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9話 エンカウント・オブ・フェイト

翌日、俺は雨宮と雨宮の家で待ち合わせをして、駅に向かっていた。

雨宮は大人しめの服装だ。

白いシャツに水色の薄手のブラウスを羽織っていて、下はスカート。清楚である。

初めて私服を見たが、あまりにも天使すぎる。

写メって待ち受けにしたら、携帯を開く度に幸福に包まれるレベル。


「ギターどうしようかなあ…テレキャスにしたいけど、色が迷うなあ」


雨宮はワクワクしている様子だ。

それもそのはず、今日までバイトで必死に金を貯めて来たんだから。


「うーん、水色がいいんじゃない?」


「ハル…今私の服見て適当に言ったでしょ」


「似合ってたから」


考えるより先に本心が口をついた。やばい、引かれる…


「そ、そう…ありがと…嬉しい、水色にする…」


「えっ?ああ、うん、でも色んな店まわってじっくりきめなよ」


人の幸、不幸の量は、生きているうちはそれぞれ波があれど、死んだときにみんな一定に収束する。という、多分そんなに不幸じゃなかったであろう人間が提唱したトンデモ理論がある。


しかし、今の俺はそれを信じてみたくなるくらいには、浮かれていた。


駅に到着すると、智沙と七海が手を振っていた。


「ハル!ちゃんと起きれたんだね、えらいえらい」


智沙が頭を撫でて来る。


「やめれっ、俺だってさすがに昼前にはおきんの!」


見慣れた智沙の服装は、ラフだ。

黒いバンドTシャツに、ホットパンツ。

靴はスニーカー、ナイロンのリュックを紐を長めにしてゆるく背負っている。


「本当仲いいよねー、智沙と浅見くん」


意味ありげにニヤニヤしながら七海が割り込んできた。


「うるさい七海っ!」


智沙は七海をポカポカ叩いている。


「七海ちゃんオッシャレー、さすがモデル、太ももが北国のカモシカのようだ、ラァラァ~ラララララァ」


「北の国から」の主題歌を口ずさみながら、マノケンが到着した。


うん、確かに七海はオシャレだ。

雑誌からそのまま飛び出したようなガーリーな服装に、ハンチング帽をかぶっている。


「やだー、そんなことないよー!マノケンも背高くて足長いじゃん!」


見せつけてんのか?こいつら。爆発しろ。


マノケンの格好は、まあ普通。チノパンにジーンズ系のシャツ。

爽やかイケメンだからネックレスが似合うね。


そこに、相馬と加奈のアホ二人がアホなやりとりをしながら到着した。

加奈はバンギャ丸出しの服装。縞模様のニーハイを履いている。

相馬はまあ、いつも通りのパンキッシュな格好。


なんだか、並んでいる二人はお似合いに見えた。


七海が全員を見渡す。


「みんな揃ったね、じゃあ出発!」



電車に揺られること数十分。

御茶ノ水に到着した。


楽器街は、想像以上に楽器街だった。

店頭に並べられた大量の楽器や機材を見ているだけで、胸がモキュモキュする。

あー、俺もバンドマンの端くれになったんだなあと実感。


しばらくみんなでまわっていたのだが、それぞれ目当ての品を探すうち、何時の間にか散り散りになっていた。


もちろん俺は雨宮に付いてギターを探していた。

ついでに前から欲しかったディレイのエフェクターも探しながら。

ギターの音を空間ぽく変換する為のものだ。

足元にあって、ギタリストがよく踏んでいる、アレ。


雨宮は凄まじく真剣に悩んでいた。

邪魔するのも悪いので、一声かけ、店内の中古エフェクターがカゴで安売りされているコーナーに向かった。


無造作に放りこまれているエフェクターを漁っていると、あった。

ディレイのエフェクターだ。

しかも欲しかったやつ。


手を伸ばすと、となりで漁っていた人物と同じひとつのエフェクターを掴んでいた。


「あっ、すいません」


「いえ」


お互い謝ってはいるものの、手は離さない。

ぶら下がっている値札を見ると、ネットで調べていた値段より遥かに破格だったからだ。


遠慮しろ〜日本人の美徳だろ〜などと頭の中で唱えながら、相手の顔を見ると、その人物には見覚えがあった。


誰だっけ…?

元々人の顔と名前が一致しない性分なので、珍しい事ではないのだが…何故か神秘的なイメージが脳裏を掠める。


ここで雨宮が小走りで向かって来た。


「あ、いた!ハル、あっちに水色のテレキャス…」


雨宮が固まる。

俺の隣にいる人物を見つめていた。


「お兄…ちゃん?」



完全に思い出した。

こいつは「Sleeping Fall」通称スリフォのギターボーカルだ。

そして、雨宮を置いて家を出て、1人きりにした張本人、雨宮の兄だった。



これが宿命の出会いであった事を、この時の俺はまだ知らない。






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