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14話 ウェイトオブ・マイプライド

八月に入り、うだるような暑さと、やかましくもその生態を想えばどこか儚げにも聞こえてくるセミの鳴き声は、益々勢いを増していた。


初ライブの悔しさも後押しし、俺達はさらに音楽に精を出した。

バイトの間を縫ってひたすら練習に明け暮れた。

学校が使えない日は、智沙の家のスタジオに入った。


驚いた事に、智沙の父親である店長のヒロさんと相馬は知り合いだった。

相馬がスタジオに通いつめ、あの先輩方に出会ったのは、ヒロさんのスタジオ「Low's」だったのだ。


タバコをふかしながらヒロさんが話す。


「おう相馬、久しぶりだな。って、あれ、なんで春希がいんだ?」


「バンド組んでるんす、んで、こいつはドラムのマノケン」


「どうも初めまして、真野です。智沙ちゃんにはいつもお世話になってます」


「おうおう、どんどんうちに金落としてってくれ!それにしても世間って狭ェなあ、まあ頑張れ、若人達よ」



そして、夏休みの目標に掲げた5本のライブのうち、2本目、3本目、4本目のライブを順調にこなして行った。

技術的には大した進歩はしていないはずだったが、3本目のライブを終える頃には、不思議と緊張は薄れていた。

そして4本目には、眩しくて見えなかったホールも、観客の顔まで認識できる位の余裕が出てきた。


毎回見に来てくれていた優と智沙も、褒めてくれるようになり、

3、4本目は加奈と七海も来てくれた。


そして、5本目の夏休みラストライブの日を迎えた。


今日のイベントは、今までよりランクアップし、高校生メインなのは変わらないものの、高校生以上の成人バンドも出演していた。


リハを見ていたが、やはり格が違う。

曲もオリジナルで、技術レベルも相当高い。

だけどベースに関しては、うちの相馬の方が上手いと感じた。


リハの20分間、俺達は時間を出来るだけギリギリまで使うようになった。

セッティングやPAとのやりとり、メンバー同士での確認を至極慎重に積み上げて行く。

少ないライブの中で、それだけは怠らないように意識付けられていた。

きっと相馬が居なかったらこれに気付くまでにも相当な時間を要しただろう。


1コーラスの音合わせを終えると、ホールの奥で対バンの数人がこちら指差し話しているのが見えた。

確かさっきリハをしていたレベルの高い成人バンドのメンバーだ。


視線の先は…相馬か?


多少気になったものの、リハに没頭するうちに考えは霧散していた。


「それじゃあ本番もよろしくお願いします!」


ホールの対バンから拍手を浴び、リハを終えた。


いつものように相馬に話しかけられる。


「ハル、大分慣れて来たな。

後は音作りが課題だ。3ピースはギターが一本な分音域が限られるから、音作りがかなり重要になる。

まあそれは今後スタジオでベースとの兼ね合いも含めてじっくり練ろう」


「ああ、正直まだ分からないとこも多いからまた教えてくれ、いい塩梅がイマイチ掴めない」


「まあ言っちまえばそれも慣れだからな。とにかく時間かけて機材と向き合うしかない」


「おう、色々サンキュね。ちょっと上の自販で水買ってくるわ、喉乾いた」


俺が楽屋を出ようとすると、遅れてマノケンが戻ってきた。


「なんか最近相馬くん浅見と仲いいっすよねー」


「仲良くない!!!」


二人同時に声を荒げる。


「ハモってんじゃねえぞ」


「いや、今のは俺のがコンマ5早く言ったね」


マノケンは笑っている。


「やっぱ息ぴったりじゃーん。俺はドラムだから仲間ハズレで寂しいですぅ…」


「いや健二、お前はハルと違って手が掛からないんだよ。

放っといても通常の3倍以上の早さで成長するから」


「人を空き地の雑草みたいに言わんで下さい」


なんかもう、このバンドは組んでからずっとこの調子だ。

音楽に関してはとことん突き詰めて、それ以外は思いっきりふざける。

この3人の空気を、俺は密かに気に入っていた。

智沙にも


「最近のハルは楽しそう、よく笑うようになった」


と言われた。


「じゃあ俺水買ってくるから、セットリストの紙出しといて」


地上に上がり、水を買って戻ると、メイマリのメンバーが来ていた。


「うす、今日もみなさんお揃いで、ありがとうございます!」


「いえいえ〜マノケンは楽屋?」


七海が聞いてくる。

第一声がそれかよ、肉食系でモデルやってるとかチートだろ。


「多分相馬と話してるよ」


…あれ、なんか珍しく加奈が元気ないぞ。


「どうした加奈。あからさまに落ち込んでるけど」


「なんでもないです…ぐすっ」


「そうか。優と智沙も毎回ありがとな。自分の練習もあるのに5本全部来てくれるなんて大変だよな」


「ちょっと!こんなに可愛い後輩が落ち込んでるんですよ慰めましょうよ!浅見先輩はだからモテないんだ!ヴェロヴェロヴァーーーー」


加奈が指先で両目玉をひん剥いている。

幼い頃愛読していた「新・妖怪大図鑑」という絵本の中ににこんな感じの奴が居た気がする。


というか俺そんなモテないのか、凹むわ。


「ちょっと来るとき色々あってね、そのうち落ち着くと思うから!

あっ、ハルはモテなくないと思うよ!見た目も悪くないし、う、歌ってるときかっこいい、と思うし…」


智沙がフォローを入れてくれる。

さすが幼馴染み。俺のディープな魅力をよく理解している。


「うん、わたしもそう思う!前髪がバンドマンぽくていい感じだよ!」


優までもがフォローを…

今決めた、もう前髪絶対切らない。


「あ、ありがとう二人とも、なんか照れんね。

とりあえず俺楽屋戻るわ、また後で」



楽屋の重い防音ドアを少し開けると、神妙な雰囲気の会話が漏れ聞こえてきた。


相馬の声だ。

それと、数人の男の声。


隙間から覗いてみると、いけすかないメガネの茶髪が相馬に話しかけていた。

さっきの成人バンドのメンバーだ。確か、ギターだったはず。


「君、相馬巧くんだよね?ここらじゃ有名な高校生ベーシストの」


「有名かは知りませんけど、俺が相馬です」


「リハ見てたんだけどさ、なんで君程のベーシストがあんな素人コピーバンドで弾いてるの?

ドラムは伸び代ありそうだけど、ギターがザルだ。正直センスがない。

あんなのとやってたらもったいないよ」


「まあ、そうっすね。で、何が言いたいんすか?喧嘩ならライブの後で買いますよ」


「いやいや、実はさ、うちのベース就活で来月から抜けちゃうんだけどさ、うちで弾かない?

CDの全国流通も決まってる。

君が入ればもっと良くなると思うんだ」


「はあ、それもいいかもしんないっすね…」


ここで俺は耐えきれなくなり、ドアを閉めた。


…え?

嘘だ。

だって相馬は…

でも確かに、今の俺達の中で明らかに相馬1人が浮いているのも事実。


俺のギターがザルだから?

足を引っ張ってるから?

というか、マノケンもそこに居るならなんか言ってくれよ…


相馬も、マノケンも、大事な仲間だ、信じている。

なのに…

ちっぽけで、その癖ずっしりと重く引っかかるプライドが邪魔をして、俺は踏み込めなかった。



そして、疑念を振り払えないまま、ライブの出番を迎えた。


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