとも仲直りできるよ。

ごはんもいつでも一緒に食べよう?

ハルは一人じゃないよ。」


御茶ノ水で、俺が優に言った言葉を、そのまま返してくれた。


「ありがとう…俺、優が好きだ」



やっと、ずっと言えなかった言葉を言えた。



…だけど、この後の優の言葉は、俺が待っていた言葉とは違っていた。


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