こんな夢を観た「フユウミンになる」
朝、目を醒ますと、枕もとにカードが置かれている。
〔その者、金色のカズノコをくわえ、天上をいざゆかん by 匿名希望〕
「何だろうこれ」眠い目をこすりながら読む。さっぱり、意味がわからない。
チャイムが鳴ったので、パジャマ姿のまま玄関に立った。
ドアを開けると、ピンク色をした大きな毛玉が転がっている。
「誰だろう、こんなところにバランス・ボールなんか置いて」蹴飛ばしてやろうと足を振り上げると、ボールがいきなりしゃべり出した。
「おい、蹴るのはのやめろ。遊びに来てやったんだぞ」そのバリトンには聞き覚えがあった。
「あ、知ってる。ポンポンパウンスでしょ? また来たんだ……」わたしはうんざりして溜め息をつく。
毛玉から棒のような手足がニュッと出ている。顔はイルカに似ていて、まん丸い目と尖った口。
「そう、おれ、ポンポンパウンス。お前、今日はフユウミンになる。おれの手につかまれ」ポンポンパウンスはそう言って、細い手を差し出す。
「そんな竹ひごみたいな手、掴んだら折れちゃうんじゃない? それに、フユウミンって何さ?」わたしは聞いた。
「フユウミンはフユウミンだ。それに、おれの腕、見た目ほど柔じゃない」口ぶりからは感情を害した様子もない。
「じゃあ、握ってみるよ。折れても知らないからね」わたしはポンポンバウスの手を取った。軍手のような手のひらは柔らかく温かかった。試しに揺すってみたが、針金ほどしかないその腕は、まったくびくともしないのだった。
「へーっ、本当に頑丈なんだ!」わたしは素直に驚く。
「言ったろ?」とポンポンパウンス。
「で、これからどうなるの?」わたしは聞いた。。
「おれ、『ポンポン』と言う。そしたらお前、『パウンス』と叫べ。いいな?」
「うん」
「ポンポンッ!」ポンポンパウンスがよく通る低音を響かせた。
「パウンスッ!」すかさず、わたしも大きな声で続く。
わたし達の体は地面を離れ、あっという間に雲の上へと舞い上がった。
「すごいっ。これって、ロケット噴射か何かだよね。今、飛んでる最中? それともふわふわと浮いてるの?」興奮のあまり、わたしの心臓は痛いほどバクバクと打っている。何しろ、生身の体で空を飛ぶなんて、初めての経験なのだ。
「お前、おれの手、離していいぞ。おれ達、今、フユウミンだからな」
わたしは恐る恐る、握っていた手を緩める。
「ほんとだ、1人でも飛べてる! そうか、フユウミンって、空の住人になるってことなんだね。こりゃあ、面白い。最高だなぁっ!」
まるで、プールで泳いでいるようだ。手足をバタバタさせれば進み、休めば止まる。しかも、水の中と違って、息継ぎは要らないし、沈んだりもしない。
「気流に乗って、世界中も回れるんだぞ」ポンポンパウンスは言った。
「途中で落ちたりしないの?」
「落ちたいと願わなければ。それがフユウミンだろ? 違うか?」世の常識とばかりに答える。
「ふうん、そういうものなんだ……」
太陽の光がだんだんと強くなってきた。地上を見下ろすと、赤い帯が描かれている。
「あれ何だろう。レッド・カーペットみたいだけど」
「学校で習ったはず。あれ、赤道」ポンポンパウンスが教えてくれた。
「あ、そうか。じゃあ、もうだいぶ南に来ちゃったんだ。空の上って、そんなに暑くないから気がつかなかったよ」
「おれ、このまま南極行く。でもって、裏側を回ってから世界を一巡りする。お前、どうする?」ポンポンパウンスが聞く。
「うーん、どうしようっかな。夕ご飯までに戻りたいから、また今度にしようかな」
「そうか、なら帰れ。また遊びに行く」
「うん、また遊ぼうね」わたしは手を振って、ポンポンパウンスと別れた。
わたしは北に向かって泳ぎだした。
日本の上空まで帰ってくると、「地上に降りたい」と心の中でつぶやく。
体に重力を感じ、すーっと地面に向かう。
「慌てず、ゆっくりと静かに」わたしは自分にそう言い聞かせる。早く戻りたいと焦るあまり、すとんっと落っこちでもしたら大変だ。
たっぷりと時間をかけ、家からほど近い空き地へと降り立った。
「飛ぶ時は、こう言うんだっけ。『ポンポン、パウンスッ』」声に出して試してみたが、1ミリも浮きはしなかった。「やっぱ、ポンポンパウンスが一緒じゃないとダメか」
部屋に帰ると、テーブルの上にメモが置いてある。
〔南極の氷。かき氷にすると最高。 by ポンポンパウンス〕
なあんだ、もう地球を1周してきたのか。
冷凍室をのぞくと、大きな氷の塊が入っていた。まだまだ暑い日が続く。
せっせとかき氷を作って、残暑を乗りきることにしよう。




