シュークリームの復讐
シュークリームは復讐を誓った。
かの暴虐なる女を断罪する。笑いながらシュークリームをゴミ箱へほうる、悪魔のような女だ。「ありえないくらい甘い~」「まじムリ~」などと言っていたが、ムリなのはおまえの甘ったるい口調だと言ってやりたかった。
シュークリームは、女をよく覚えている。はつらつとした瞳が特徴的な茶髪の長髪女だ。
絶対に後悔させてやる。
シュークリームはゴミ箱の中で、激甘カスタードを復讐心と共にあふれさせていた。
強い想いは邪悪な神に届いたのだろう。シュークリームは復讐の機会を与えられる。
なんと、転生できるのだ! 神様の気まぐれは凄い。
シュークリームは考えた。何に転生すれば、あの女にダメージを与えられるだろう。
結論はすぐに出た。
あの女の娘になってやる。最も身近な存在となって、あの女の一生をめちゃくちゃにしてやる。そう、悪役令嬢として生まれ変わるのだ!
そして数年が経つ。
シュークリームは無事に娘に生まれ変わり、復讐は順調に進んでいた。
「お母様、甘くて美味しいシュークリーム作りましょう」
娘の提案に、母親の顔は青ざめる。
「たった今、食べたでしょ~? 夕飯もあるし、また今度にしましょう~」
「お夕飯をシュークリームにすればいいのです。私が成績を上げるには、家族で自家製シュークリームを食べる事が必須です。当然、ご協力いただけますわね?」
そう、悪役令嬢となった元シュークリームは、成績が上がると言って、嫌がる母親に無理やりシュークリームを食べさせているのだ!
お受験にこだわる世の中で、わが子の成績は優勢事項である。わが子の成績のために、母親はしぶしぶシュークリームを作り始める。
もちろん、自家製シュークリームを家族で食べて成績が上がるはずはない。
娘は自家製シュークリームを食べるまで本気を出さなかっただけだ。
本気を出した娘の成績は素晴らしかった。あらゆる問題をパーフェクトに答え、大人を驚かせていた。そのために、絶え間なく勉強をする。全ては前世の自分を無残に捨てた、母親への復讐のために。
勉強のために、遊びの時間は削っている。悪役令嬢も楽ではないのである。
「またシュークリームか~」
父親が溜め息を吐いた。
娘は頷いた。
「お父様とお母様がシュークリームをたくさんお召し上がりになれば、私の成績もうなぎのぼりですわ」
「子供はテストの成績だけじゃなく、もっと違う事を学んだ方がいいぞ。遊んで、怪我して、泣いたっていいだろ」
父親の言葉に、母親が激昂する。
「何を言っているの~! 厳しい競争はとっくの昔に始まっているのに~」
怒っていても、母親の口調は甘ったるい。
父親は笑った。
「おまえは怒っても怖くないな。それより見ろよ、このシュークリーム。カスタードが駄々漏れだ」
父親が指差すシュークリームは、カスタードが大量にあふれていた。美味しそうには見えない。
父親は呟いた。
「このシュークリーム達、無理やり俺達の腹に入って、幸せなのかな」
娘は絶句した。元シュークリームの彼女は、シュークリームの声が分かる。今までは食べてもらえてありがたいと言っていたシュークリーム達が、悲しんでいる。
もっと美味しそうに食べてほしい、と。
あふれ出たカスタードは、大量の涙に見える。
娘は両膝をついた。その瞳からは滝のごとく涙が流れていた。
「私が間違っていましたわ。シュークリームは美味しく食べてもらうのが至上の喜び。それなのに……シュークリームを無理やり食べさせるなんて恥知らずですわ! ああ、誰か私をシュークリームに戻して。今度こそ過ちは犯しませんわ!」
「どうした? 頭がおかしくなったのか?」
父親がもっともなツッコミを入れるが、娘の涙は止まらない。
「どうか許して。いえ、許されませんわ。自己満足のためにシュークリームを冒涜したのですわ! ああ、神様。どうか私をシュークリームに戻して。そして、美味しく食べられたいのですわ」
娘は両手を組んで、祈った。すると、シュークリームの一つが光り輝く。
「本当に神様がいらしたのですね……」
娘は恍惚とした表情になる。あまりにツッコミ所満載な出来事に、両親は口を開けて呆然とした。
輝くシュークリームは、ひとりでに割れ、中身をさらす。そこにはカスタードで一言、こう書いてある。
ムリ。
「演出に無駄がありすぎますわーーーーーーーー!」
ついでに描写不足も勘弁願う。もし、シュークリームが割れるシーンの書き方があれば、感想欄にて教えて欲しい(マテ
この後、余ったシュークリームはほとんど娘が食べた。腹を壊したが、彼女に後悔はなかった。