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11話 ローン・トレイン・ランニング

買い物を終えると、携帯にメールが届いていた。


浅見くんからだ。


「ごめん七海、色々あって俺と優はこれからギター買うから遅くなる。皆で先帰っててくれ。多分智沙がキレると思うからよろしく」


了解!と送信すると、みんなに事情を説明した。


「ハルは団体行動出来なすぎ!いつも勝手にどっかいっちゃうんだから…」


と、ブツブツ文句を言う膨れっ面の智沙を連れて電車に乗った。


加奈と相馬先輩はめおと漫才みたいな会話を終始繰り広げている。


そういえば加奈は、マノケンの事が好きだったな。

加奈はいつもふざけているけど、見た目は人形みたいでかなり可愛い。

昼ドラみたいなドロドロした展開をバンド内で繰り広げたくはない。

けど…


「七海ちゃん、どうしたー?なんかボーッとしてる」


マノケンが屈託のない自然な笑顔で私の顔を覗き込んで来る。

だめだ、この笑顔を見ると、私が私じゃなくなってしまう。

普段の、冷静にうわべを取り繕う私が、いとも簡単にペースを崩される。


「いや!なんでもないよ!ちょっと考えごとしてただけっ」


「そうかー?ならいいんだけどさー」


マノケンは、他の男の子とはどこか違っていた。

モデルなんてやっているせいか、入学してからたくさんの男の子に言い寄られてきた。

でもその誰もが、みんな同じに見えた。

見栄とか、欲とか、そういう薄汚い感情が、透けて見えるようだった。


横を見ると、智沙はずっと不機嫌そうで、黙っている。

大好きな浅見くんが優ちゃんに取られたと思ってるんだろう。

智沙達が住む喜多沢高校の最寄り駅に到着する。


「じゃあね、智沙。浅見くんの事はあんまり気にする事ないと思う…」


小声で励ます。


「気にしてないもん…ばいばい」


智沙はトボトボと出て行く。

一途な智沙はとても可愛いと思う。


「じゃあなー七海ちゃん、健二!そしてマイワイフ山田」


続いて相馬先輩が加奈に投げキッスをしながら電車をおりる。


「最低な気分です!なんなんですかあのロリコンヤンキー!一日中つきまといやがって…」


「まあまあ、いいじゃない、相馬先輩あれで結構モテるんだよ?」


「意味わかんないです!DQNがモテる理由が私にはわかりません!列になって時間差でぐるぐるまわってるだけじゃないですか」


それは偏見だと思うけど…

相変わらず加奈は思い込みが激しい子だ。


「なんかワルっぽいのにベース上手いからギャップに萌えるとかなんとか…」


「私はあのツンツン頭を見る度に先端恐怖症になりそうです!」


加奈がマシンガンのように不満をぶちまけていると、加奈が乗り換える駅に到着した。

今度は加奈がマノケンに投げキッスをしながら電車を降りた。

私とマノケンは二人きりになる。


「加奈ちゃんって変わってるよなー、まあそこがいいっちゃいいんだけど」


え?

マノケンは加奈の事どう思ってるんだろう…


「そ、そうだね!お人形さんみたいで可愛いよね!」


「んー、まあなー、金髪だしね」


とりあえず話題をかえなきゃ…胸がザワザワする。

こんなの初めてだ。


「あ、あのさ!マノケンの家って何人家族?」


「ん?四人。妹がいる。今はじいちゃんと二人暮らしだけど」


「そうなんだ…私は一人っ子なんだけど、妹羨ましいなっ」


だめだ、上手い話題が見つからない。

他人の身の上事情に入り込む勇気は、私にはない。

…そうだ、音楽。音楽の話なら!


「それにしてもさ、マノケンって本当ドラムの上達早いよね!加奈が惚れるのもわかるなっ」


…墓穴掘った?最後。


「そうかな?まあやたら練習してるしなあ。他二人が燃えてるから」


スルーされた。これは逆にショックかも。


「練習もめちゃ頑張ってるけどさ、それでもやっぱり凄いよ。絶対才能あると思う!」


「……」


マノケンは今まで見せた事がないような冷たい表情をみせる。


「…マノケン?」


「才能なんてあったって、どうしようもない。

勝手に期待されて、失望されて、最後はボロ布みたいに使い捨てられる」


そこでアナウンスが、私が降りる駅への到着を告げた。


私とマノケンは、扉とホームの、深く、暗い隙間を挟んで向かい合う。


「じゃあな、七海ちゃん。また明日ー」


いつものヘラヘラしたマノケンに戻っていた。


気の抜けた声色のアナウンスが、もうすぐ扉が閉まる事を注意喚起する。


私はとっさに、マノケンの手を掴み、手繰り寄せた。


扉は閉まり、電車はゆっくりと動き出しす。

マノケンの家がある方向へ。


「…七海ちゃん?」


「あのね!私なんだかスタベのフラペチーノが飲みたくなっちゃった!1人だと気まずいから付き合ってほしいなっ」


「…しょーがないなー、俺浅見と違って甘い物苦手なんだけどなー、あいつマジで和菓子中毒なんだ、冬とかいつもおしるこ飲んでるし」


笑いながら答えてくれた。


「大丈夫!苦いのもあるから!」



私達は、帰宅途中の人々で賑わう改札を抜け、夜の街を歩き出した。


マノケンの事が、もっと知りたい。

マイペースな笑顔の裏にあるものを、包み込んで、慰めてあげたい。


初めて感じる感情に、少し戸惑った。







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